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NOISE.2  作者: 坂津狂鬼
8年前
59/66

交差路

タイトルなんかに意味はない

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「《暴風の(インビジブル)―――――鉄槌(バースト)》ッ」

オトアの腕が伸ばされると同時に、幾重にも重なった暴風の槌が隼綛を押し潰すように放たれる。

しかし隼綛はそれを体を回転させながら両手で切り裂き、事無きを得る。

地面に着地した隼綛は一息吐きながらオトアへと笑い掛けながら言う。

「いやァ、今のはヤバかッた」

「…………チッ」

仕留められなかった。その事実がオトアの頭を悩ませる。

自身の才能に従い、思考に従い、直感に従い、攻撃を躱して死へと至る一撃を放った。

本来ならば隼綛はもうここで死んでいたはずである。それを奴は回避した。

殺す才能が負けたのだ。隼綛とオトアの実力差の前に。

(……想定外でも無いが、隼綛の加減している力がどの程度なのかが分からなければ正確には殺せないか…………)

自身の才能はあくまで今の状態の(,,,,,)隼綛を殺す方法しか考えられない。

まだ実力として何かを隠し持っていたとしても、隠している状態の隼綛を殺す方法しか考えられない。

それがこの才能の欠点。あくまで五感で捉えた情報でしか殺害方法を考えられない。

「別にそんな悔しそうにされてもなァ……お前は十分頑張ッてると思うぜェ」

「結果にしか意味は無い」

「厳しィ。もッと柔らかく物事は考えるべきだ」

「過程なんてものは、幾らでもどんなものでもいいんだよ」

そのままオトアは隼綛に向かって走り出す。対して隼綛はそれを待ち構える。

期待しているのだ。次のオトアの殺し方に。オトアの才能がどう回るかを。

(槌じゃダメだ。掌底という形で何処に向かう攻撃かがバレる……もっと直感的に操れて、相手を殺せる武器を…………)

感情に、欲求に、才能が、直感が、思考が追い付いてくる。

オトアが求める武器を、オトアの力で、オトア自身の手に創り出す。

(…………風の束……暴風の剣……)

それは剣と呼ぶよりは、棒などの形状をしていた。ただ本当に風の束を集めただけの物。

両手にそれを創り出し、隼綛に向かってデタラメに振るう。

「今度は何だァ? 剣術とかの真似事かァ?」

そう間延びした言葉遣いで挑発する隼綛だが、さっきの槌に対する回避よりもその動きが多くなっている。

オトアがデタラメに振るっているはずの風の束が着実に確実に、隼綛を殺す為の軌道を描いていく。一撃でも回避が遅れてしまえば、それこそ死へと至ってしまう様な。そんな軌道をデタラメに振るうことで描いていく。

無意識に、殺意を持って。

「あァ、厄介だッ! その才能はトリガー引いたら後は全自動ッていう事かァ!?」

「さあな。殺せれば十分だから、深い事は考えたことがない」

「ハッ! イイねェ、シンプルで。そォいうの嫌いじャないッ!」

風の束を回避するのを止め、それぞれを片手で受け止めて切り裂く。

武器を失ってしまったオトアは退くために、停められてあった複数の車を爆風で隼綛に飛ばしながら身を引いた。

隼綛は自らへ飛んでくる車が来る前に、空間を切り裂く。

「だがァ、単純すぎて読み易い。才能をもっと活用しろォ」

「ッ!?」

異空間の中へと入り込む複数の車は、次の瞬間には矛先を変えてオトアへと突撃しようとしていた。

そもそも瞬間移動が隼綛自身にしか適応されないわけではない。

空間を埋めるという概念で移動しているのだから、当然、他の物にも通用する。

一瞬にして周囲を車に囲まれたオトアは―――――――、

(……アイツは殺す…………ッ!)

