神様の理由
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「この裏の世界のでの"神様"ってのはね、簡単に言えば『最上の抑止力』というわけなんだ」
鑑さんの言っていることは分かる。
誰にも止められない者を止めるためにいる存在。最強の上。無敵の存在。
最上の抑止力。故に"神様"。
「まぁーでも、その神様が誰を止める時はド派手でね。なんせ人外の戦いになるわけなんだから」
「当然、周りの被害が酷くなる?」
「そう。その通り。音亜くんは勘がいいね」
そう言いながら鑑さんは絵の続きを描いて行く。
棒人間Aにバツ印を、周りにグチャグチャと線を描き、小さく被害と文字を入れる。
誰にも止められないほど強い相手を止めるには、それ以上の暴力で捻じ伏せる事になる。
当然、トップクラスの暴力がぶつかり合えば国一つは無くなってしまっても納得できる。
そして、もしかしての話だが……先程の鑑さんの言葉を借りるのなら。
その神様の破壊を修繕するため、神様の破壊のせいでそれを修繕する"神"と呼ばれる存在が作られた。
「その通り。100%合ってるよ」
そして四つの丸印を書いて、鑑さんが僕の推測を後付するように説明を始める。
「抑止力となるのは鬼神。修繕力として働くのは、死神、魔神、邪神の三つ」
たった一つの神様の修繕に、三つの神様が働かなければならない。
それほどに三つの神が弱々しいのか、それとも一つの神が強すぎるのか。
言うまでも無く、後者なのだろう。
「まぁー、体よく言えばそれぞれの神は何かを司っているんだ。死神は命を。魔神は夢を。邪神は心を。鬼神は……戦だったっけ」
司ってて、一つに負けるのか。
最上の抑止力だからこそ、と言うべきか。
「死神は人を、魔神は物を、直す。邪神は記憶を消したり、トラウマとかを無くしたり色々と細かい仕事を任されてるんだよね」
「物を直す……唯音に、唯音がもし本当に魔神ならそんな事ができるんですか?」
「魔神の力を詳細に言うと、事象の有無。無い事を有る事にして有った事を無かった事にできる力」
…………そう言えばこの前、唯音は言ってたな。
実は魔法少女だの、変身できるだの。冗談だと思ってたんだが……。
魔女どころか、魔神じゃないか。
「まぁー信じれないことだとは思うし信じなくてもいいと思うよ。僕は受け入れられない事があってもいいと思ってるから」
「信じますよ。認めますよ。兄妹なんですから、アイツの貴方への反応を見てれば分かります」
「そっかぁー…………なら、良かった」
僕の知らない知識。
それはとても世界と深い部分で関わっている事で、今まで知らなかったのが不思議なくらいのものだ。
自分の異常な思考なんてちっぽけに思えるほどにすごいモノ。
「あぁー……それと」
話は終わった。そう僕は勝手に勘違いしていた。
だが鑑さんからしてみれば、これまでのは説明に過ぎなくて本題にはまだ入っていなかった。
「これは僕の勝手な予測だけども、もしかしたら君に本当は妹なんていなかったかもしれない」
「えっ?」
「だってそうだろ? 君の妹へ対する執着は異常ではあるが理由がある。けど妹が君へ執着する理由が僕には分からない」
僕は唯音がいるお蔭で殺人鬼にならずに済んでいる。
だけど唯音は僕に縋る必要はない。当然だ。だから唯音は僕に縋っていない。普通の接し方ではないのか?
妹が僕に向けてくる好意は、一種の我儘で、どこら辺がおかしいと言うんだ?
鑑さんは一体どこで唯音が僕へ執着していると勘違いした。
「なら聞くけど、どうして隠す必要がある?」
「何を」
「神様のことだよ」
自身が魔神である事を、何故、唯音が隠していたか。
そんなもの僕を混乱させない為だとか、裏の世界と呼ばれるところには危険があるからとか。
そういった類のものじゃないのか?
