弱さ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「唯音、どこだー」
見知らぬ町の中で人を捜すなんて無茶なことを自分でもよくしようと思ったものだ。
でもまあ、何もしないっていう選択は僕にはきっとできないだろうし。
住宅街を抜け、国道の近くまで行ったり、また住宅地に戻って公園がないか探したり。
ともかく簡単に言えば、唯音は中々見つからなかった。
「シキが嫌がってるでしょ」
自分自身も迷子になる前に、一旦、鑑さんの家に戻るかなどと考えている最中……どこか遠くから唯音の声がした。
その声を頼りに進んでみると、見事に公園があり、そこに唯音とシキちゃんが居た。
確か話だと亜実という人物も一緒だったはずなのだが……また唯音が何かの無茶を言って、シキちゃんと引き剥がしたのかもしれない。
それとも単純にお昼になったから途中で帰ったのかもしれない。
「なんだよ、うっせーよ!」
「……っ?」
二人に声を掛けようとしたが、どうやらそう言った雰囲気ではないらしい。
唯音と対峙するように立っている男の子たちが数人いた。
まあ公園だし、二人以外の人物が居たっておかしくはないし、子供なんだし、遊具などのことで揉めてでもいるんだろう。
あまり喧嘩になる前に仲裁に入るべきか。
僕がそんな甘く悠長なことを考えいると、男の子の一人が近くにあった石を掴み。
「だまれよっ!」
唯音に向かって投げた。幸い、それは唯音にもシキちゃんにも当たらずに過ぎていくだけだったが……。
――殺す。
アレはまだ体も小さく全てにおいて成長の途中ではあるが一撃では死なないだろう。だが同時に成長の途中であるために自身が味わったことのない痛みに対しては何の耐性も無い。全体重をかけて殴りつければ最悪顎が砕けて死ぬだろう。死ななかったとした場合はそのまま吹き飛んだ体を押し潰せばいい。単純に行こう。そのまま首を両手で絞める。一掃には時間が掛かるが中々の演出になるだろう。逃げ出すことなどさせぬ間に全員を殺す。
洞察と考察と推察を終え、頭の中のシュミレーションの終了と共に姿勢を屈める。
男の子……対象共は皆身近にある石を持ち、唯音たちに向かって投げようとしている。
…………これでもう罪悪感は無くなった。全員、殺る。
自身の脚に最大の力を溜めこみ、放出させ―――――、
「おい、お前達何やってんだっ!」
―――ようとしたところで、鑑さんに頭を掴まれ止められた。
怒号によって男の子たちはヤバいとでも思ったのか、一斉に逃げ出して公園を後にした。
唯音たちも鑑さんに頭を掴まれてる僕を見て、いまいち状況が分からなそうに首を傾げていた。
「僕にはあの子たちがシキや唯音ちゃんに何をしようとしたかは知らない」
「…………」
「でも、君は今……やってはいけない事をしようとしたんだよ」
「……ッ」
「割と抵抗してくるね。言っておくけど、彼らは逃がすよ。殺させない。僕たちはこのまま家に戻る」
黙れ。うるさい。失せろ。殺すぞ。アイツらは殺ると決めた。
脚に溜めた力を爆発させて追いかけようとするも、鑑さんに抑えつけられて動けない。
こんなに力があるとは、予想の範囲外だった。
「取り敢えず、ごはんを食べようか。その後にお説教だ」
「…………僕も君のことを言えないね。甘やかしていた。平気なんじゃないかと思ってた」
「……」
唯音やシキちゃんたちを部屋に入らない様に言いつけ、僕の真正面に鑑さんが座る。
頭を抱えて、それはどこか悩んだように。
「……君は、その才能でいずれ人を殺す。絶対に」
そして断言した。僕の未来を。結末を。
望もうと、望まなかろうと、僕は人殺しになってしまうと断言してきた。
「君はさっき言ったね。唯音ちゃんがいれば自分の殺意を抑えられるって。僕は正直、逆だと思っている。君は唯音ちゃんがいるからその才能を開花させてないけども、唯音ちゃんがいるからこそ、その才能を使用する。僕はそう思ってる」
「…………」
「もっと言えばね、魔神よりも君の存在の方がよっぽど危険だ。抑えが効いているうちはまだいいが、唯音ちゃんという枷が無くなった時……」
