義妹
「張空陽介が、電話を掛けてきたそうだ」
「……は?」
おいおい、今なんて言ったこの女? 火葬された後に残った灰が電話を掛けてきたって言ったのか?
それとも鬼才くんは実は生きていましたって言ったのか?
ふざけんなよ、おい。
「アタシは今すぐそこに行く。お前はどうする? 張空弟」
「…………ふざけるな。どうして俺が行かなきゃいけないんだ」
茶髪の目を見ながら言った……なんて出来る訳がない。俺の視線は地面に釘付けなんだから。
声も小さくて、それこそ俺の矮小さを現すくらいに小さくて。
「代わりにシキを連れて行ってくれ。あとでシキからどういう事だったのかを訊くから……」
「小月……」
「分かった………張空弟、お前ははこの後どうする? 授業に戻るのか?」
「……早退って先生には言ったからな。大人しく家に帰るよ」
そう言って、俺は下を向いたまま立ち上がった。
「シキ、早く帰って来いよ」
シキの顔も見ずにそう言葉を掛け、俺は早々に帰宅する事にする。
少しばかり自分の手が、震えていた。
「秋音……?」
玄関には、義妹の靴があった。
アイツ、今日は学校だろ………ってそうか。確かアイツも裏の世界に関わってたんだっけ?
狐狩りの時に、確か会ったよな。
俺は自室に逃げ込む前に、リビングへ行った。
理由は何となく……と言いたいが、不透明ながらもしっかりとした理由は有った。
「……やっぱり帰ってきたの」
「俺が帰ってくるのは予想済みだったのかよ」
少しばかり呆れながら、俺はいっつも座ってる椅子に着く。
「……帰ってきたら、シキが居なかったんだけど」
「シキなら俺の代わりに行ってる」
「……シキに押し付けたんだ」
「失礼な物言いだ。俺には俺のやるべき事がある」
「……帰宅は使命じゃないと思う」
「張空陽介について、知ってることを話してくれ」
俺は義妹の目を見て頼み込む。
義妹は俺の見つめ返してくる。日本人離れした灰色の瞳と金髪……実際に本当に日本人か分からない。
7年前に両親が勝手に連れてきて勝手に家族にした少女、張空秋音。
コイツは5年間、張空陽介と家族だった。
俺とはまともな会話なんて一切してこなかったが、兄貴とはある程度しただろう。
ほんの少しでも兄貴の事を知っている。
「……そっちの方が、付き合いが長いじゃない。実の兄弟なんだから」
「情報を集めてるんじゃない。張空陽介が俺の知らないところで何かしてたのかを訊いてるんだ」
茶髪には俺が火種になると言っていた。だけど兄貴は一切俺にはそんな事を言っていない。
俺の知ってる張空陽介だけじゃダメだ。ピースが足りない。
シキと出逢ったあの日、廃墟にて姿もない野郎に俺はこう言われた。
『彼の駒になるか、駒にならずに死を選ぶか』
随分とムカつく言葉だったために一応今でも覚えてる。
彼、というのは言うまでもなく張空陽介の事だろう。鬼才の駒になるか死ぬか。
それにあの声は他にも色々と言っていた。
『今、場所を、教えても、ゲームの、最中だから、立ち入る事も、殴る事も、出来ないよ』
『2年前、ココで、殺された、事に、なっている、人物、でしょ』
殺された事になっているという事は、火葬された死体は偽物で本物は……ゲームをしているらしい。
ゲーム……テレビゲームとかそういう類なら別に一発殴ってやれば気が済むのだが、茶髪に教えていた事が気になる。
姿もない野郎は、兄貴に俺の事を聞いたと言っていた。
その兄貴は、俺が火種になって何かが起こる事を知っていて、俺には教えずに茶髪に教えた。
まさかとは思うが、そのゲームっていうのは――――。
「……何を考えたかは知らないけど、陽にぃは悪党じゃないよ」
「それでいい。そのままお前の中にある張空陽介を言っていけ」
