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NOISE.2  作者: 坂津狂鬼
本編 旅行
41/66

《異界区画》

オトアの言葉の終わりと共に、眼前に迫りくる『何か』。

それは自身の動体視力では何なのかを判別することが出来なかった。

だから取り敢えず、切った。

「何それ、音にぃの力? 見えねぇ!」

どこか楽しそうに、声を上げる魔神を見ながら、決してオトアは自身から仕掛ける事はしない。

そんな事をしても無駄だからだ。

魔神の力は事象の有無。無い事を有る事にし、有った事を無かった事にする。

不可視の鎧(インビジブル ロック)》を纏おうとも、その事実を無かった事にされればオトアは簡単に魔神に殺される。

力の差からして劣勢。だから決して自身からは仕掛けない。

そもそも仕掛ける必要はない。どうせ、両者は両者に殺意や敵意などを向けていないのだから。

魔神にとってはこれは戯れで、オトアにとっては爆弾処理と同じなのだ。

だからオトアはただ一方的に自身に向かって来る何かを切るだけでいい。

「音にぃ、それって他にはどんな事ができるの?」

「お前が知る必要はない。消えろ」

「もぉ! 神様が見せろって言ってんだから―――」

オトアが立っている地面が突然軋み出し―――――、

「――――チャッちゃと見せろよ、クズ♪」

―――地中から、大量の電柱位の太さの触腕が飛び出してくる。

そのすべてを切断するのは不可能だと判断し、オトアは一旦、空中へと逃げる。

「へぇ、飛べるんだ。他には?」

逃げ延びた先、どうするかを悩んでいたオトアの隣に魔神が一瞬で移り、問うてくる。

「…………確かに、神様相手に出し惜しみは失礼か」

「ようやく分かったの? 音にぃ」

「そこまで見たいんなら、見せてやるよ。オレの裏技」

そう言いながら、オトアは片手を振り、眼下にある触腕すべてを爆風と暴風の鉄槌を使い殲滅する。

「……? 音にぃ、まさか今のが限界?」

自由落下していく彼に失望しながら、魔神は問う。

そして気付く。その声が届いていない事に。

今、自身が空中に閉じ込められている事に。

「……どうせ何も通じはしねェが一応、説明しておいてやる」

魔神の声はオトアには届かない。同様に、オトアの声も魔神には届かない。

だから彼女は、彼の唇の動きだけでその真実をしることになる。

「《異界区画サーキュレーションブロック》。オレの雑音拒絶パーソナルノイズにおける余計な手順をすべて省いた形だ」

オトアの雑音拒絶は、空間を隔て歪める力。

そして余計な手順とは隔てる行為の一部と、歪める行為。

通常の《不可視の鎧》は大まかに、歪める事によって鎧の形などを成す。

設定を加えれば、何かのみを遮るフィルターとしても使える。

処刑刃(ギロチン)》は隔てる力の形を強引に歪める事で刃の形と成す。

空間断絶能力を有する刃となる事が出来るのだ。

そして《異界区画》。これは隔てる段階で完成する。概要もそのまま。隔てるだけ(,,,,,)なのだ。

空気の震え、時間の流れ、あらゆる信号、あらゆる概念。黒い炎も、人の認識も、その全てを遮るだけ。

一番分かり易く行ってしまえば、結界。世界と世界を隔てる壁なのだ。《異界区画》とは。

今、魔神がいる空間と……今、オトアやシキがいる空間はもはや別物。

その全てが伝わらず、その全てが伝えられない。

「まァ、さすがにただの見えない壁だからな。強度を落としてしまえば映像を伝えることのみは出来る」

しかしそれが相手の眼に映るのは、こっちの時間で何秒後、何年後のことかは知らないが。

「凄い、凄いよ音にぃ!!」

だがそれでも。

相手は神であった。

全ての事象の有無を決めることができる絶対的な力を持っている者だ。

強度を下げてしまえば、その事象の無効化がされてしまうのは当然と言えば当然であった。

勿論、その事はオトアの重々承知済みだった。

わざわざ魔神を出すために強度を下げたのだから。

「今のは忠告だ。大人しく元の場所に変えるのならば、これ以上は何もしない」

「ん~、どうしよっかなぁ」

オトアが本気で魔神を《異界区画》で閉じ込めてしまったら、未来永劫、誰にも気づかれる事なくそこで生涯を過ごすだろう。

だと言うのに、魔神はまだ余裕を残しているかのように振る舞う。

「仕方ないっ、帰るかな」

一体その振る舞いか、虚勢か。それとも余力を残しているのか。

魔神が退くと言った今、オトアには確かめる気などない。

「そうだ、音にぃ。せっかくだから二つだけ良い事教えてあげる♪」

本当に楽しそうに、魔神は笑顔でオトアに語る。

「一つは音にぃが《異界区画》で壊したこの国ね、全部直してあげる」

魔神が宣言した瞬間に、時間が巻き戻るかのように、瓦礫が各地へ散らばっていく。

オトアが破壊したという事象のみを無効化させた結果なのだろうか。

「もう一つは、シロウサギへの逢い方」

今まで冷めた表情しか表さなかったオトアの顔が、少しだけ動く。

「私がヒントを殺しちゃったから、代わりに教えてあげる。アレはねぇ――――狐狩りを起こせば会えると思う」

「そうか、ありがとな」

「うぉ! 音にぃが私を褒めた、やっほーいっ!」

そう言いながら、魔神の姿は本来の形へと戻っていく。

「それじゃね、音にぃ」

「さっさと失せろ」

そのオトアの言葉に従うかのごとく、魔神の姿はなくなり、小月の体が倒れ伏せた。


その後、オトアが三人を日本まで運び、シキと小月を病院へ。秋音を自宅へと雇い主の指示通りに動き……この事件は終了した。

旅行は終わり、オトアの過去へ。

つまりは今まで適当に立て続けたフラグのほとんどを回収しなければならなくなった、というわけですね。

さて、それにしてもオトアの過去の始めは何も決まってないんだよなぁ……。

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