「君へのあの態度だ。そしていつか僕のような人間が来ると思っていたはずだ。だったら事前に君に話しておいた方が君も混乱せずに済むし一緒に居られる。なのに何故、彼女はこれらを語らずに君に黙っていた」
「だから危険が」
「彼女の神としての力は、鬼神の次に強い。そんな彼女に勝てる奴なんて滅多にいない。居たとしても一人か二人。そんな力の持ち主の傍にいて危険があると?」
「それは……」
無い。もしも唯音に対する人質として僕を狙ったとしても知識の有無は関係ない。
教えても、教えなくても結果は変わらない。
だったら教えていた方が、善良な判断だろう。僕はそう思う。鑑さんもそう思っている。
だけど唯音はそうしなかった。
今の今まで唯音は、こんな世界のことを僕に黙って……ただの甘えん坊の妹として今まで振る舞っていた。
「でもただ言いたくなかっただけじゃ」
そうだ。ただそれだけ。そういった奴だ。それだけで大事なことは言わないような奴だ。
自分の発言に勝手に納得して、勝手に自信を持つ。
「言いたくなかった理由はなんだろう? 一緒に居たいなら言うべきだった。だって言われても君の妹に対する態度は変わらないだろ?」
「えぇ」
「言わない理由は無い。だったら理由は他にあって……例えば、彼女が実の妹では無かったら」
妹でないという事象を、妹であるという事象に変える。
魔神ならば、簡単にできる。
だからそもそも血の繋がりも、何の繋がりも無かった少女が……ただ僕の何かに憧れて、僕の妹になりたいと望んだら?
簡単にできる。力を使えば、簡単にできてしまう。
「もしそうなら……音亜くんはどうする?」
「変わりません」
でもだからどうした?
結局は唯音が実妹だろうが義妹だろうが怪物だろうが神様だろうが何であろうが。
今、僕を救っている。だから僕は唯音を愛している。
それだけだ。変わらない。その程度のことで。
「あぁー、良かった。これで動揺したらどうしようかと思ったよ」
「魔神だとか義妹だとか、同じ内容じゃないですか。変わりませんよ」
「これで彼女に殺される理由が一つ減ったわけだからね」
「……唯音が殺意を向けてる理由、ですか?」
「そういうわけ。理由はどうにも分からなくてね。一番可能性があるとしたらの話だったんだけど」
「つまり、自身のために僕に訊いたというわけですか」
「そもそもこっちは君に話すと約束した時点で命懸けだからね。魔神を敵にする怖さは君には一生分からないだろう」
「妹ですからね」
「さてぇー、最後の質問をしよう」
「……なんですか?」
「魔神だとか義妹だとかそういうのを置いといて、魔神というだけで殺される可能性が常にあるわけなんだ。君の妹は」
「……そんな奴は、すぐに僕が殺しますよ」
「そんな物騒なことを子供にはやらせたくないからね。音亜くん、唯音ちゃんと平穏に平凡に平和に生きたい?」
「そんなの、当たり前じゃないですか」
「それじゃぁー、僕が少し頑張りますかね」
そういって一枚の紙を僕に渡してきた。
その紙には輪っか状の何かと、文字が所々に書いてある。
「魔神という力を押さえる装置、みたいなものかな。不思議な物を作るのが僕の分野だから。完全に神の力を隠しきってみせる装置でも作ろうかなとね」
「それがあれば、狙われることもない」
「それにコイツには発信機能がある。君にいつでも唯音ちゃんの場所が分かるようにしてある」
「鑑さん……何で?」
「この前、僕の殺し方の時に言ってたじゃないか。僕は根はいい人なんだよ」
そう言って、僕から紙を取り上げると最後に一言。
「制作は今日から。二週間で作り上げて見せる。それで君たち兄妹は、晴れて裏の世界から足を洗えるわけだ」
文章がグチャグチャになる俺の癖を直したい……
と言うか、つまり現在の状態から推測するに、二週間を経たずにこの兄妹に…………
おっとこんな時間に誰か来たようだ