「……今のアンタは、危険だと思う」
「俺の事はどうでもいい。張空陽介の事を―――」
「……死ぬ前の陽にぃと同じになってる」
「…………俺が兄貴と同じ?」
義妹の一言に思わず聞き返してしまった。
兄弟だから同じ事がある、という法則はこの世には無いが、もしも義妹の言った言葉が正しくて今の俺が死ぬ前の兄貴と同じになっていたとしたら。
今の俺の感情と同じものを感じていた可能性がある。今の俺の感情は……疑念とほんの少しばかりの恐怖。
自分の予想が当たっているのかどうかの疑念と、当たっていた時の恐怖。
兄貴は鬼才。解読者とまで言われていたほどの鬼才。予測を確信に変えるために義妹に何かを訊いたのかもしれない。
同じ感情っていうのは案外あり得るのかも。
「最後の質問だ。その時、兄貴はお前に何を訊いたんだ?」
これ以上、義妹に質問をしない事を前提にしないと答えそうになかった為、仕方が無くそうした。
それに義妹からそんなに多くの情報が取れるとは思っていなかった。
義妹に聞くよりも茶髪に聞いた方が、情報が多く取れる。
義妹に聞いたのは、それこそ何となく。無理して聞く事は無かったが、いるならば聞いておいた方がいいだろう。
「……アンタの事を訊いて来たの」
「俺……?」
「……弟がよく悪夢を見るけどその事について何か相談されたりしないかって」
「悪夢、か………」
………兄貴が何をしかけているにしろ、結局は俺が鍵になるわけか。俺自身にヒントがあるってか。
それとも、兄貴がわざわざ俺を鍵にしたのか。
どちらにしろ、次に聞く相手は決まった。どうやって聞くかが思いつかないけど。
「……死ぬの?」
「お前はいきなり何、物騒な事を言ってんだ」
俺が席を立とうとした時、義妹が本当に物騒な事を言ってきた。
「なんで俺が、兄貴うんぬんで死ななきゃいけないんだよ」
「……一応、聞いただけだから」
「そうかい。まあ一応、心配してくれたって風にとっておくよ」
まったく。毎日ゴミのように思っている相手に心配なさるとは、それほど兄貴は義妹の中では大きい存在だったのかな。
その姿を思い出しただけで、俺の事まで心配させるとは……兄貴は本当に凄い野郎だ。
俺は今度こそ席を立ち、部屋を出ようとする。
「……――――だから」
「あぁ?」
ボソリと言った義妹の一言が気になって、また俺は立ち止まってしまう。
そもそも考えてみれば、義妹とこういう風な会話をする機会なんて全て棒に振ってきた。
だからその一言が気になったのかもしれない。
「……一応、アンタみたいなボロクズみたいでヘタレで金づるで弱々しい人間でも家族だから、陽にぃみたいに勝手にいなくなったりしないか心配はするよ」
絶句。絶句である。
聞きました皆さん。ツンデレですよ! 散々罵倒した上で心配なんて、しかもあの義妹が!
きっと変なお薬でも飲まされてしまったんでしょう。それともこれが兄貴の実力か!?
くそっ! 鬼才で婚約者がいるなんて、そんな奴にこの小月さんが勝てるわきゃ無いっすよ!
むしろ感謝を…………っと何でもない。
それよりも返答をしてやらないとな。仕方が無い。
あれでも一応、俺の家族なんだから。
「俺を兄貴と一緒にするなよ。何も言わずに勝手に死んだり、家出したりはしなねぇーよ。ちゃんとお前に言ってからくたばるよ」
「……陽にぃとアンタが一緒なわけがないでしょ。下衆が」
思わずコケそうになる。一言余計なんだよ、一言! 下衆とは何だよこの野郎!
ったく。結局デレは幻か、兄貴が仕掛けた罠か。
俺は少しムカつきながら部屋を出て行く。
ともかく、いつまでも義妹にムカついてるわけにはいかない。次の相手の事を考えないと。
多分もう、世界は進み始めてるんだから。
タイトルなんかに意味はない