鑑さんが途中で言葉を止めた。それは多分、本人にもよく分かってることだと判断したからだろう。
でもはっきり言ってもらって構わない。はっきりと言ってもらった方がいい。
先程の興奮状態から醒めた今ならよく分かる。
僕はいてはいけない存在だ。言い換えるのならば殺人鬼。いや殺人機械。
人が作る中でもっとも必要ない存在。誰からも歓迎されない、誰からも誕生を祝福されない、誰からも価値を認められない。そういった存在。そういった才能。
僕が抱えているものは核爆弾と同じ。いらない物。いてはいけない者。
「僕は……君たち兄妹に、できれば幸せに生きて欲しい」
呟くように鑑さんは語る。
「どんに捻くれてもいい。どんなに我儘でもいい。都合のいい時にしか働かなくてもいい。悪人にだけはなってほしくない。どんな育ち方をしてもいいから、人を傷付けるのだけは止めて欲しい」
「……無理ですよ」
とうとう自分の口からそんな言葉が漏れ出した。
それは弱音か、本音か。僕自身にも分からない。ただ口が勝手に動くだけ。
「多分そういう気質なんですよ。そういう本質なんですよ。人を殺すためだけに生まれてきたってわけじゃないでしょうけど、人を殺す術を得て生まれてきたんです。人を殺す事に躊躇いを持たない心を得て生まれてきたんです。多分ですけど、どうしても殺しちゃう。止めたくても、止めたくても、自身の奥から生まれる衝動に、他人から与えられた理由に逆らえない。殺しちゃうんですよ、僕は」
「…………甘えだよ。そんなもの」
僕の言い訳を、僕の諦めを、そんな言葉で鑑さんは一蹴した。
「君は人よりずば抜けて、人を殺し易いだろう。でも殺したくない理由があるんだろ? 妹さんと出来る限り永遠に一緒に居たいんだろ? だったら、そんな言葉は甘えだ。本心じゃない」
「……でも」
「正直、僕は神様の力を持った奴が怖いよ」
鑑さんから出た言葉に、思わず驚いた。
あまりにもそうには見えないから。唯音を挑発し、シキちゃんを預かって、二人がびしょ濡れで帰った時も世話をして。
そんな人から、そんな言葉が出てくるなんて意外だった。
「僕は君とは違って何かをする才能なんてない。その上、無力だ。唯音ちゃんにいつ殺されたっておかしくない。シキにだって嫌われたら、殺されてしまうかもしれない」
「でも、二人が鑑さんを殺す事は無いと思います……」
「だろうね。二人とも優しいから。でもね、結局は怖いんだよ。そんな可能性を生み出す彼女たちが怖いし、そんな可能性を持たせる力が怖いし、そんな可能性を思いつく自分が怖い」
「…………」
「怖くて仕方ない。そして同時に思うんだ。力が無い自分がこんな考えを回すのはともかく、力がある人間が、集団が、こんな思考をすれば彼女たちはどうなるだろうって」
当然、迫害される。殺しにかかろうとする。
彼女たちは逆らうだろう。正当防衛というものだ。
そして人が死ぬ。
「嫌だね。あんな子供が人殺しになるなんて、考えたくもない。だから怖くても震えそうでも彼女たちを少しでも守れる方へと進もうと思った」
自身が恐怖と立ち向かう事で、彼女たちが人を殺さなくて済むのなら。
無駄に罪を背負わなくなるのならば、自身の弱さなど捨ててしまえ。
そう鑑さんは思った。だからそうしてる。毎日を自分の弱さと戦いながら。
「…………でも、僕は」
同じことができるとは思えない。
鑑さんにできたからといって、僕にもできるとは限らない。限ってくれない。
「そう言うと思ってた。僕がどれだけ言おうとも、赤の他人だからね。アドバイスしかできない」
鑑さんはそう言いながら、部屋を後にしようとする。
そして扉を開ける前に、一言。
「だから最後に一つ。君がその才能を使う理由があったとして、その理由となってしまった人物の気持ちまで考えてあげたことはあるかい?」
扉を開け、部屋を出て行く鑑さん。
そして部屋には僕一人…………だけでは無かった。
「音にぃ」
鑑さんと入れ替わるように、理由が入ってきた。
こんな文章書いてる奴の頭ん中はどうなってるんだ?




