魔神
タイトルなんかに(ry
「あ、デートうんぬんとかで忘れてたんだけど」
夕食後、俺はテレビの動物番組に夢中になってらっしゃるシキに話しかける。
「ん、何だ? 出来れば後にしてくれ」
「魔神と話がしたいんだけど、どうすればいいか知ってる?」
義妹と話を終えた後も、夕食前も夕食中もずっとその事を考えていた。
死ぬ前に兄貴は義妹に俺の悪夢について聞いたそうだ。その悪夢に一番深く関わっているのは間違いなく魔神だろう。
俺が悪夢を連続で見るようになった時と魔神が失踪した時が一致してることなどの根拠すらある。
最悪、兄貴が魔神に何か仕掛けている可能性すらあるから、俺は魔神と話さなきゃいけない。
まあ別に義務じゃないけど。
「魔神だと!? バカかアホか血迷ったか小月! なにか悩み事があるならアタシがしっかり聞いてやるから魔神だけは止めておけ!」
画面の向こうの白くまの赤ちゃんを見入って今まで一切こちらを見なかったシキが、突如こちらに視線を移して、ぎゃあぎゃあと騒いでいる。
そこまで魔神が嫌いなんですか、シキさん……。
っていうか俺は自分の中にいる存在にしか悩み事を打ち明けられないほど話し相手が少なくて寂しい奴だと思われているのか!?
「別に血迷っても悩み事があるわけでもねぇーよ。ただ魔神に聞きたい事があるだけだ。っていうかお前はそこまで魔神が嫌いなのか?」
「嫌いという言葉のみでは、というよりもこの世にある言語のみでは言い表せない程にアタシは魔神が嫌いだ」
そこまで……一体、魔神とシキの間では何があったんだよ。
魔神の方は、そこまでシキを嫌いそうでもなかったんだけどな……。あ、でも最初に俺が魔神に会った時にはシキと口論してたっけか?
「いいか小月。魔神は鑑以上にヤバい奴だ」
鏡師匠と比べてヤバい奴って………つまりはそういう事を魔神にされたのかシキは?
本当にシキと魔神の間には一体、何があったんだろうか? 少し気になる。
「そもそも鑑をあんなのにしたのは魔神だ!」
「なんと!?」
「しかも再会した時にはアタシにあんな悪夢を見せつけてきて……」
あ、ヤバい。シキがガクブルと震えてらっしゃる、しかも涙目だ! これは相当にヤバいぞ魔神ってやつは!
「小月も二度とアイツとは関わるな! お前も芯まで犯されて元に戻れなくなるぞ!」
「そ、それでも俺は魔神ともう一度話さなきゃいけないんだ」
涙目でこちらを上目遣いで見てくるシキに、俺は上ずった声と恐怖で引き攣った顔で答える。
正直な話、いやです。話したくないです。芯まで犯されたくありません。
鑑師匠には憧れてますけど、あそこまで道を究めたくありません。
それでも俺は魔神と話さなければいけない運命なんですコンチキショウ。
「そうか……そこまでお前の意志が固いのなら止めはしない」
「つまり俺はシキに見捨てられたって事か……」
「魔神とは寝れば会えると思う」
「……え?」
寝れば会える? 俺がほぼ一日中考えていた答えはそんなにあっさりとしたものなのかよ!?
