精神の先
しかし、焼き尽くした煙や、引き裂いた肉が闇の核に集まりはじめる。
時空がかすかに歪み、いやな空気がたちこめた。空気が薄まり、息苦しい。暗闇の中から姿を現した鬼は、すさまじい覇気を放っていた。
「楓さん・・・」
震える声で安心をもとめた。声が聞きたい、ただそれだけ。
「気を引き締めていこう。やつが鬼の王、いわゆる上級鬼だ。」
鬼はゆっくりとした口調で、低い声を響かせる。
「貴様、我らと同じ高等種に位置する龍だというのに、人間など虫ケラと手を組みおって。恥を感じないようだな。いいだろう、消し潰してやる。 ハッ!!!」
圧縮された空気の玉が、何十にも張り巡らされた守りの光を砕き、龍の体に直撃した。
「くっ、はやいな。沙紀ちゃん、大丈夫?」
「ちょっと痛いけど大丈夫です、指示を!」
「上に!接近戦はまずい、遠距離から攻撃していこう。」
大きく上空に身を躍らせる。電撃が鬼の角から発生し、襲い掛かった。
楓は大きく腕を電撃に向け、直撃寸前のところで、法力によって打ち消す。
(もっと離れて。詠唱する時間を稼がせてくれ。)
「ち、人間ごときに我が雷を消されるとは。龍の力ありきだとしても、少しなめていたようだな。」
鬼は体を丸く縮めた。大きく反動をつけて大の字になると同時に、圧縮された闇の塊が、楓たちに直進してきた。
(あれはくらうとまずい、下方に飛んで。)
時空を歪ませながら迫る衝撃波を、間一髪のところで避ける。
「甘いわ!」
鬼の叫びとともに、衝撃波は砕け散り、方向をかえて散弾のように沙紀達を襲った。
「きゃあああああああああああああ!」
痛みという痛みが体中を駆け巡る、しかし闘志の炎は喉に溜まっていった。
さきほどから詠唱を続けていた楓が力強く両手を鬼にむけた。
「破壊の神シヴァよ!我が精神と血を今捧げん。その力を具現し、闇を打ち消せ!」
楓の体中を紫色の光を覆い、激しく膨張した。やがて光は手の先に集まり、音速を超え解き放たれた。
「ふんっ。」
しかし、鬼の気による防御壁が何十にも重なり、掻き消されてしまう。
(いまだ!!!)
長い時間チャージされた太陽に近い火球は鬼を捕らえた。
「くっ・・・ぐぁあああああああああああああああああ!」
しかし、焼かれた身のまま、鬼は接近してきた。風をまとい、こぶしが沙紀の右翼を貫く。今まで感じたことのない痛みが沙紀を襲った。さらに闇の塊を足にやどし、蹴り上げてきた。楓は龍の体をとびだし、防御壁をだしてうけとめた。しかし、直撃は避けられても衝撃は楓を襲い、腕と肋骨が砕けた。
沙紀は痛む体を無理やり叩き起こし、落下していく楓をうけとめた。翼を失い、うまく飛べない。
地べたに這い蹲り、痛みに嘆いた。鬼も身を焼かれながら落下し、大地に身を打った。
沙紀はあまりの痛みに気絶し、動かなくなってしまった。楓は龍に触れたかったが、肋骨がくだけていたため動けなかった。
「治療の神よ、彼女に千の恵みを。」
かすれる喉を引き絞り、龍に回復法術をかける。しかし、沙紀は目を覚まさない。絶望が楓を襲った。
しかし、すぐに殺気に気付き振り向いた。ゆっくりと鬼が立ち上がり、こちらにむかってくる。
楓は度重なる技の連続で、力をほぼ失っていた。精霊や神を使役する大技を短時間で連発したのも大きい。最後の一撃をうつべく悲鳴を上げるからだを鞭打ち、詠唱する。
「大地よ、我が声を聞き、我に従え。鋭利なる棘をもって、闇を貫け。」
鬼の体を大地から飛び出す岩石の槍が突き刺した。しかし、鬼はフラフラとこちらに向かってくる。もはや奴に意識はなかった。ただただ、殺意によって体がつき動かされているようだった。
目の前にきた鬼はにやりと口角を上げ腕を振り上げた。
サキエルと沙紀ちゃんだけは守らねば・・・。体をもって鬼の体をうけようとする。
(楓さん、伏せて!)
大きく口を開き龍は炎を吐き出した。楓は伏せるというより、倒れこむように地面に抱きついた。
地獄の業火が鬼を包みこむ。やがて灰になり、塵となって風に運ばれた。
龍は再び目を閉じたのだった。




