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一寸先も闇

「今夜は風が気持ち良いなぁ。星も綺麗だ、雲ひとつない。」


「ほんとですね。これから命をかけて戦うとは思えません・・・」


「本当にいいのかい?やっぱり引き返したほうがいいんじゃないかな。いくら僕が強いといっても、確実に怪我をさせないでいられる保障はないからね。」


「いえ、たぶんもとの世界に戻るには、この戦いが鍵になっているんだと思います。何度も夢で経験しているシーンだと思いますし。」


「なるほどね。わかった。僕もなるべく防御に徹するよ。おっと、やっこさんのお見えだ。ふふふ。さあ、いこうか。」


「はい!」


洞窟から飛び出し、星を楽しむ余裕はほとんどなく、闇の大群にいきついた。音速に近い速度で飛行可能なこの体だからこそできる技だ。地響きのような咆哮を轟かせ、密集しすぎて単体では見分けのつかない鬼達を威嚇した。熱い何かが首の辺りに溜まってくる。大きく口をあけ、息を吐いたと同時に、巨大な火の玉が鬼を包みこむ。密集した黒の塊は黒い炎を吐き出し、攻撃してきた。


「沙紀ちゃん、いい調子だよ。このペースで頼む!さっき君にかけた法術なら、群れている下級鬼かきゅうきの鬼火ぐらい掻き消せるはずだ。安心して焼き尽くしてくれ。」


「はい!」


巨大な翼から巻き起こす疾風が鬼の体を切り裂く。鋭い爪で引き裂く。絶え間なく続く火炎放射によって、空中を覆っていた下級鬼は瞬く間に蹴散らされた。


「沙紀ちゃんほんとに学生だったの?すごすぎだよ。でも無理しないでね。」


「何度も夢で経験してましたから・・・サキエルさんの動きが体に染み付いてます。」


「なるほどね、こりゃあ僕の心配は必要なかったかな。とっととボスのほうもかたずけてしまおう。」


「はい!」


二人が安心したのも束の間、大群の中核から、より一層巨大でおぞましい鬼が5体現れた。


「おっと、こいつは気が抜けないのが来たな・・・さっきのように鬼の攻撃を一切無視して攻撃してたら身がもたない。僕の指示に耳を傾けてくれ。心に直接かたりかけることもある。信用してくれ。」


「わ、わかりました。」


中級鬼は巨大な鬼火を吐き出してきた。あれにあたったらまずい。戦闘経験がない沙紀も、生物の勘で気づかされた。


「沙紀ちゃん、右上空に回避、同時に火炎の準備!」


巨体を振りかざし熱を喉にためる。しかし、鬼の一体が棍棒を回避先で大きく振り上げ、待機していた。しまった、やられる。そのとき、楓の意思が届いた。


(口を鬼に向けて!僕を信じて。)


「大地よ、我の声を聞き、我に従え。折り重なる鉄壁で我を守れ。」


龍の顔面に振り下ろされた棍棒は、楓の作り出した鉄の壁にさえぎられた。鉄をたたく鈍い音が聞こえたとき、強く圧縮された熱の塊が、鬼を包みこんだ。その後ろにいた鬼2体を巻き込み、灰に変えた。


(まだ鬼の攻撃は続いている、前方に加速!)

楓の意思が伝わり、瞬時に翼を羽ばたかせた。刹那まで沙紀がいた場所には残りの2体が総攻撃していた。一瞬でも行動がおくれていたら、肉塊にされていただろう。


「右手に祈りを、左手に誓いを。送る花束は200、我が声を聞きたまえ風の精霊シルフィ、その力をもってすべてを切り裂け!」


龍大きく翻り、鬼に向け両手を向けた。掌から200の風の刃が現れ、鬼を細切れにした。


「よし!大丈夫かい、沙紀ちゃん。」


「はい、危ないところでした。」


「はは、とっさに行動に移せると信じていたよ。」


「心臓は4つくらいに増えてる気分ですが・・・」


「そいつぁ高鳴りすぎだ、怖かったね。すまない。」


「いえ、お役に立ててうれしいです、がんばります!」

不安や緊張、恐怖がないといったら嘘になる。しかし、それ以上に安心と期待にこたえたいという気持ちがあっただけだ。無傷でここまでこれたのも、楓の援護あってのこと。信頼をおくにはお互い十分だった。




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