「確証はないが……多分、お前が会いたいと思っているなら魔神も出て来るだろう。夢の中に」
「そうか………なら、もう寝るわ。おやすみ」
「あぁ…………………乗っ取られるなよ、小月」
最後に不気味な一言を掛けられて、俺は自室へ直行。そのままベットに倒れこみ、眠ってしまった。
白と黒とがきっぱりと二つに分かれ、その間に透明な鑑がある世界。
俺は白側にいて、黒側には腰まで伸ばした白髪で顔を隠している少女……魔神が居る。
互いは鏡越しに互いの姿を見合っている。
「それで、何の用なの?」
「お前の事について知りたい」
最初に話し掛けてきたのは魔神。俺は質問に答えるように言葉を投げかけた。
「最初に会った時に言ったでしょ? 私は二度と自分のことについて言いたくないって」
「なら、どうしてお前は俺の中に居る?」
「それも最初の時に言った。貴方自身、本当は知っているって」
そんなの覚えてねぇーよ。っていうか質問に答えろよ、俺の中に居候してるくせに。
「じゃあ、悪夢はお前が見せてるのか」
「そうだけど?」
「……8年間365日毎晩欠かさずに合計連続2920回も見せた意味は、あるのか?」
「嫌がらせ?」
くそっ! 鏡が邪魔で俺の拳が魔神に届かない! 俺は今すぐにこのふざけた性悪魔神を殴り殺さなければならない使命と本能と宿命と感情と運命と理性があるというのに!!
大体、可愛らしく首を傾げて言う辺りが一番ムカつく! あぁ今すぐに殴り飛ばして次元の彼方へ葬り去りたい!
「悪夢には意味が無いよ。あれは副作用みたいなものだから」
魔神の一言によって俺は冷静さを取り戻す……わけもなく、拳で何度も鏡をぶっ叩きながら魔神の言葉を聞くことにした。
「あの悪夢は、私が貴方の中にいるから見るようなものなの。だから悪夢自体に意味は無いようなものだし、私の意思も関係ないの」
「だからどうした!」
中々壊れないなこの鏡。強固ってわけではないのに。
夢の中の物だからか? だから壊れないのか? 壊れなきゃ魔神を殴り殺せないのに。
「張空陽介が張空秋音に実際に聞きたかったのは、今のこの状態って事」
「………この状態?」
とうとう俺は鏡を壊すのを諦め、魔神の話を聞くことにする。
「私が貴方が見る悪夢に干渉して、こうやって会話する事。その状態であるかどうかを張空陽介は知りたかったの」
「どうして? つーか今の状態だと何かが起こりやすいのか?」
「私の力を貴方が簡単に借りられる」
………あぁ、そういう。
狐狩りの時、俺は今のこの状態で魔神から力を貸された。俺が暴走する結果だったけど。
でも、もしもガキの時から魔神とこの状態で話していたりしてたら暴走しない程度の力が借りられたかもしれない。
兄貴は俺がそういう状態かどうかを知りたくて、義妹に聞いたわけだ。
俺が義妹とまともに話しているわけが無い事は知ってたけど、一応の確認で兄貴は聞いてみたわけか。
つまりあの野郎は元々俺を引き金や駒にするつもりだったってことかよ。
……それじゃ、兄貴は何に恐れてた?
義妹は今の俺と死ぬ前の兄貴が似ている心境だと感じた。予測と恐怖。
予測はもう検討がついた。俺が戦力になるかどうかだ。
じゃあ何に恐怖していた?
俺が戦力にならない事? それとも俺が戦力になる事? それとも別の何かか?
「………まあ、そんな事より」
俺の思考が行き詰ったところで、魔神が話題を変えるように話し掛けてきた。
一体なんだよ、俺は考え中なんだよ。魔神なんかと雑談する気なんて――――――――
「ねぇねぇ、シキとのデートはどこ巡るの!?」
「黙れよこの性悪魔神がぁ!!」
―――――さらさら無いが、一応釘を刺しておく事は必要だ。
というより何でその事で魔神が首を突っ込んでくる?
っていうか何で前髪で顔が隠れてるはずなのに何で俺は魔神の目がキラキラしてる事が分かるんだ!?
一時的に透視能力を身に着けたか? それとも目の輝きが尋常じゃないからか?
