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NOISE.2  作者: 坂津狂鬼
8年前
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敗北と殺害

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


(……何が起こった…………?)

反転した視界の中で、誰に問うことも出来ず、自身の心中で答えを探す。

オトアの思考は事態に対して追いついていなかった。

隼綛は《処刑刃ギロチン》が自身の力と拮抗するものだという前提を無視するように、刃を避けながら右腕を掴みとりそのまま腕ごとオトアの体を捻って、そのまま腹部に向かって上げた踵を落とした。

不可視の鎧(インビジブル ロック)》によって衝撃は無かったものの、そのまま隼綛の足に押さえ付けられて身動きを取る事ができなかった。

(……何が起こった…………?)

思考は未だ追いつかず、オトアは自身の敗北を悟ることすらできていなかった。

しばらくすると隼綛の小さな溜息が聞こえ、それと共にどこからか足音が近付いて来ていた。

「……そっちは上手くいったんですか、王様?」

「残念ながら居なかったよ。先に悟られたか、それとも偶然的に居なかっただけか」

「どちらにしろ、そっちは失敗したんでしょ? こっちはお仕事早めに終わらせて、お楽しみ中だったっていうのに」

「その踏んでいる少年の事か?」

「そうですよ。久しぶりに自分と同質の奴と出会えたっていうのに、タイミングが悪い」

隼綛と話しをするのは女性で、オトアの視界にも映った。

普通のどこにでも居そうな20代前後くらいの女性で、何故、隼綛と話をしているのかさえ不思議に思えるような雰囲気を持った女性だった。

「魔神は殺せても、解読者の方は殺せず仕舞い。どうするんですか王様」

先程から敬語で女性と会話をする隼綛の声音にはどこか面倒臭そうな気持ちが混じっている。

対する女性も参ったような態度で先程から話をしている。

この二人にとって何かまずい事でも起こったのであろう。オトアには関係の無い事だが。

「ともかく日を改めよう。神を一つ殺しただけならば気付かれまい」

「最適な策ではありますけど……はぁ…………なんならもう少し解読者を探していてくれてればよかったのに」

隼綛はオトアから足を退かし、女性の方へと向かう。

このままあの二人は退散するつもりなのだろう。

二人にとって今この場に留まる理由など無く、その行動は当然のものである。

しかし二人にとっては当然であれ、その行動を芳しく思わない者もいる。

(殺せ……なかった…………)

仰向けに倒れながらオトアはとてつもない消失感に見舞われていた。

それも当然のことである。自身の全てをかけた特攻をいとも簡単にあしらわれた。

その原因は時間。あの女性と会う時間になった為に隼綛は加減をせずにオトアを下した。

それ以外にも敗因はあるだろう。《処刑刃ギロチン》が隼綛と張り合える力ならば効果があると思い込んだこと。一突きを隼綛が躱せないと思ったこと。加減した状態の隼綛ならば殺しきれると思ったこと。

様々な原因はあるが、それでも一番の敗因は隼綛が本気になった事だろう。

今のオトアでは隼綛には届かない。その程度の事はオトアも分かっていた。

だが、それでも殺すと、殺しきれると思っていた。

それでも。

(…………殺しきれなかった……)

隼綛の宣言通り、今のオトアでは隼綛には届く事は無かった。

もう少し、オトアの肉体が成長していたのならば、雑音拒絶を使いこなせるための時間があれば。

もしかすれば隼綛を殺す事も叶ったかもしれない。

(……殺さなきゃ…………)

まだオトアの体は辛うじて動く。動く気力すらあれば《不可視の鎧》で締め付けて、無理矢理、体を動かす事ができる。

殺す事が出来る。

出来るのならば、オトアはそれをしなければならない。そういう道を辿ると唯音を失った時から決めたのだから。

自分自身を殺してしまったあの時から、その道を辿ると決めたのだから。

「…………ァ……」

「……?」

「…………どうした隼綛?」

オトアが発した小さな呻き声を不審に思い、立ち止まった隼綛と共に女性もその場に立ち止まる。

女性の問いに対して、隼綛は返す事なく仰向けに倒れているオトアを睨み続ける。

(…………まさか、敗けたって事を分かってないのか?)

虫の息のような呻き声一つで、オトアがまだ殺す気でいることを察した隼綛は困惑する。

オトアならば敗けたことに気付いた瞬間に、さらに殺す方法を探すはずだ。

オトアを下したあの一瞬、隼綛は本気で対峙した。故にオトアの才能が導き出す答えは必ず時間を要するものとなってしまう。

だからオトアがもう隼綛に挑むことないはずだ。

なのに今、オトアは何かを殺そうと立ち上がろうとしている。

可能性としては二つ。

敗けたことに気付いていないのか、もはや自身が死ぬことになっても構わない暴れるだけの獣となってしまったのか。

「ァァ……ァア…………」

どちらにしろ隼綛は自身にくるものを対処するだけ。

首の関節を鳴らしながら、オトアと戦う時には一切出さなかった殺気を漂わせる。

もしも今のオトアが後者である獣と成り果てたのなら、少しばかり殺すのに骨が折れる。

すべての殺す方法が分かり、すぐさまそれを実行するような獣など自然界にいるかすら怪しい。

本物の怪物を相手にするようなものだ。

しかしそれには少しばかり、隼綛の心を躍らせる甘美な響きがあった。

「……ァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

叫びと共に爆風を起こし、無理矢理自身の体勢を整え、標的に向かって直線上に爆風によるにして迫るオトア。

その直線上に居たのは隼綛では無く。

「……ッ!? ぐふっ…………」

伸ばされたオトアの手刀は女性の心臓を一突きに、断裂した。

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