要因
「つまり、張空陽介は未だ世界のどこかで生きていて、8年前に死んだとされる魔神……篠守唯音の肉体は張空秋音に変わり今も生きているってわけだ。理解できたか【蒼い死神】?」
「な……んて…………?」
「残念だったな。お前が嫌ってた魔神は死んでいないんだ」
「本当……なのか?」
「あぁ、本当だ」
「なら……何でお前はそんなに冷静なんだ! 魔神は――ッ!」
シキの言葉が止まる。一瞬で距離を詰めたオトアが首を掴んだためだ。
「魔神は魔神だ。それ以上でもそれ以下でもイコールでも無いだろォ?」
「オトア…………ッ!!」
「この事実を誰に言ったッてイイ。張空小月だろォが張空秋音だろォが、誰に言ったって構わない」
シキの首を絞める手により一層力を入れ、オトアは言葉の続きを言う。
「だがそれ以上、その言葉の続きを言ってみろ。ブッコロスぞ」
「聞き慣れすぎて、危機感が感じられないな」
「そォか、なら今すぐこの場で塵に変えてやろォか?」
「…………」
しばらく無言で睨み合う二人。互いに何を思っているのか、分からない。
さきに動いたのは、オトアだった。首を掴んでいた手を離し、シキに背を向ける。
「雇い主がお呼びなんで、オレはもう行く」
「オトア……お前」
「じゃあな【蒼い死神】」
直後、蒼い炎がオトアを包むが《不可視の鎧》によって直接燃やすことは叶わなかった。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「はぁ……」
シキは誰も居ない室内で、盛大に溜息を吐く。
秋音も小月もどこかに外出しているみたいだ。
「……んぁ? シキ、帰ってきてたのか?」
と思ったら、すぐに小月が帰ってきた。
「あぁ……今帰ってきた」
最小限で覇気も無い言葉を吐きながら、シキはどこかの部屋へ移動する。
「おい、シキ」
「なんだ?」
「お前、何を悩んでるんだ? 最近元気ないぞ」
自分を呼び止めた小月の顔をしばらく見つめるシキ。
悩んでいた。小月に魔神の件を話すかどうか。
事態に混乱している自分とは違い、小月ならば冷静に状況を整理できるんだろう。
しかし、どこか相談できないものがあった。
秋音も絡んでいる為か、それとも小月の中に魔神がいる為か。それとも他の理由か。
自分でもどれだか分からなかったが、シキはどこか小月に相談するのをためらっていた。
「…………いや、何でも無い」
結果、こう言って、溜息を吐く事しか出来ない。
「じゃあさ」
拒絶されてもなお、小月は引き下がらない。
「溜め息吐くのやめてくれないか? ちょっとウザいから」
こんな事を言えば、すぐさまシキに小月がボコボコにされてしまう。
しかし、シキは小月を睨みつけるだけで何もしない。
「アタシの勝手だろ」
「秋音が気にしてた。お前が何を抱えているかは知らないけど、それで他人を心配させんなよ」
「…………随分、身勝手な事を言うんだな。自分の事だけで精一杯だというのに、他人にも気を遣えと言うのか?」
「そんなに精一杯悩む事なら、俺にも言えよ。そうしたら一杯じゃなくて半分になる」
小月の言い分は、おおよそ正しい。
わざわざ自分一人で悩むことは無いのだ。他人に心配をかけるくらい悩んでいるなら、他人に相談すればいい。
しかしシキはそうしない。理由は自分自身にも分からない。
「…………話はそれだけか?」
無理矢理、小月の話を断ち切り、部屋を出て行ってしまう。
「……チッ」
小月は誰も居なくなった室内で、一人舌打ちを打つ。
シキと過ごした時間は少ない。だけど、自分はそれなりにシキに信用されているものだと思っていた。
それがどうだ?
シキは今、何かに悩んでいるというのに、アイツはそれを自分に相談してこない。
自分はシキに頼りにされていない。その事実が、小月をイラつかせていた。
「……ただいまぁ」
ファミレスに置いて来た秋音が帰ってきた。
途中で帰ったことを怒られるのかなぁー、という風にぼんやりと小月が考えていると秋音が問い掛けてくる。
「シキ、どうだった?」
玄関にある靴でも見て、小月とシキがいる事は察しがついたのだろう。
「知らねぇ。あんな生意気な貧乳女、どこで何してようが関係ねぇ」
どこか不貞腐れたような感じでいう小月に秋音は溜息を吐いた。
「……今、シキは目も合わせてくれないの。この家で話が出来るのはアンタだけなんだから頑張ってよ」
「頑張ってなんて無責任な言葉を投げかけた所で、俺は動かねぇーぞ」
「……珍しくアンタを頼りにしてるの。シキが多分、一番信頼してるアンタを」
秋音のその一言で小月は余計にイラついた。
もしも本当に自分のことを一番信頼してるというなら、何で話してくれないんだ。
その思いが余計に強く――――。
「……シキが元気になったら、小遣いアップするから」
「どうやって、何処にいるかも分からない両親から貰ってる小遣いをアップするんだよ…………で、いくらだ?」
信頼うんぬんでのイラつきを「金」が絡みだした途端に忘れる小月の態度に、秋音は盛大に溜息を吐きながらバカとの交渉に乗り出す。
「……200円アップ」
「こちとら小学生じゃねぇーんだよ」
「……1000円」
「5000円」
「……2000」
「3000。これ以上は下げられねぇ」
何様だ、と思いながらも小月本人が仕事をしなければ仕方が無い。
「……分かった。3000ね」
秋音は3000円でシキの元気を買うことに決めたのだった。
あとはシキを餌食で釣ったら、予言潰しの始まりですね