―――自分が死ぬかもしれないという状況下でも、そういう事しか考えられない。

もうそういう人間なのだ。いや、元々そういう人間だった。

音亜として生きていた時は、唯音の為に全てを注ぎ。

オトアとして生きている今は、世界を壊す為に全てを注ぎ込む。

そういう生き方を選んだのだ。そういう生き方に堕ちたのだ。そういう生き方しか無いのだ。

故に、その生き方に応える才能がある。

「…………ッと……これはまた厄介な」

オトアへと向かった全ての車が弾かれるように真逆の方向へと散る。

自身へと向かってきた車両を片手で両断すると共に、隼綛はそう呟いた。

暴風の鎧。

それを纏いながらオトアは平然と立ち、隼綛を睨み付けていた。

「自分に来る攻撃すべてをそれ以上の力によって周囲に拡散させる、かァ…………」

「これで、殺し易くなった」

「ハァ…………」

オトアの台詞に溜息を吐きながらも、隼綛は心の中の興奮を抑えられそうになかった。

高速で繰り返される攻撃を躱し反撃することも、これだけの短時間で自身が得た力を使いこなす事も、どんな人間でも不可能だ。

オトアが雑音拒絶を得てから1時間も経ってはいない。その上、彼はまだ小学生。子供なのだ。

どんな神童でも、殺人などの倫理観は置いといて、同じことは出来ないだろう。断言してしまってもいい。

この目の前の少年は人間としての域を超えてしまっているのだ。本当の意味で。

彼はもう怪物だ。その才能、その感情、その全てが彼を怪物として成り立たせている。

「そォいや、オレの名前は知ってるようだが……お前の名前を知らねェんだわ。オレは」

「…………篠守……オトア」

「篠守ねェ」

死の神。ふざけた苗字だ。まさしく彼の事を指している。

人を殺すべくして生まれてきた、人を殺すための存在。

人を殺せる力、人を殺す事に動じない心、人を殺す為だけの才能を備えている怪物。

その名は篠守音亜。

「オトア。お前はさっき訊いて来たよな。オレを殺せるかどうかを」

「あぁ」

「あの時の答えは撤回だァ。今のお前じゃオレには届かない。だけどいずれオレを殺せる程になる」

「戯言を。オレは今すぐにお前を殺す。未来とか将来とか、そんな形の無いものに興味も関心も無い」

「そォか。しかしだなァ……オレもこれ以上は加減するのが無理になッてきそォなんだ。だからお前はオレに勝てない」

「お望みならば」

空間を裂き、オトアの目の前に移動してきた隼綛はそのまま拳を振るう。

暴風の鎧を切り裂いてくる拳を避けながら、オトアは風の束を創り出し反撃に出る。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


一方その頃。

オトアと隼綛が戦っている屋上駐車場よりも遥かに下、一階においてとある兄弟が息を潜めながら移動していた。

張空陽介、そして張空小月である。

「兄ちゃん本当凄いな……凄すぎて羨ましくなれねぇ」

「あぁ。兄ちゃんも自分の冷静さに嫌気が差すよ」

彼ら兄弟はたまたまこのスーパーに来ていた。

今年も帰ってこなかった両親について親戚から、あの放浪夫婦から引き取るべきではないか、という話が上がってきてしまい一時的に叔父の家に来ていたのだ。

そして今日、親戚会議をするために料理が必要となって大量の食材を買ってくるためにこのスーパーへ来たのだ。

本来なら陽介のみで行くつもりだったが、小月が連れて行ってくれと言ってきた為に同伴したのだ。

それが結果、こんな事件に巻き込まれる事となるとは……。

いきなり起こった爆音に、爆撃。高速で移動する獣のようなものに、突然裂かれたように崩れる物。

挙句の果てには、暴風が吹き荒れる事態だ。

一体ここで何人の人が死んだだろうか。どうして死ななければいけなかったのか。

そのような考えよりも先に陽介の頭に浮かんだのは、自身たちが生き残ることだった。

今は騒音が上からするようで、最悪、このスーパーは丸ごと倒壊するかもしれない。

そんな予感がしていたが、陽介は焦らず冷静に移動していっていた。

まだ誰か自分たちを殺す者が残っているかもしれないからだ。

「……兄ちゃんっ、あれ」

「あれは…………」

一人の少女が倒れていた。白髪で、まだ小月と同じくらいの歳であろう女の子が倒れていた。

血溜りの中に。

おおよそ、女の子の周りにある赤い液体全てがあの子の物だったのだろう。

致死量を超えている。もう助からない。

陽介はそう検討付けると共に、小月に見ない様に注意しようとしたが。

「……かほっ……けほっ…………」

予想とは違って、少女はまだ生きていた。

苦しそうな乾いた咳をしながら、自分の胸に手を当てている。

「兄ちゃん、助けないの?」

「…………」

弟にその答えを返せないでいた。

まだ辛うじて生きている少女。それを助けるのが人間的には正しいのだろう。

しかし、どうやっても助からない。あの出血量ではまず確実に。

ショック死していない方が不思議なくらいなのだ。彼女を包む血溜りの量が。

助けたことで小月がその心にある程度のショックを受けてしまうかもしれない。トラウマになってしまうかもしれない。

「……助けよう」

だけど、自分は小月の兄だ。

放浪していて滅多に帰ってこない両親の親代わりなのだ。

人として正しいことをして、もしもその事でショックを負ってしまったのなら一緒に背負ってやればいい。

その決意を言葉として、陽介は言った。

しかしその決断は、間違いであった。

もしも倒れている少女が魔神などではなく、本当にただの少女ならば正しいのかもしれない。

しかしそこに居たのは、篠守唯音という名の少女だったのだ。

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