悪因
『ねぇー、今、午後ドラ見てるから後にしてくれない?』
「嘗めてんのか? あァ?」
雇い主の言いつけ通り、ビル潰しの直後電話を掛けたオトアは相手の反応にイラついた。
『あ、で結局どうなった? やっぱり大衆にバレちゃった?』
「やっぱりってなァ…………最初からバレると思ってたのかよ」
『まあね。それで結果は?』
「数人にはバレただろォが、まあ問題無いレベルだ」
『…………え? マジ?』
「マジだ」
『凄い、篠守君ってホント何者? っていうかどうやったの?』
「何者も何も、ただの裏の世界の人間だオレは。そしてやり方は企業秘密だ」
溜息を吐きながら答え、オトアは次の標的を雇い主から聞き出そうとする。
『あぁ、次からは隠れて速やかにズバッと殺してもらうから』
「つまりは暗殺ってことか。人数は?」
『ざっと…………78万ってとこかな、多分』
「78万か……」
『楽勝でしょ?』
「まァな。だが、時間が掛かる」
『大丈夫だよ。全員、裏の世界の闇の方へ堕ちて行ったクズ共だもん。篠守君と同じ道を歩んでいるから、篠守君には敵わない』
「……言ってくれる」
『ま、それに全員、居場所は分かってるから篠守君が早く終わらす気があればチャチャっと終わるよ』
「ハァ…………それで、最初は誰だ?」
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『篠守君、篠守君。起きてる?』
「じゃなきゃ電話に出てねェだろォが」
日本で一番高いとある山の近くの樹海にて、オトアは電話の相手に対して悪態をつく。
「にしても、本当ォにこんな場所にいるのか?」
『居るって情報があるんだから、居るんじゃない?』
「なァんで、こんな場所に隠れんのかねェ……?」
雇い主の話では、この樹海内にいるらしいのだ。最後の標的の一人が。
1日約11万人もの人を殺してきたオトアは疑問に思う。
約78万人もの味方がたった一週間で全員殺されている。
次は自分の番だと思うのは自然だろう。そしてどこかに隠れようとするのも自然だろう。
しかし何故、わざわざ自殺スポットじみた場所を隠れ家とするのか?
確かに、表の世界の人間が大量にいるような場所にいても暗殺されてしまう。
しかし、こんな人気が無い場所などのほうが誰にとっても殺しやすい。
わざわざこんな場所に隠れる必要はあるのか?
『案外、罠だったりね』
「あァ? オメェはオレにデマを教えたってわけか?」
『違う違う。この情報はここ一週間以内に上がったものだけど、信憑性が低くてね。一番最後に回しざる終えなかったの』
「そりゃ罠だわ。確定だ」
『あちゃー、結構確実にぶち殺しておきたい奴だったに。篠守君、もうお仕事は終了していいよ。今すぐ戻ってきて』
「善処はするが、まあ無理そォだ」
そう言って電話を切り、オトアは独り呟く。
「んで、オメェはオレに何か用か?」
「ああ、そうだ」
相手の返答を聞いた瞬間、オトアはその場で一回転しながら右手の《処刑刃》で一帯を切断する。
辺りの木々が倒れる中、上から落ちてきた影の方向へオトアは視線を向ける。
「危なっ、死ぬところだったろ」
「別に殺す気は無かったが、オレは上から見下ろされるのが嫌いなんでな」
一歩ずつ、オトアは両手に《処刑刃》を携えながら影の方向へ近付く。
「今度は殺す気でいくから安心しろォ」
「死ぬのはお前だぞ」
「あァ?」
影の言葉に疑問を持ちながら、オトアは片腕を振り下ろす。
途中、ほんの少しの抵抗を感じながらもオトアの腕はしっかりと振り下ろされた。
(…………こいつ……)
「こりゃァ、大口も叩きなるわけだ」
「まあな」
影は立ち上がりながら、オトアの言葉に答える。
《処刑刃》は刃物とは違う。空間断絶で相手を斬るのだ。抵抗なんてあるわけが無い。
つまりこの影は、《処刑刃》を受け止められ、その上、消したという事をやったのだ。
(……オレの力を無効化した…………もしかすると………………)
オトアはある思考に行きつき、影の姿をじっくりと観察する。
ボサボサな黒髪でつり上げた目付き。身長はオトアよりも高く、格好はスーツ。
「オレはな、強ェ奴を探してんだが……お前、名前は?」
「……? 早川だが」
「四文字目でアウトかよ…………ふざけんな、バァカ」
容姿や格好が、自分の記憶とは違うものだった為、端から期待などしていなかったが。
オトアは溜息を吐きながら、消された《処刑刃》を再度創り直す。
「ムカついた。速攻でブチコロス」
「だから死ぬのはお前だって」
早川は黒い炎のようなものを自分の近くに纏わせる。
おそらくアレが《処刑刃》を消したものの正体だろう。
(……つくづく、炎には縁がある…………)
姿勢を屈め、オトアは一歩を踏み込む。
あとはバトって終わり。それ以外には何もない。




