再会
何が起きた?
―――認めろ。今、自身の視界と自身に掛かる紅い液体が何なのか。誰のものかを。
誰のせいだ?
―――あの敵だ。自身がしっかり止めを刺しきれていなかった。
どうして、こうなった?
―――原因は自分が残し、結果は相手が起こした。それだけだ。
これからどうなる?
―――シキには蒼い炎があるし、オトアもいるから大丈夫だろう。
俺は何をしたらいい?
―――何もするな。お前のような役立たず、何をしたとこで無意味だ。
どうすれば良かった?
―――最善を尽くした。尽くした結果がこれなのだ。これが限界。
嘘だ。もっと良い結果があったはずだ。
―――ない。認めろ。どうせお前が出来ることなど底が知れてる。
認めたくない。自分がどんなに弱くても、役立たずでも、出来る事があるはずだ。
―――過去にはあったかもしれない。だが、今はない。
でも、なら、俺は――――――――――――
『力が欲しいの?』
「…………ヨコセ」
今シキがどうなっているとか、自分が居る場所が0と1しかないとか、鏡の向こうに移る白髪の少女が誰だとか、そういうのは……どうでもいい。
ただ、コイツは俺が今欲しいモノを持っている。だから貰い受ける。
「貴方とても大丈夫な状態じゃないわよ。今の自分の顔、見てみなさい。とても醜悪な顔をしてる」
「……ヨコセ…………ッ!」
「…………言っておくけど、今の状態で私の力を借りたら、最悪、私に体ごと乗っ取られるわよ?」
「知ルカ……ヨコセッ!!」
白髪の少女はそれ以上、深く問い詰めることは無かった。
ただ俺を見て、視て、観ただけだった。
「いいわ。なら最後に一つだけ問う」
そう言って、その腰まで伸びきった髪の隙間から金色の瞳を覗かせながら俺に一つのことを訊いて来た。
「今、何故、貴方は力が欲しいの?」
その問いに対し、俺は自身の胸の内から溢れ出てくる言葉を何の躊躇いもなく口にする。
「殺す為だけ……シキを傷付けた敵をただ殺す為だけの力が欲しい」
「…………物凄く残念だけど、気が合ってしまったわ」
言葉とは裏腹に、その顔を歪な笑顔へと変えた白髪の少女は一言。
「いいわよ。神の力、全て貸してあげる」
差し出してきた……正確には、鏡に映っている……その少女の手に自身の手を合わせる。
途端、鏡が無くなり大量の0が自身を呑み込もうとする前。
自身からその0へと歩み、自身の全てを捨てて力を得る。
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シキから大量の血が噴き出し、たちまちに小月に異変が訪れる。
そこにオトアが口を挿む暇など無かった。
(…………取り敢えず、止血するしか……)
《不可視の鎧》をチューブ状に歪ませ、シキの体内へと送り込む。
千切れた血管同士に見えないラインが新たに出来上がり、空間に血が行き通る。
新たな血管を《不可視の鎧》で創り出した。これで蒼い炎で回復するまでの間は持つだろう。
問題は―――――――。
「っぁ―――――――――」
貴重な情報をもっている敵が死んだ。おおよそ肉片一つ、塵一つも残さずに。
それは誰がやったか。そんなものは明白だ。
「…………魔神、篠守唯音」
彼女の名を告げる。オトアは張空小月を睨み付けながら、その彼女の名を。
まだ辛うじて張空小月の肉体を保っていたが、それから放たれる雰囲気は明らかに小月のものでは無かった。
異常な程に禍々しい。存在自体が、その環境に、その世界に毒となるような……そんな禍々しい雰囲気を。
「……バレたか」
張空小月の声帯から放たれるその声は、もうすでに男のものですら無かった。
少女の声がしたかと思った瞬間、その体に爆発的に変化が起こった。
先程まで黒く短かったその髪は一瞬にして腰まで伸び切り、色までも脱色されて儚い眩さを放つ白銀へと変わってしまった。
身長も同時に縮み、見えないところでの変化と同時に、小月には無かったはずの乳房までも小さいながらも出来上がり、服の形状を少しばかり変えてしまっている。
もはやそれは、張空小月の先程までの服を着た別人の少女となっていた。
「服装は変えねェのか?」
「音にぃが変えて欲しかったら変えるけど?」
「いや、服装変えるよりも地獄に帰って欲しんだが」
そう言いながら、オトアは右手に《処刑刃》を纏わせ睨み付ける。
「酷いなぁ、実の妹に対して……そんなにツンツンしてると殺すよ?」
対して魔神は、軽く伸びをしながらそんな事を呟いた。
「残念ながら、オレの妹は8年前に死んでなァ……戯言をそれ以上言うんなら解体するぞ」
「うわ酷い。もう私かなり怒っちゃった。殺しはしないけど、調教決定ね。どういうのがいい?」
「あァ、そういや」
先程、小月に聞きそびれたことを思い出し、オトアは代わりとして魔神に問う。
「オメェは何で、予定通りに出て来なかった?」
「予定って……それ、解読者が決めた予定でしょ? 何で私が守らなきゃいけないの?」
面倒臭そうに、溜息を吐きながら魔神は答える。
予定通り、と言うのは先程オトアが閃いた一つの可能性だ。
本来、張空小月は8月……狐狩りの時、それもオトアに痛めつけられた時の暴走で一度はこの状態になるはずだった。
それがどうして、そうならなかったのかはオトアには分からないが、ともかく予定がずれた張空陽介はいかなる形を持ってしてももう一度、ほとんど同じ状況を創り出さなければいけなかった。
それが、このクーデター。
そして結果が、この通り。
魔神、張空唯音は今ココに顕現し……オトアと対峙している。
「っていうかさぁ……音にぃは何でそんなに冷静なの?」
「ネタバレも有ったし、そこまで恐れ戦く事態でもないからな」
「確かに。音にぃの体、まったく震えてないね。っていうか昔よりチョッと筋肉質になった?」
「もしもガキの頃と比べてるんならァ、そりャ当然、そう見えるだろォよ」
「……何、その面倒臭そうな言い方。久しぶりの兄妹の会話なんだよ?」
不貞腐れたように頬を膨らませながら、魔神はオトアに抗議する。
オトアはそれに対して、冷めた瞳で冷淡に返す。
「オレはお前に言いたい事は何もない。お前がオレに言いたい事が有ろうが知った事じゃない。ともかく失せろ。今すぐに」
「へぇ……今の一言はかなりブチって来ちゃった♪ その脳髄まで溶かし尽くして、自分が何者なのかすら分からなくさせてあげる」
「お好きにどォぞ。どうせ今のお前じゃオレには届かない」
本当、この小説の作者は頭おかしいんだと思う。
一読者として、本当にそう思う。指は止まらないんだけど。




