転校生.2
「………殺気がやんだか」
学校の中庭で、俺は一人安堵する。
古瀬は俺の下駄箱の中身を入れ替えて実際に校外へ出ない作戦に見事に引っ掛かった。
おそらく下駄箱の中身をすぐさま確認した古瀬は履き替えずに校門へ向かっただろう。そうしたら俺は追いつかれる可能性がある。
俺と古瀬の走力は一緒だが、殺意による強化をした古瀬に既存の情報など無駄。背後に迫る殺気は段々と近くなっていた。靴など履きかえている時間があったら校門前でデッドエンド確定だ。
だからこそ校門へ行かずに中庭に行って身を潜めていた。
上履きのまま校門まで行くことも出来たが、後々洗うのが面倒臭かった。
古瀬はその後、数十分間校内に殺気を撒き散らした後……つまり今、俺の捜索を諦めたようだ。
ともかく、助かった。
……………………にしても、一体俺が何をしたんだよ?
俺は半分寝ていた。古瀬に怒りを買うような事はしていなかった。
となると……もしかして、転校生に原因が?
「凄かったな、あの生徒。本当に一般人なのか? 一般人が放てる殺気では無かった気がするんだが」
「……?」
不意に横から声がしたので、振り向いてみる。
そこに居たのはウチの制服を着た、茶髪の女だった。
同年代の女子と言うには少し大人びている。お姉さん、という感じの雰囲気を漂わせていた。
俺が頭の上に?を浮かべていたのを見て、茶髪は自己紹介をし始めた。
「あぁ、そう言えばお前はさっき寝ていたからな。アタシの名は張空亜実―――――」
張空!? 俺はこんな女知らんぞ!
さては両親が秋音の時よろしく、またどこかの国から持ち帰ってきたのか?
国際法で、動物の密輸入は禁止になってんのを知らんのかウチの親は!!
「――――に、なるはずだった人間だ。ちょっと驚いたか?」
………あ、冗談だったのね。すまんすまん、クソ両親。誤解をしてしまったよ。
にしても、なるはずだった、ってどういう意味だ?
「さっきもその冗談を言って、ついでにお前が寝ていたから張空小月の婚約者だと付け加えてみたのだが、随分今の世代はノリが良いんだな」
「俺が殺されかけたのは、お前のせいかぁ!!」
そりゃ古瀬が殺しに来るわ。そんなに明言されて殺しに掛からなかったらそいつは古瀬じゃない!
仕方が無い。あとで古瀬を一発殴ろうと思ったが、やめておこう。
「おい、張空弟」
「……あんた、兄貴の知り合いだったのか?」
裏の世界うんぬんを置いといて、俺が弟呼ばわりされるって事は兄貴の知り合いの可能性が高い。
「あぁ。張空陽介はアタシの婚約者だったからな」
「……………………」
……………………………………………………………………………………………。
………………………………………………………………………………。
…………………………………………………………………。
…………………………………兄貴に彼女?
はは、そんな事は無いって。
確かに兄貴は頭がずば抜けて良くて鬼才って呼ばれる程だったけど、それは…………。
「くそぉっ!!」
「そんな事より、張空弟。シキは近くに居ないのか?」
俺の叫びを無視して、茶髪は聞いてくる。
しかし自暴自棄になりかけた俺の耳には届かず、視界は青空を向き、体の重心が宙に………宙に?
って俺投げられてる!?
「ぐぺっ!」
「シキは何処だ、張空弟」
「………家に、居ます…………………………」
やべぇ、この茶髪。シキより凶暴かもしれない。というより凶暴だ。
何だ何だよ、兄貴。アンタ鬼才のわりには女見る目は無かったんだな、ザマアミロ。
ッ? 何故か何処かからか、お前もだ、と聞こえたような………。
「ちっ………なら、直接電話掛けた方が早いか」
舌打ちをした後、茶髪は片手で逃げようとする俺の襟首を掴み上げ、片手で携帯でどこかに電話している。
あ、ヤバいヤバい首締まる!
頸動脈辺りに制服の襟が当たっとる!!
―――――――――――――――9秒後―――――――――――――――――――――
薄れる意識の中、ドタバタと誰かが猛ダッシュしている音が聞こえる。
しかし俺はココまでの様だ。短かった人生だったし、最後の方はバタバタだったし、あんまりよくない俺の生涯はココで幕を閉じ、
「小月ぃ!」
る直前に俺は唐突に降ろされ、これから先も生きていける権利を獲得した。
正直、死ぬと思った。いやぁ~、なんで生きてるんだろうな俺。
「大丈夫か、小月!?」
「あ、あぁ…………ってシキ、なんでお前はここに居る?」
咳き込む俺の傍に寄ってきたシキに問い掛ける。
「亜実に脅迫電話を掛けられたんだ。来なければ、すぐさまに小月が死ぬと」
あながち間違っちゃいない。あのままだったら確実に俺は死んでいた。
「亜実は有言実行タイプなんだ。自分がやると言ったことは必ずやる、そういう奴なんだ」
「恐ろしいな………、よく兄貴も結婚しよと思ったもんだ」
いや、押されに押された末に了承したのかもしれない。兄貴も鈍感だったからな。俺よりはマシなレベルだったけど。
「こらシキ。亜実じゃなくて亜実さんだろ」
茶髪の声のした方向へ振り向く。そこで目に映ったのは茶髪の姿を遮る蒼い炎。
なるほど、シキのお蔭で俺は助かったわけか。
シキには生命力を操る力といった不思議能力がある。それを使用する際に現れるのが蒼い炎。
アレに燃やされたら、死ぬことも蘇ることもシキに操られてしまう。まあ自分から蘇る奴なんていないだろうけど。
ともかく、生者を殺し死者を蘇らせる事の出来る力。それをシキは持っている。
つまりあの茶髪は蒼い炎の事を知っていて、かわしたのか。だから俺が降ろされたわけだ。
「亜実! いきなり小月にこんな事をして、何がもくふぇひなんひゃ」
「言うこと聞かない口はこの口かなぁ?」
蒼い炎で見えなかったが、茶髪はいつの間にかシキに近付いて頬を片手で挟んでいた。
「まぁ、そう急ぐなよ。アタシがココに来た理由はお前ら二人にあるんだから」
「ふひゃりに?」
………シキ、無理して喋らなくても俺が代わりに言ってやるよ。
だから喋るな。緊張感を大いに削ぐな、和ませるな。
「まあ、大雑把に言ってしまえば―――――」
茶髪は俺に視線を向けた後、再びシキに視線を戻し、言う。
「――――お前らのせいで、近々大きな戦いが起こる事になっちまった」
ツッコミ大歓迎!




