序曲終了
「…………ぅん……?」
「珍しいね。篠守君が外で寝るなんて。余程疲れる事があったのかな?」
量産的に並べられた座席と低い天井、小さな窓がすぐさまオトアの目についた。
隣の座席から話し掛けてくる自身の雇い主の姿を見ることなく現状に至るまでの出来事を思い出し、自身が夢を見ていたことに気付いたオトアは少し溜息を吐いた後に、ふと疑問に思った事を口に出す。
「この旅客機、貸切か?」
自分たちの他にシキ、小月、秋音の三人が前方の席に座らされている。
しかしそれ以外の乗客の姿はどこを見渡しても見つからない。
「そうだよ。小さ目の奴だけど貸切だからお金掛かっちゃたの。あとで篠守君の給料から天引きしようかとも思ったけど、経費で落ちそうだから止めとくね」
「経費ッて……そもそも、その経費を払うのもアンタだろ」
「金はあるけど無駄遣いは禁止されてるの。だから便利だよね、経費って言葉は」
その言葉にオトアは若干呆れつつ、しばらくの間、自身の記憶の整理をしていた。
夢の内容があまりにも現実的……もっと言えば過去に体験したような話だった為に現状との区別がついていないのだ。
何から雇い主に報告するべきか、何が夢であって、何が現実なのか。
それらを整理し、簡潔に理解しやすくしてオトアは雇い主との交渉を始める。
「雇い主、アンタの使える駒はいくつだ?」
「えぇーと……篠守君を含めて二人ね」
「ショベェ」
「うるさい。いきなり何の話」
「アンタがやりたかッた事の仕掛け時が来たッてわけさ」
「……張空陽介と【虚無の王】がやらかす事が分かったと?」
「いいやァ、まったく。ただ最低限【虚無の王】を引きずり出す事はできる。そォすりャ必然的に張空陽介も出てくるだろォ?」
「何をする気?」
「狐狩りを誘発させる。それも早急に。そォだなァ…………アンタが協力してくれるならば三ヶ月ちょいで起こせるんじゃないか?」
「何でわざわざ狐狩りなの? しかも誘発って事はこっちが狙われるじゃない。そこまでして仕掛けて本当に出てくるの?」
「出てくるさ。魔神も出てきたぐらいだ。絶対に出てきやがるよ」
「まあ、篠守君は今まで色々とお仕事してきてくれたからその言葉も信用に足るけど……どれくらい急ぐ必要があるの?」
「言うなら今すぐにッて所か。行動開始が今すぐに出来ないとしても三ヶ月以上待つことはできない」
「……そー言われてもねー…………」
雇い主は座席により深く凭れながら何かを思案する。
その内容はオトアにも察しがついた。
おおよそ雇い主はオトアの案を受け入れるつもりでいるのだろう。自分のその位の行動は起こそうと画策していたし踏み切れなかった所をオトアの言葉によって押された形になるが、行動をすること自体は問題なく受け入れるつもりでいる。
しかし唯一問題があるとすれば戦力。彼女を含めて集団としての人数は3人。それだけで多くの敵を相手にし、その上、解読者と正体が分からない呪いを相手にする。さらにオトアの話によれば【虚無の王】には強力な右腕がいるという話だ。
それをたった三人で迎え撃つ。この三人の中で一番強力なオトアですら叶わない相手を含めた敵全てを。
それはいくらなんでも無理過ぎる。現実的ではないし、この行動は途中で潰されてしまうだろう。
その為、行動を了承する言葉をオトアに向かって返せない。
戦力の目途が立っていればまだしも、何も伝手を作っていないこのままでは…………。
「張空陽介の張ッた策に乗るッてのはどうだ?」
「…………えっ?」
「魔神を元の状態に、本来の肉体に戻させる。そォして上手くすれば魔神はこちら側の戦力になるだろォ」
「でも……いくら何でもそう上手く事は運ぶかしら」
「運ばせる。そォでなくっちゃ、そもそもアンタの行動すべては無駄に終わるぜ」
口元を歪ませながらオトアは雇い主に挑発を掛けるような言葉を発した。
別にその程度の挑発に乗るほどに雇い主もバカではない為、無視したって構わなかった。
だがオトアの言葉は事実だ。雇い主がノーと言ったとしてもオトアは独りで勝手に行動し、その結果、当然死ぬだろう。
そうすれば唯一無二と言ってもいい戦力を失う事になる。
ここで仕掛けなければ、どちらにしろ自分の画策は水泡に帰すだろう。
どんな言葉を発しようと雇い主の希望は果たされる可能性がない。
唯一まだ1%以下だが、可能性があるとしたらそれは―――。
「はぁ……分かったわよ。篠守君の楽しみがそこにあるように、その結果に私の楽しみがあることを祈ってるわ」
「これはどうも。従業員の我儘に付き合ッてもらッて……恐悦至極、感謝の極みでございます」
「もうちょっと、心の籠った言葉が欲しいわね」
その言葉を最後にして、雇い主はオトアとの話を終わらせて携帯を取り出しキーを打ち始めた。
どこかへのメールの作成でもしているのか、それとも単に文章を打っているだけなのか。
オトアには雇い主の行動を一々察する気などなく、ただ己の掌を見て頬をつり上げるだけだった。
「……ようやく」
ようやく自分の祈願が、自分の努力が、自分に残された最後の感情が、報われる時が来た。
8年間、延々と待ち望んだこと。それがもうすぐ自分の元へと訪れる。
「大嫌いなアンタを殺せるよ…………隼綛白兎」
その独白は誰の耳にも届く事なく、静かに、時と共に世界を蝕んでいく。
はい、これでNOISE.2は終わりです。だって終わりたいんだもん。
後は皆さんの脳内補正で勝手に物語を完結させてください。
でも余計な事を言うと、NOISEは小月の物語で、NOISE.2はオトアの物語だったように感じるんですよ私的に。
それでも放置するんですけど結末など。
気が向いた時に続きは書くかもしれないし、書かないかもしれないぃー!




