嫌なんだよ、こういう展開………
「――――お前らのせいで、近々大きな戦いが起こる事になっちまった」
…………………………………は?
「…………それって、どういう――」
「って言うのが今日のしし座の運勢らしい」
「ぶっ飛ばすぞ、お前!!」
ムカついた。非常にムカついた。
茶髪がシリアスじみた声のトーンで言うから、俺も少しはビビったのに、星座占いで誤魔化された。
非常にムカついた。というか俺はこの茶髪とは相性が悪い。あとで一発殴らせろ。
「まあ、占いって言うのは嘘だが」
「そうじゃなかったら、本当に今すぐぶっ飛ばしてるよ」
「予言通りに事が進んで、アタシは非常に焦っている」
「予言………?」
「張空陽介がアタシに言った最後の言葉だよ」
そう言うと茶髪はシキから手を離し、その場に座り込む。
「陽介はアタシに言った。『いずれ弟が何か大きな事を起こす。それを皮切りに、世界が動き出す』ってな」
「俺が大きな事を起こす? 言っておくが俺は大した事に巻き込まれはしても、起こしたことは―――」
「張空弟、お前はあのオトアを倒した」
オトア……俺の中の別名は怪物。
空間を歪める力を持っていて、その力は絶大。
破壊的な使い方と、一切の攻撃を通さない透明な鎧を作りだす使い方。その二つによってシキがボロボロに追い込まれた。
生命力を操れるあのシキが。それ程に、オトアの力は圧倒的だった。
だが、オトアは8月22日に敗北した。俺達に。
そう俺達。オトアを倒したのは俺とシキなのだ。俺が起こした事って言えるのか?
「シキが止めを刺したようなものだから、俺が起こした事というには……」
「いや、お前がいなければシキはオトアに止めを刺せなかった。お前が動かなければシキは死んでいた。そしてお前は行動し、オトアの力に隙を生み出した。それだけで充分、お前が起こした事と言えるよ」
「そうだぞ小月、そこまで自分を過小評価しなくてもいい。お前は活躍したんだから」
茶髪の言う事に便乗してシキまでそう言う。
まあ、女には分からないんだろうな。男ならばビッシリ敵を倒したいっていうこの気持ちが。
「まあオトアを倒した事を皮切りとして、世界が動き出す可能性がある。そういう話をしに来たんだ」
「その為にわざわざ転入生のフリまでしたってか? そんな面倒な事をしなくても」
「話を遮るな、最後まで聞け」
イテッ! なんで叩いて来るんだよ。
「アタシは世界が動き出すという言葉の意味を、大きな戦争、という風に考えている」
「第3次世界大戦、ってところか………」
「まあ確証は無い。陽介も決して戦争が起こるとは言っていなかったからな。だが裏の世界の人間はもうそろそろ大きく動きだすだろう」
そう言うと茶髪は俺に視線を向け、
「それでまず狙われるのが、お前だ。張空弟」
「……マジかぁ」
理由は言われなくても分かっている。
一つはオトアを倒したという経歴。
オトアはあれだけ強力だった。それを倒すとなれば、さらに強力凶暴な力を持つ人間という事に普通はなるだろう。
そうなれば、普通に命を消そうとするのが妥当だ。故に狙われる。
一つは俺の中にいる存在、魔神だ。
詳細は知らないが、俺の中にいる魔神という存在は半端じゃない力を有している。
いつ戦争が起こるか分からない状態でより多くの戦力を欲するのは普通の事だ。故に狙われる。
この二つの理由から俺は狙われる。最悪だ。
けど、シキがいるから暗殺とか狙われるとか全部解決するんじゃね?
「シキ、今のお前に小月は守れない」
茶髪がとんでもない事を言い出した。
今のシキが力不足でも言いたいのか!? とかではなく、ジャ〇プとかでは良くあるレベルアップ的な事を言うフラグを立てやがった。
あ、でも俺に立てられた訳じゃないから平気かな? まあ頑張れよシキ。こういうのは俺、嫌いだから。
「張空弟、お前もだ。このままだとシキと一緒に居られないぞ」
「そうはならない。俺は自分の意思でシキの傍に居ると決めたんだ、例え足手纏いでしか無くても」
………自分でさらりと言った後で分かるんだけど、むず痒いなこの台詞。中二病炸裂だ。
「なら、お前の意思をアタシが砕いてやるよ」
「は? いきなり何言って―――――」
途端に俺の体が校舎にぶつかる。
………って、俺と校舎まで何メートルあると思ってるんだよ!
「がはっ!」
衝撃によって、空気を吐き出す事になった。普通は血だと思うんだが。
っていうかあの茶髪何しやがった!?
「今から模擬戦闘を行って、アタシに負けたらお前は一生シキには近付けない」
「………んだよ、それ」
「安心しろ。お前は黑鴉とかいう武器が無いと戦闘力が皆無だという事は知っている。だから、代わりの条件を用意した」
いきなり過ぎて頭がついていけない。
模擬戦闘? 負けたら一生シキに近付けない? 代わりの条件?
意味が分からん。なんで登校初日から本当にジ〇ンプじみた事しなきゃいけないんだよ。
「10分の間に、アタシに触れられたら及第点でクリアだ。あ、だけどアタシの攻撃が当たったから触れたというのは無しだ。攻撃を受け止めるとか、受け流す時の触れるも無し。どこでもいいから、アタシの隙をついて体を触れたらクリアとする」
「何だよ、そのふざけた条件。なら胸を触ってもOKってか?」
「触れられたのなら、な」
よっぽど自分の力に自信があるようで。あぁーまったく羨ましい。
こっちには頼もしい力が一つもないのに。
ただし、仮にも力ならある。しょぼいけど、その条件下なら上手く使えばもしくは。
「いいぜ。その模擬戦闘、受けてやる」
俺は茶髪の顔を見て、しっかりと言う。
「それは良かった。断っても、シキには一生近付けないようにするつもりだったからな」
茶髪も同様、俺の顔を見て言う。
「シキ、お前は手出しするなよ」
「分かってる、亜実」
シキは傍観を決め込んだようだ。
まあこれは俺の戦いなんだし、当然の事か。
「合図は?」
「学校には、チャイムと言うものがあるだろ?」
確か今は一時間目の授業中。つまりは授業が終わってからの10分休みの間に決着をつけなきゃいけないのか。
「チャイムが、終わりの合図だ。始まりの合図はシキが出す」
俺の予想と違う事を茶髪が言う。
………一般人には見せられない事をするわけね、つまりは。
これは、死ぬかも。
「それじゃ、よーいドン」
「徒競走のスタートかよ!?」
思わずシキの合図にツッコミを入れてしまったが、和みはここまでだろう。
もう模擬戦闘は始まった。
今日と言う日はまったく、最悪だ。