登校直前
NOISEを読んでいないと話が理解できないかもしれません。
まあ別に読むほどの文章でもないので、NOISEを読んでいない人は戻った方がいいと思います。
何に関しても、まずは体験版からですから。
「学校? 今日から? 毎日?」
「そう。今日から毎日学校なんだよ、俺は」
目の前に座る黒髪で蒼い瞳の少女がキョトンとした様子で訊いて来たので俺は素直に答えてやる。
少女の名前はシキ。苗字は知らない。苗字を捨てたカッコいい過去を持ってるかもしれないが、知ったこっちゃない。
この少女とは7月の終わり頃に出逢ったのだが、9月1日現在、すっかりとウチの食卓に馴染んでいる。
というか前々から疑問なんだが、こいつは一体いつもどこで寝ているんだ?
義妹にでも訊いてみようか。アイツならば知っているだろうし。
「……ちなみに、ワタシも今日から学校」
「秋音もなのか? ならアタシは家で一人になるのか?」
秋音。張空秋音。俺の血の繋がりの無い妹、つまりは義妹である。
金髪に灰色の瞳。7年前に両親が突如帰ってきて『今日からこの子はウチの子になります』と訳の分からない宣言と共に紹介された少女。
俺はこの少女について、性別と容姿と年齢と誕生日のことしか知らない。
………って、冷静に考えてみれば俺はおかしな状況にいるんだな。
俺は二人の少女を大して知りもしないのに、何故か同じ屋根の下に暮らしている。
義妹については両親が置いて行ったからであるが、シキに関してはいつの間にか住み着いていた。
野良猫2匹に金蔓一つ。それが現在の我が家の状態であるのか。
ちなみに金蔓の立ち位置の奴は言うまでもなく俺である。悲しいな、せめて植物じゃなくて動物がよかった。
「なら、アタシも小月と一緒に学校に行く」
「そりゃ無理だな諦めろ」
シキの提案を速攻で批判し、俺は16人前の蕎麦をひたすら食っていた。
伸びる。食っていても伸びて、量が増える。半端じゃなく。
これを食う奴を人間の部類には入れてはいけないっと思うものも、残念ながらとうに16人前蕎麦を食い終わっている猛者が俺の家に二人は居た。
シキ及び義妹である。こいつら一体どういう食道と胃腸の持ち主なんだよ。本物の化物なのか?
しかしまあ、この二人が食べ終わってしまえば、俺は文句を言えずに16人前蕎麦を完食しなければならない。自ら超人の域に達しなければならない。
取り敢えず、胃袋にどうにか押し込んで、あとでトイレで吐いてしまおう。じゃないと俺には到底不可能だ。
いや、胃袋にこれを押し込める時点で不可能だとは思うのだが。
「どうしてだ!」
どうしてお前らはこの16人前蕎麦を食えるのだ!
……ではなく、シキが俺の批判にさっそく口を出してきた。
口を出すなら、蕎麦の方にしてくれ。是非に俺の蕎麦削減を手伝ってくれ。
「……それは、今日が学校見学日じゃないから」
義妹が蕎麦に苦しんでいる俺の代わりにシキの説得を買ってくれた。
久し振りに、いや人生初めて、義妹が優しいと感じた瞬間だった。
「なら、こっそりと―――」
「……それは、普通に犯罪だから」
「くぅ………」
シキの短絡的な思考はことごとく義妹に撃破され、事態は無事に解決する事に―――――――、
「……ただ、一人が嫌だってだけなら解決法がある」
「………何だ、それは?」
「……登校時間を過ぎてしまったら面倒臭くて学校に行かないっていう人間をちょっとの間、眠らせてあげればいいの」
―――――――なるわけが無かった。事態は更に悪化を極めそうになっている。
…って、あれ? 俺の危機管理能力が呻きを上げてるよ、もう詰みだ諦めろ、って。
そんな事はない! まだ俺には魔神がいるんだ!
ちなみに補足しておくと魔神というのは詳しくは知らないが、俺の中にそんな存在が居るらしい。そしてその存在はめっちゃチート能力を持っているらしい。詳しくは知らないが。
あと言うとすれば、こんな場面ではわざわざ力を貸してくれないって事だ。
さぁて、頑張れよ俺の胃袋。今日の俺の命運はお前の許容量に託されてしまったんだ。
蕎麦は噛まなくても直接食道を通る。そう信じ込んで次々口に運ぶ。
途中に吐きそうになったが、正直、シキが義妹の勧誘に負ける前に完食し家を脱出しなければならない。吐いてる暇など俺には残されていないのだ。
「ごちうぇ………」
気合いと根性と精神と理性で完食し、中途半端な言葉を言った後、俺はすぐさまに家からの脱出を試みる。
「……あ、逃げた」
「小月、ちょっと待ってくれぇ!」
後ろから、俺の背後から死神が手招きをしているイメージ図が思い浮かんだ。悪夢だ。
幸いな事に、登校の準備を終わらせてから食事を取っていた為、鞄は玄関に放りだされてた。
何故に玄関に放り出されているのかと言えば、俺がそこに投げ捨ててから食事を取った為である。
「いってきまうぇっ!」
靴を履き、鞄を持ち、玄関を開け、とても奇妙な挨拶と共に俺は家からの脱出を成功させた。
今思い返せば、ここでシキに捕まっていたほうが良かったのかもしれない。
まあ、大して結果は変わらないだろうが、気分的にはもうちょっと危険な世界を忘れたかった。
しかしながら、引き金を引いたのは俺自身らしい。無自覚ではあったが、俺の行動が引き金となってしまったらしいのだ。
そう。つまりは、仕方が無い事だったわけだ。
9月1日。この日、俺のクラスに転入生が来た。
この小説のファンタジーなところは作者の頭の中ですので、ご注意ください。
あと、分かってると思いますが趣味で書いてます。更新速度が異常に早くなったり遅くなったりはいつもの事です。
それと、2~3人しか読者がいないと思いますが、まあ勝者の方々は引き続き読める物なら読んでみやがれ、です。