「私はね、買い物とかより遊園地とか動物園の方がシキの可愛い顔が見れると思うの!!」
限界まで身を乗り出して魔神は意見する。
その際に顔を隠している前髪がちょこっとばかし移動して、眩しいくらいの金色の目の輝きと嬉しそうな顔の綻びが見えた。
何を嬉しそうにしてるのか? 多分、遊園地とか動物園とかに行った時のシキの顔を妄想して喜んでるんじゃないか?
前にあんな顔をした鑑師匠を見た事がある。確か初めて会った日、シキに巫女服着せて撮影してた時も一瞬あんな顔をしていたような気がする。
「そういえば、さっきの涙目のシキも可愛かったよね♪ 私あれでごはん10杯はいける」
「黙ってくださいお願いします」
マジ引きである。もう敬語である。っていうかさっさと目覚めたい、これって一応夢なんだろ?
そういやシキが鑑師匠をあんなのにしたのは魔神だとかなんとか言ってたけど、こりゃ比じゃないぞ。
この魔神は生粋のシキマニアだ。鑑師匠を上回る。シキの天敵だ。
「あ、でも買い物でもいいかもしれない! 可愛い服着て笑ってるシキが見れちゃうきゃー!」
「俺、もう聞きたい事は聞けたんで帰りますね」
「何言ってるの。私が何で夢に出てきたと思ってるの?」
「……一応聞いてみますけど、何故でしょうか?」
「私のシキギャラリーの拡大の為のデートプランを貴方に実行させるため♪」
「キャラ崩壊が著しいんだよこのクソ魔神が!」
なんだよこの変態、誰だよこの変態! この変態、廃棄汚染物と同じ場所に捨てておけ!
「私は元からこうだった。それを隠していただけ」
「俺が最初にココに来た時、シキと口論してたよな!?」
「だって怒ってるシキは可愛くないんだもん」
「だもん!? もう喋るな! これ以上キャラ崩壊するな! とにかく黙ってくれ!」
「大体、私が狐狩りの時とかに貴方に力貸したのだって9割方シキの為だよ」
「俺の事は1割しか考えられてないのかぁ!?」
「大丈夫。その時は1割たりとも考えてなかったから」
「出てけ! 今すぐ俺の中から出て行け!」
「でも一応、言葉上だけは貴方の為的な風にしたつもりだし、それに今ではちゃんと貴方の事も思ってる」
「また何で?」
「このまま貴方とシキが付き合って、二人だけの時間とかを過ごしてる時も私はココからシキの表情が全て見れる! だから私は貴方とシキの恋路を応援してるよ☆」
「やっぱり出て行けぇ!」
これが魔神の本性か………シキマニアの頂点だな、もう。
「っていうか俺とシキが付き合うとか、有り得ないから」
「何言ってるの? 私が貴方の体を乗っ取ってでも、私は貴方とシキの恋路を応援するって言ってるんじゃない」
「お前はそこまでしてデレシキが見たいのかよ!」
俺の背中に悪寒が走った。
『乗っ取られるなよ、小月』
何故だろう。シキに最後に掛けられた言葉が突然フラッシュバックした。
「さぁ、こっちにおいで。こっちにはロリシキの映像があるよぉ」
「俺とお前を一緒にするな!」
黒側から何本もの触手的な手がニョロニョロと俺に向かってやってくる。
その触手は俺の体に絡みつき、力強く黒側へ俺の引きずっていく。
確か、俺は狐狩りの時にあの黒側に呑みこまれて暴走した。つまりあの黒側は魔神の領域なのだろう。
嫌だ。黒側に行きたくない。魔神と同類に成り下がりたくない!
俺は必死に抵抗をするが、絡みついた触手はその程度では解けもしないし、時間稼ぎにすらならなかった。
「さあ、今こそシキが私のものになる時だ!」
「それに俺を利用するなー!」
俺の叫びも抵抗も虚しく、俺は徐々に黒へと呑み込まれていく。
最後に、急に真っ蒼に染まる世界とどこかから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
多分、ここら辺から辻褄がさらに合わなくなると思うのであしからず。