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翼を見つけた少年

もう楓はなにも考えていなかった。自分が今、歩いているのか、止まっているのかもわからない。

ただ、死に向かって進んでいる実感だけが、楓の足を無意識に進めた。


歩き続けて5日目。厳しい修行や絶食の成果で、楓は一向に痩せ衰えなかった。

常任なら飲まず食わず寝ずで歩き続ければ、間違いなく死んでいるだろう。


生きたいと願わなくても、鋼となった楓の肉体と精神は、死ぬことさえ許されなかった。


太陽が沈み登る。これの10回目を見届けたとき、楓はある巨大な洞窟にいた。

まるで鍾乳洞のような祠を見つけた時、楓はここを私の墓にしようと思った。

リーン、リーンと空気の鳴る音甲高いがする。青白く輝く突起した岩の数々。

太陽の光が届かないはずなのに、その発光する岩のおかげで、辺りを見渡すことができた。

その美しさに感動はしたが、生への執着はおこらなかった。


神がくれた最後の贈り物。

ありがたく頂こう。


しばらく、といっても2日以上だが歩き続け、楓は最深部についた。

より一層広いその空間に寝そべり、楓は死を待つことにした。

さすがの楓も17日間寝ずに進み続け、死を予感していた。

両親や爺様のことを思い出す。しかし、生きようとは思わなかった。


父様、ふがいない私をお許しください。最後に懺悔し、そして思考をやめた。























「あら、こんなところに客人とは。珍しいこともあったものね。

それにここは人間ごときには立ち入れない聖域のはずなのに。」


楓は目を疑った。そして思った、ついに幻覚と幻聴か、と。

なんせ目の前には、この世のものとは思えないほど美しい、龍の姿があったからだ。

一切傷のない、ダイヤの輝きをもつ青い龍鱗、すべての生物を凌駕する圧倒的な質力と威厳。

均整のとれたフォルム。

しなやかで透き通るような巨大な翼。そして水晶を超越するすべてを見通すおおきな瞳。

存在自体が芸術だった。


「あ、あなたは一体・・・・」


起き上がる力のない楓は、倒れたまま声を振り絞り話しかけた。


「それはこっちのセリフよ。ここは私の聖域。勝手に侵しといて、いい御身分だこと。

なぜあなたはここに?」


「わからない・・・死のうと思い、歩き続け、気付いたらここにいました。

勝手に入ってしまい申し訳ない。」


「死、ね。人間とはやはり愚か。自ら生を絶つことを望むなんて。信じられないわ。

生物は今日を生き抜くために必死だというのに。

中途半端に食物連鎖の上位にたつと、勘違いしちゃうのかしら。」


あまりに神々しいその姿をみたとき、楓は思った。

まだ死にたくない、と。

絶望の塊になり、もぬけのからとなった楓の体を、熱い血液が巡り始めた。


「私は・・・・私 は 生 き た い !」


朽ち果てた楓の体を淡い光が包み込む。枯れ果てた皮膚は水々しさをとりもどし、青い顔色は健康的な赤に染まった。水や食料などの補給は必要だが、何より生への執着が楓を突き動かした。


「なるほど、法師だったのね。どうりで。それも、かなりの腕の。若いのに立派ね。」


「あなたのおかげだ! 私は今まで法術を使えなかった。それが突然回復法術を使えるようになった。

私の生への執着が、肉体と精神を一致させ、言霊により発動したのだろう。

何度感謝してもたりない。

私の名前は風鈴院 楓。もし名があるならお聞かせ願いたい。」


頭を地面にこすりつけ、涙を流しながら感謝した。その光景を龍は理解できずに見つめていた。


「私は何もしてないわ。あなたが勝手に」


楓は龍の言葉を遮った。


「それでも、だ!あなたの美しく、神々しい姿に私は感動した。

絶望しかなかった私に、あなたは光をくれた。

このまま死んでいれば、私は罪人として一生地獄で身を焼かれていただろう。

この命、あなたのために使うことを約束する!」


「普通の人間より少し上等だからといって、私になにか貢献できると思ったら大間違いよ。

あなたに出来ることは何もないわ。」


下等に人間風情になにができる。宝石より美しい龍は人間を見下した。


「ならばより修行する。私にも法術が使えることがわかったのだ。

どんな修行にも耐えてみせる。あなたのために使える命になるよう、私はこの魂を燃やそう。

それが私の生きる理由だ。ありがとう、ありがとう!」



その日から、楓はたびたび龍のもとへ訪れるようになった。

爺様も寺で余生をすごし、母は結界内で安心して暮らす。


楓はみるみるうちに立派な法師となっていった。

始めは龍に煙たがられていた楓も、様々な献上物や、紳士な態度に、次第に心を許すようになった。

若くして父を超えた法力を得たが、楓は修行を怠らなかった。

命の恩人である龍に少しでも恩返しをしたいからである。

また、龍にした約束を守りたかった。なにができるかはわからないが、何か出来ることが生まれたときに、力になれないのは嫌だったからである。


楓は18歳の時、すでに日本で最強の法師といわれるようになった。

海を割り、大地を砕く。底知れぬ精神力と体力。

どんな強大な妖怪でも、楓にすれば赤子同然だった。


しかし、そんな危険因子を、闇の住人が許すはずがなかった。

妖怪というのは、人間の思念や情が結晶化し生み出される、人間の産物。

だが、闇の住人は違う。

闇の住人とは、おもに鬼のことである。鬼は、人類が存在する大昔から君臨し、今でも人間よりはるか上位の存在として、恐れられている。

鬼も鬼で、虫ケラ同然の人間にいちいち干渉することはなかった。

たまに食糧や水を奪われたりする程度だ。鬼の領域には、人間は決して干渉しない。

また、妖怪の中にも鬼と等しい力を手にするものもいた。

九尾狐や、牛鬼などである。

人間と仲良くしている本来高等種である龍も許されなかった。普段は鬼や妖怪が攻め入ったときのみ迎撃していたが、サキエルも楓に意識がいっていた。また、私のせいで鬼に狙われてしまったという罪悪感もあり、二人は協力して、闇に抗うことを選んだ。



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