死因
夕食時。俺は3000円のために【蒼い死神】攻略作戦を開始した。
「シキシキシキシキシキシキ」
「そんなに呼ばなくても聞こえてる」
怒られた。そんなに名前を呼んだか? たかが数回だろ。
「お前、最近悩み事多いよな?」
「………? まあな」
怪訝そうな顔で俺を見るシキ。
何か企んでるな? そりゃそうだ。3000円のために俺が何もしないとでも思ったか?
「んなら、ケーキ奢ってやるから、その悩み事を俺に話せよ」
「嫌だ、とさっきも言っただろ?」
「そうか……そりゃ残念だ」
シキが何かを探る様な視線で俺を睨み付ける。
まあ、そうなるだろう。さっきはあれほど食いついてきたのに、今度はこんなにあっさりと引き下がるんだから。
俺も、手段を選んでられないんだよ。
卑怯だろうが意地悪だろうが3000円を得る為だったらどんな手段だって取ってやる!
そんな意気込みでお前に挑んでいるんだ。覚悟しておけ。
「前もって買ってきたけどお前が要らないって言うなら俺と秋音の二人で食べるしか、無いよなぁ~」
「ちょっと待て。誰が要らないと言った?」
「じゃあ喋るのか?」
「誰が喋るか」
「なら食べないってことだよな。仕方が無い。お前が誰にも言えないような相当な事を抱えているのに無理矢理喋らすような真似は非道だと思ったから、わざわざシキが一番好きなケーキ屋のシキが一番大好きなショートケーキとレアチーズケーキの二つを買ってきてやったのに、お前が喋らないと言うのなら、俺と秋音の二人で食べるしかないよなぁー」
「小月の卑怯者!」
お褒めの言葉、ありがとう。
いつものガキっぽい事を言うシキに戻り始めた。作戦の効果ありだ。
しかし、まだ足りん。
まだ、シキは涙目ではない! こいつが泣くぐらいまで追い詰めてから大人しく白状させてやる。
人の顔を見ては盛大に溜息を吐いた仕返しだ。ぐへへへへへへ!!
…………いかん、本来の目的を忘れてしまう所だった。
「さぁ秋音。夕飯も食べ終わったことだし、デザートとしてケーキを食べようじゃないか。冷蔵庫に冷やしてあるから出してくれないか?」
「……ちょっとやり過ぎじゃない?」
ヒソヒソとした声で秋音が聞いて来る。
「大丈夫だ、問題無い」
「……分かった。皿に移して持ってくる」
即答した俺をまるで下衆を見るような目付きで一瞬見た後、秋音は席を立った。
「…………小月、お前ちょっと最近グレてないか?」
「そんな事は無いぞ、貧乳」
「………………ほぉ」
「燃やすのか? 燃やしたら話す話さない関係無しにケーキは没収だぞ」
「やれるものなら、やって―――」
「秋音ぇ、ショートケーキの方をゴミ箱にダンクシュートしてってシキが言ってるからそうしてくれないかぁー?」
「ちょっと待とう、小月。アタシが悪かった」
分かればいいんだよ、分かれば。
ったく、こっちは作戦上、シキをできるだけ感情的にさせなきゃいけないのに。
こんな調子で喧嘩を吹っかけてたら俺の命が持たない。
「お前がさっさと悩み事やらを俺に喋っちまえば良いんだよ。さぁ、さっさと吐け」
「…………嫌だ」
「ケーキ没収?」
「うぅ…………小月ぃ、頼む」
「話さなきゃケーキはやらん」
「くぅぅ…………他の条件は無いのかぁ?」
涙目ながら問いかけてくるシキ。作戦成功だ。
……いやだから、それは本来の目的じゃないんだった。
しかし、他の条件か…………。
「なら、もうその事で悩むな」
「うぅ……また難しい事を…………」
「難しい事なのか? その悩み事って?」
「うぅ、まあ」
「シュレーディンガー方程式よりも?」
「しゅれ……え?」
「相対論的量子力学よりも難しいのか、その悩み事っていうのは?」
「ソウタ……い?」
「案外、お前が悩んでる事ってとっても簡単だったり、割とどうでも良い事じゃないのか?」
「そ、そんな事は!」
「そうかぁ? 俺はお前が何で悩んでるかなんて知らないけど、どうせ、周りの人間のこととかで悩んでるんだろ? 多分、秋音のことを」
「な、にゃなんでその事を!?」
やっぱり。
どうせシキの事だ。自分の事とかよりも他人の事を考えている。
無駄に優しい死神さんだからな。
一番相談しそうな秋音に相談しない時点で、少し勘付いてはいたんだけども。
「俺は多分、お前よりも秋音のことを知らないけど、秋音なら自分の問題は自分で解決できると思うし、むしろお前が口出しやら手出しやらしたら余計に混乱するだけだと思うぞ」
「酷い! そんな言い方しなくたって」
「事実だから仕方が無い」
「くぅ…………なあ」
「何だ?」
「もしも、秋音が秋音じゃなくて他の誰かが変身した姿だった、なんて展開が起こったら小月はどうする?」
「どうもしないだろ」
「え?」
即答した俺の意図が分からなそうに、シキはこちらを見てくる。
いやだって、そもそも俺は秋音について性別と容姿と年齢と誕生日のことしか知らないし。
それが嘘だとしても。
「秋音は秋音だろ。偽物だろうが人形だろうが俺の義妹であることは変わらない。シキの友達であることもな」
「ふむ…………確かに、アタシはくだらない事で悩んでいた気がする」
「そうかい。まあケーキでも食って冷静になれよ。俺は部屋に戻るわ」
「ちょっと待て。小月」
「ん? 何だ?」
任務完了したから、俺はこの場からさっさと退散したいんだが。
だって、
「お前まさか、アタシに貧乳やら言っておいて何もないとは思ってないよな?」
早く逃げないと蒼い炎で燃やし殺されるんだもん。
……さすがに、調子に乗り過ぎたな。反省反省。
後悔先に立たず。俺の先に立っているのは川を渡る白服の方々のみ。
タイトル通り、だったでしょ?




