付け替え
「首輪を変えるだァ」
「いぇす! さあ取り換え作業開始!」
某県のとあるアパートの一室にて。
そう言って抱き着くように迫ってきた雇い主を怪訝そうな目で見るオトア。
アパートに来たと思ったらいつも雇い主は自分に掛けられている首輪のことで何か言いだす。
そんなに気になるのならば、いっそのこと首輪以外のものにすればいいのに。
そんな風にオトアは思いながらも動かず、首輪の取り換え作業を静観する。
「あぁ、そうそう。篠守君から言われた【虚無の王】について調べてみたよ」
「……結果は?」
「その……早川? って人が言ってた通り、呪いだった」
「呪い? 呪いの名前が【虚無の王】っていうわけか?」
「そういうこと」
古い首輪を傍に置き、新たな首輪を付けながら雇い主は話を進める。
「全貌とかそういうのはまったく分からなかったけど……一つだけ。多分だけど大事な事が」
「なんだ?」
「八年前にその呪いが張空陽介にかけられた、って報告があった」
「…………確かに有力な情報だろォが、呪いの詳細が分からなきャ意味がねェ」
「確かにね。まあでも虚無の王様を名乗ってる呪いなんだから、物質以外のものを手繰るとかそういうのじゃない?」
「予測じゃ意味がねェよ。でもまァ案外、事態が鮮明に見えてきたかもしれねェ」
「よし、これでオッケー」
首輪を付け終ると共に離れる雇い主。
オトアは首輪に触れながら問いかける。
「前と何が変わったんだァ?」
「通常モードだと能力使おうとしたらサイレンが鳴って、使ったらドッカーンする」
「シンプルだな」
「ちなみに任務モードだといくら能力使ってもOKになってる。制限全くなしのいつも通り」
「両極端だな」
「これでポテチがいつでも取れる!」
ガッツポーズを決める雇い主に対し、
「なら二度と買わない様にしよう」
「意地悪ッ! 最低っ! ひとでなしっ!!」
オトアは呟くように本心を言う。
しばらくの間、暴れる雇い主を片手で押さえていると暴れるのを止めて雇い主が問いかけてきた。
「そういえば、さっき事態が鮮明に見えてきたとか言ってたけど……篠守君どういうこと?」
「んァ……あれはただ、張空陽介が戦っている誰かってのは【虚無の王】かもしれねェってだけだ」
「…………どして?」
「早川の発言だ。あいつは自らが呪いに掛かってると言いながら、とある人物が【虚無の王】と共にいると言った。この発言の時点で、【虚無の王】の呪いの所有権は早川にないと言い切れる」
「なんで?」
「隼綛は……とある人物は、オレの姿を見たら挨拶してくるだろォからな。傍にいたなら必ず姿を現したはずだ」
「そんで?」
「本当の【虚無の王】を持っている奴としての可能性は三つ。張空陽介、とある人物、その他の誰か。可能性として高いのは張空陽介、とある人物のどちらかだ。だとしたら張空陽介に確定する」
「だから、なんでよ?」
「とある人物……隼綛は、呪いなんかなくても十分強い。オレと同等かそれ以上の実力の持ち主だ。だから自ら呪われることをするわけがない」
「ふーん……でもなんやかんや言っても篠守君弱いから」
「あァ、そォだな。オレは弱い……隼綛よりも」
その言葉を最後に二人とも黙りこくってしまった。
しばらくすると部屋のチャイムが鳴り、雇い主が応答する。
「はーい、どちら様ですかー?」
玄関の扉を開けると、二人、人が立っていた。
一人は薄笑いを浮かべた人間。この人物は知っている。雇い主自身の部下だ。
もう一人は写真上でしかみたことがない。中途半端に伸びた黒髪に黒い瞳。わりと探せばどこにでもいそうな平凡そうな少年。
この少年の中身には魔神と呼ばれる存在の魂が混在してるとはとても思えない。
「あぁ、ようこそ張空小月君」
「……クーデター? わざわざこんな時に?」
薄笑いを浮かべる人間は、小月をこのアパートへ送ると共にどこかへ去っていってしまった。
「まあ、確かにおかしいよね。篠守君を使って78万近く殺して脅しを掛けたのに、屈するどころか焦り出しちゃったかな? それとも予言潰しの影響?」
「78万!?」
「どちらにしろ【蒼い死神】と張空秋音を人質に捕られて……戦力としちゃ最悪、オレと張空小月の二人しかいないわけか」
「え、何で?」
当の本人が訳が分からず、オトアに問いかけてくる。
しかしその問いに答えたのは雇い主の少女だった。
「最悪、張空秋音を脅しの材料に使われて【蒼い死神】が敵に回るかもしれないからね。篠守君は炎通じないし、張空君は一番親しい人物だから」
「……よォは、この二人でクーデターを鎮静化する。人数少ないんでよろしく頼むな」
「二人!? 無理だって、そんなの絶対無理!」
「張空君には【蒼い死神】と張空秋音の救出優先で行動してもらう。篠守君は危なそうな人たちを殲滅してね」
「適役だな。オレだと【蒼い死神】と戦闘になりかねない」
「いやでも、まず俺じゃそんな戦場を駆け抜けるような事はできな―――」
「途中まで篠守君に護衛させるよ。強さは知ってるでしょ? あ、でも自分に負けた相手に護衛して貰うのは不安?」
「いや、心強すぎるくらいだけど……」
苦笑いを浮かべながら言う小月に雇い主の少女は笑い掛けながら一言。
「それなら、行ってらっしゃい」
お年玉更新!




