負傷
「……チッ」
黑鴉によって吹き飛ばされた敵の襟首を掴みながら、オトアは舌打ちする。
この敵は先程『あのイケメンに後でボーナス請求してやる』などと口走っていた。
それが誰だかは分からないが、それでも張空陽介か隼綛という名の男かのどちらかだとオトアは思ったのだ。
オトアは実際に張空陽介とは面識がないため、確信はないのだが。
それでも何らかの、それも割と雇い主や自身が知りたくてたまらない情報を持ってる可能性が高い。
故に、わざわざ小月に止めを刺させて、生きたまま捕縛……ないし事情聴取という名の拷問をするつもりだったのだが。
誤算だったのは黑鴉の威力が想像以上だったということ。
自身は一度たりとも喰らったことのない攻撃なのだが、相手を完全に気絶させるほどの武器だったとは。
「オトアこの野郎! お前は加減とかそういうのは知らんのか!!」
「……別に、手加減しても良いんだが時間が無かったからな」
騒ぎ出した小月を迷惑に思い、適当に答えるオトア。
敵を放り投げ、携帯を取り出しながら雇い主に報告しようとキーをプッシュしながら小月に一つ問う。
「そう言えば、【蒼い死神】はどうした? 普通ならアイツもお前と一緒に騒ぎ出すと思うんだが」
「なんか粘り気がなんやらで炎がなんちゃら言ってたけど……」
「……やはりッて所かァ」
「……?」
オトアが一人で勝手に納得していると雇い主との電話が繋がり、報告を始める。
さすがに電話中に相手に話しかけるのもどうかと思った小月はシキの元に行く。
「大丈夫か、シキ?」
「うにゃ、チカラがにゅあい……」
なんか分からない言語を喋っているが、ともかく大丈夫なようだ。
そう判断付けた小月は、オトアの報告が終わるのが先かそれともシキの言葉が元に戻るのかが先かを予想していた。
『暴走させて魔神を出させるのが目的?』
「らしい。まァ敵が言ッてた事だから真偽は分からねェが」
『ともかくその敵さんは殺してないんでしょ?』
「あァ。今は気絶してるから、さッさと取りに来い」
『分かった。そっちに回収しに行く…………けど、それにしても不思議ね』
「何が?」
『前回の遊園地でのテロは魔神を潰すためで、今回のクーデターは魔神を誘き寄せるためだなんて』
「ただ前回は敵が仕掛けたことで、今回は張空陽介が仕掛けた事だろ」
『でも、それだからこそ不思議って話?』
「はァ?」
『解読者って呼ばれた鬼才が、こんな大きく出るのかって事。敵に阻害される可能性だって高いし……もっとひっそりと出来たんじゃない? 張空小月を暴走させることが』
「…………確かに」
雇い主の一言に思わずオトアは考え込む。
確かにこんな大きく、国一つ乗っ取らずとも、張空小月を暴走させることは出来たはずだ。
しかし事態の大きさはともかく、引き金を引くのが難しい。
暴走のカギとなるのは【蒼い死神】の負傷ないしは死亡だろう。致命傷や重傷を負えば、原因には十分だ。
しかし【蒼い死神】に重傷を負わせるとなると、レベルはいきなり引き上がる。
なにせ相手は、生かす事も死なす事も自在にできる無尽蔵の蒼い炎がある。
それは自身の回復にあてたり、相手に対する一撃必殺の攻撃ともなりえる便利なものだ。
そんな相手に致命傷や重傷を負わせることが出来るモノは、一度殺した程度じゃ死なない者か、炎を完璧に防げる防御法を持っている人間しかいない。
例えば……篠守音亜の雑音拒絶など。
「おい、張空。一つ聞きたい事が――――」
ある可能性と、それにともなう原因と結果。
それらがオトアの頭を過ぎり、たった一つの事を問い質そうとした時だった。
先程のオトアの仮定が崩れたのは。
一度殺した程度じゃ死なない者、炎を完璧に防げる防御法を持っている人間。
この二つしか今の【蒼い死神】に致命傷を負わせることができないという仮説は大きく間違っている。
そもそも真正面から挑むのならば、その二つの条件のどちらかが必要ではあるが、そうでなくてもいいのなら……決闘などという古風なものではなく、とにかく致命傷を負わせるという事だけならば、不意を突けばいいだけの話である。
だがそれだけでは【蒼い死神】を殺すということは叶わない。
そもそも、そんな簡単に死んでしまう様なものならば神などとは言われない。
だがしかし目的は『神を殺す』という事では無く『とある少年に心的外傷を負わせる』ということである。
傍にいるシキの体に突然、脇腹から肩まで斜めにかけての大きな傷でき、紅い飛沫が噴き出れば、それだけで小月が十分なのだから。
情け容赦なく、ヒロインから血を噴出させる。
この小説書いてる奴の頭、おかしいんじゃないかな?
本当、狂ってる。




