一歩手前
タイトルなんかに意味はない
そういや、本当に今頃だけど。
魔神と精神世界で逢う度に現実に戻ってきたら傷とか治ってたけど、あれって魔神の力のお蔭だったのか。
なんて事を思いつつ、俯せたまま聴覚を頼りに状況を探る。
もう右手には重くて金属の感じがする何かが握られている。というか目覚めたら握ってた。
魔神の言ったことは本当だったらしい。既存の大型拳銃ごときを創りだすなんて造作もない。
「死んだか……?」
帽子のガキの声と共に俺の背中が足で踏みつけられる。
絶対に、ただでは済まさねぇ。このガキさっきから生意気なんだよ。
ガキは俺の近くにいる。だとしたら俺の相手の行動を歪める力で止めておいて零距離で黑鴉を使うのが一番手っ取り早いか。
タイミングは、ガキが俺を死体だと勘違いして立ち去ろうとした時。
「まあ、ミンチにしておけって言われたから念入りに爆散させておくか」
そんなタイミングいつ来るんだよー!
ガキの台詞を聞いて命を危機を感じた途端に、俺は黑鴉のスライドを引きながら上半身を反転させる。
いきなり動いた俺から距離を取ろうと退くガキに銃口を向け、4~5回引き金を引く。
「ちっ……まだ生きてたのかよ」
「しぶとくなかったら、オトアにボコられ死んでるよ」
そう言いながらもう一度黑鴉のスライドを引き、引き金を4~5回引く。
同時に、俺の真上の空間が爆発し、熱と圧迫によって呼吸が止まる。
「カっ……ぁ………!」
「ッ!?」
突然、5ヶ所に銃弾で撃たれた様な痛みを感じたガキはその場に跪き、何が起こったか分からず動揺する。
俺は俺で、呼吸困難の影響か脳がパニックを起こし事態を掴み損ねている。
一旦冷静になれ。ともかく今は追撃。出来得る限り、ガキに追撃。
普通に考えれば、あと少し時間を稼ぐだけでいい。後はアイツが何とかしてくれる。
眼球でガキを捉える。未だに蹲っている。どいつもこいつも銃弾で貫かれる痛みを我慢できるような精神力があるわけじゃないか。子供ならなおさらだろう。多分。
「畜生、畜生畜生畜生畜生畜生畜生」
跪き、蹲りながらガキが念仏のように唱え始めた。
「ぶっ殺してやる、ぶっ殺してやる、ぶっ殺してやる!」
台詞が終わると共に、気付かぬうちに俺の体が宙を舞っていた。
「がはっ……!!」
そのまま自由落下で地面に叩きつけられ、衝撃によって肺の中のわずかな空気が吐き出される。
頭を打たなかっただけ、まだマシな部類だろうか? いや、マシじゃないな。うん。
「……っくしょう……何が…………?」
締め付けられるような胸の痛みを我慢しながら、体を無理に起こし状況を確認する。
辺り一面は、地面も空中もいたる所が次々と爆発し、鼓膜と視覚がおかしくなりそうだった。
「あの、ガキィ……ッ!」
爆炎でどこにいるのかは見えないが、明らかに原因は帽子のガキ。
さっきまでは一ヶ所一ヶ所を慎重に爆発させていたのに……一種の暴走という奴か?
それともこれが本来?
まあ、どっちでもいいか。
どうしようか、この状況。
ガキの行動を歪めたところで多分爆発は止まらない。黑鴉の零距離での無効化は相手の場所が分からないから無理。啄みも同じ理由で却下。
打つ手無し、詰み状態。
…………つまりはゲームセット。
バラバラに無差別に起こっていた爆発が段々と一ヶ所……俺の元へと集ってくる。
そして、とうとう
蒼い炎が防壁のように俺の視界を遮った。
「遅いんだよ、どんだけ音鳴らしたと思ってるんだ」
「悪かったな。来る途中に何度も妨害されたんだ」
俺の文句に、後ろから言い訳が返ってきた。
まったく、妨害を言い訳にするなんてそれでも【蒼い死神】か。
「なんだ、これは?」
「暴走」
俺に近づきながら問うシキに、俺は出来るだけ簡素な回答をする。
「面倒だな」
そう言うと、蒼い炎が拡散し始め、辺り一帯を焼き尽くす。
「大胆」
「普通だ」
熱のない蒼い炎は、しばらく燃え盛った後、静かにゆっくりと消え始めた。
「………いない?」
しかしながら、ガキの姿は焼かれた一帯には残っていなかった。
つまりは、直前で逃げられたということか。
『篠守君、お仕事ちょっとは終わった?』
「9割方な」
両足が無く内臓が腹部から飛び出ている死体を踏みながら、オトアは電話に出る。
『早いね、さすが死神を圧倒するだけはある』
「調べはついたのか?」
『張空秋音の経歴から言えばいいかな?』
「あァ」
『8歳までは児童施設で育って、8歳の時に張空小月の両親が養子にして、そこからはずっと張空家で過ごしてる。裏の世界に関わったのは――』
「裏の経歴はいい」
『…………何で?』
「必要が無いからだ」
『へー……、それで何か分かったの?』
「まだ足りねェ」
『今度は何を調べろというんですかぁー、あんまり仕事が多いとわたし疲れちゃうー』
「ふざけてる場合か?」
『篠守君、お仕事遅いのに人に求めすぎだって言ってるんだよ』
「張空陽介、確かアイツは2年前に死んだんだよな?」
『それが?』
「そいつの死で、何か不審な点は無かったか?」
『あったけど?』
「具体的には、死体が不審そのものだった、ということか?」
『篠守君、知ってるの?』
「いや。ただこれで調べてもらうことは最後になる」
『調べ終わったら結論を聞かせてよ?』
「了ォ解だ」
『それで、何を調べればいいの?』
「8年前のある事件において、張空陽介および張空小月が巻き込まれたかどうか」
『ある事件?』
「あァ。これが当たりなら最悪、張空陽介の狙いの一部ぐらいは見えるかもしれねェ」
『……その事件って?』
「それは――――」
事件に名前なんて普通はありませんよね?
まあカッコいい名前を付けれる才能は作者には無いために、事件の部分は線で誤魔化しましたけど。
あ、誤字脱字が必ずあるんで(分かってんなら直せよ)できれば見つけて注意してください。