死の代わりに……
引き続きまくり、タイトルなんかに意味は無い
「ただいま」
「……おかえり」
夕食中にシキがやっと帰ってきた。
行ったのが10時前だから、随分と遅い帰宅である。
「ただいま」
「……おかえり」
しかし、義妹とシキ。お前らそのやり取り何回目だよ。シキが帰ってきてからずっとやってるよな。
飽きないのか? それとも何かの信号なのか?
俺は夕食を黙々と口に運びながら考える。
って違う。俺が考えてたのはそんな事じゃない。だいたい信号ってなんだよ。
「ただいまっ!」
「……おかえり」
まったく、なんで飽きないんだこの二人は? もう何が面白くてやってるのかさえ忘れたとかか?
まあ、いいや。女の子同士の事に男は首を突っ込みませんよ。
さて俺は自分の考え事を続行させ―――――
「ただいまと言っているだろ、何故反応しない小月!」
「うおっ! 痛っ! いきなりどうしたんだよシキ」
「お前の代わりにわざわざ行ってやって、帰ってきたら無視か! 随分な態度を取るじゃないか、小月のくせに! 勧善懲悪だ、今すぐ天罰を与えてやる」
いきなり俺の首を背後から腕で締め上げてきて喚いているシキ。
「っていうかお前、勧善懲悪の意味分かってんのか?」
「ペットに主人が誰だかを教えるための躾けをする。そういう意味だろ?」
「全然違うわ!」
「ともかく、お前に罰を与える事に変わりはない!」
段々と締め上げられていく俺の首。遠のく意識。見えてくる綺麗な綺麗なお花畑と白い服の人達。
今日は首締めとかに嫌な縁がある日だな。
さて、こういう時はなんて言えば拘束を解けるのだろうか?
誰か知っていたらここまでハガキを送ってくれ………って、さっそくお便りが!
よし、そのままやってみよう。
「シキ…む、胸が当たってる」
「アタシを侮辱して何が楽しいんだコヅキィイイッ!!」
さらに締め上げる力が強くなる。このままだと窒息より先に首が折れる。グッキっといっちゃう。
何だ、何が悪かったんだ? 棒読みだったからか? 棒読みだから失敗したのか?
ってヤバい! 苦しい、頭に血が溜まってきた、呼吸が出来ない、首痛い、死ぬ!
くそっ! 次のお便りは…………『何でも言う事聞くから』、か。
ダメだ、危険すぎる。
俺は今日ようやく残金20円の生活から脱出したというのに、そんな事を言ったらたちまち福沢さんがどこかへ消えちゃう!
そんな事をするなら自分の命を捨てた方がマシだ!
「シキ、何でも言うこと聞くから離してくれ。頼む!」
……あっれー? おかしいな、誰だろこんな事を言ったのは?
まさかだとは思うけど、俺の口が命欲しさにそんな事を言ったのかなぁ?
ははっ! そんな事は―――
「何でも? 何でもとはどの程度までなんだ小月?」
「何でもって言ったら何でもだ! ケーキを買えでも洋服を買えでも逆立ちで校庭10周でも遊園地に連れて行けでも水族館に連れて行けでも俺に出来る事は何でもする。言う事聞くからこの腕をどけてくれぇ!」
おいおい我が口よ。いくらなんでもシキが力を緩めた瞬間、命惜しさにそこまで言う事は無いだろ。
さすがにやり過ぎだし、責任取るのは俺だし、いいよな口は何でも言い放題で!
しかしまあ、このままだと案外死なずに済むかも。
「本当に、何でも言う事を聞くんだな?」
「はい、そうでございます」
媚を売るな、俺の口。いい加減に俺の支配下に戻るんだ。
お前は誰の口だ? 俺の口だろうが。戻って来いよ口。
「そうか、なら」
口が媚を売ったお蔭で、首がボッキリ折れる事は無くなったようだ。
だがシキよ、いい加減俺の体から離れろ。腕の力を抜いただけで俺から離れてないじゃないか。
これじゃ、シキに何かを言われる前に自室に立て籠もって出てきた時には何もかも忘れたふりをする作戦が実行できないじゃないか。
「明後日、デートをしたい」
「嫌だ。っていうかダメだ」
おぉ。口がやっと俺の支配下に戻ってきたか。
「何故だ、さっき何でも言う事を聞くって言ったじゃないか」
後ろから顔を出してきて、息が当たるほど近い距離でシキが俺を見てくる。
っていうか俺に体重を乗せるな。それと当然だけど顔が近い。ちゃんと離れてから抗議しろ。
「俺に出来る事は、な。明日も明後日も学校なんだ。だから無理」
「学校とはそれ程に大事なのか?」
「あぁ。学校とデートを天秤に掛けたら学校の方に傾くほどだ」
何故だろう。胸がズキッと痛んだ。
嘘を吐いた時に今までこんなもの感じた事は無かったのにな。
大体、俺の人生においてデートなんて甘美な言葉が出てきた展開があっただろうか? いや、ない……。
「……アンタ、何言ってるの?」
突然義妹が口を挟んできた。
おっと、俺の口から洩れていたのか今の心境が。それはちょっと恥ずかしい……。
「……明後日は土曜日よ」
「え?」
「……土曜日は学校が休みでしょ」
「本当か!」
シキが目を輝かしながら義妹の方を見る。
考えろ俺。考えろ! まだ逆転の一手があるはずだ。
「えっと……私立校だと、土曜日も学校が―――」
「……アンタは公立でしょ」
チェックメイト。俺の完全敗北である。
くそっ! シキには口で勝てても義妹には未だ勝てないのか俺は!?
「それじゃ、明後日デートだぞ小月!」
「そーですね………」
俺の背中で騒ぐシキ。その俺の背中は暗い影を背負っていた。
いや、俺だって喜ぶべきことですよ。普通なら。
けど普通に考えてデートって事は、あのデザート死神の昼食代を支払わなきゃいけんのですよ?
デザートだけで俺の財布を軽く……っていうか財布の意味を無くしくれるようなシキの相手を一日掛けてしなきゃいけないんですよ?
一日中、シキに振り回されるんですよ?
………………………………………………………。
…………………なんかそれっていつも通りな気がしてきた。
ともかく、明後日以降に俺の財布が意味を成している事をただただ祈るばかりであった




