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変わらない思い

巨大な森の端にある、洞窟の前。狩りにいっていた楓は、自分用の鳥と、パートナー用の猪を担いで、腹をすかして帰りをまっているであろうサキエルのもとに駆け寄った。


「サキエル、今日のご飯はごちそうだよ。夜は激しい戦闘になるだろうからね。おいしいもの食べて力をつけよう!」


楓は、まだ距離があった比較的大きな声で話しかけた。しかし、意志表示はかえってこない。

風化した石像のようにピクリともしない。


「サキエル?おーい、どうした?具合でも悪いのかな?」

覗き込むように話しかける。

すると龍は、ハッと息をのみ、喉を鳴らした。


「ん・・・・ あ、あなたは楓さん! ですよね。 てことは私・・・精神ごとこっちの世界に来ちゃったってこと? どうしよう!」


突然意味のわからないことを言い出したパートナーに困惑を隠せない楓。感情は表情に表れていた。


「何をいってるんだい?はは、サキエル、さては寝ぼけてるなぁ。」


樹齢1000年の大木ほどの大きさのある翼をゆさぶり、焦りながら龍、いや沙紀は答えた。


「違うんです!あ、あの実は私はサキエルさんじゃないんです。

ごめんなさい、突然言っても信じてもらえないかもしれませんが、今の私は楓さんとサキエルさんの未来の孫の孫の孫の孫の孫の孫の孫の孫の曾孫の玄孫ぐらいの孫の精神なんです!

体はサキエルさんですが・・・」


見たことのないぐらいあたふたしたサキエルに、楓は不覚にも可愛い、と思ってしまった。

普段冷静で、神殿のような神聖な雰囲気をもつ知的な存在。それが今ではまるで子供だ。


「と、なるとさ、今サキエルの体を支配しているのは、僕とサキエルの未来の子供の子孫ってこと?

信じられないなぁ。

君は龍になったことを疑問に思ってないようだし。

それになんで僕が楓っていう名前だとわかるの? 

大体僕とサキエルは種族が違うから、子を成すことはできないのだけど・・・た、たしかに僕たちは愛し合ってるけどね。」


楓は頬を紅くそめていた。


「実は何度も戦闘中、私の意志はサキエルさんに支配されながらも、確かにこの世界にいたのです。だから名前もわかって・・・それに祖先が龍だったという話を祖父から聞きまして。」


少し落ち着いた口調で沙紀は説明した。うなずく法師。


「まあその話が本当だとして、君は未来に帰れるのかい?サキエルはもとに戻れるのかなぁ。

というか、明らかに性格も喋り方も違うし、きっと本当なんだろうけどね。うんうん、信じるよ。」


そういって楓は困ったように微笑んだ。思ったよりあっさり状況を飲み込んでくれたことに、楓とサキエルの信頼関係の強さに感謝した。


「信じていただけるんですか? ありがとうございます! あ、でも、帰りたいんですが、帰り方がわからなくて・・・体の動かし方とかなら一緒に体感して慣れてるんで問題ないんですけど。」


「そうか、それは困ったね・・・そういえばサキエルの精神はどこにいっちゃったのかな。」


「多分サキエルさんの精神と意志はまだ私の中にいます。

直接声は聞こえてきませんが、存在を感じることができるので、間違いないです、はい。」


「なるほど、まあサキエルが無事なら僕はなんでもいいや。でも困ったなあ、今日の夜に、闇の住人との最終決着をつけるつもりだったのに・・・いや、君を責めてるわけではないよ、不可抗力だったわけだし。

でもどうしよう、一人で戦ってくるか。」


ぐるぐると同じところを歩きながら楓は呟く。しかしその眼光は鋭く、どこか遠くをとらえていた。


「わ、私多分戦えますよ! 戦闘ならサキエルさんの体で何度も体験してるし、体の動かし方もわかります。」


「しかし、体験といっても、意志を添えていただけなんだろ?それにこの時代と無関係の君を巻き込むわけにはいかないよ。」


「一応私も龍の血を継いでいて、かなり濃いほうらしいので、身体能力も高かったですし、足手まといにはならないと思います。それに、多分楓さんが死んでしまうと、未来の私や家族もいなかったことになってしまうと思います・・・

私のためにも是非協力させてください。」


その言葉には、強い意志が感じられた。サキエルに似た闘志を感じとった楓は、その申し出をありがたく受け取ることにした。


一通り状況説明が終わったあと、沙紀の腹が音をあげた。

法師がサキエルのためにもってきたのであろう食事をおもっていたので、せっかくなのでいただくことにした。

グロテスクな見た目をしていたわりには塩味がきいていて、まろやかな口どけだった。


「ごちそうさまでした、楓さん。おいしかったです。」


「うん、本当は人間だからお口に合うか不安だったけど、今の味覚は龍だもんね、良かった良かった。」


漫画肉に噛り付きながら楓は答えた。あぐらをかいて肉にかぶりつく姿は男らしくもあり、子供らしくもあった。沙紀は楓の性格が少しわかった気がした。


「えーと・・・・」


指をこちらに向けながら、貧乏ゆすりをしている。沙紀は直感で、まだ名前を告げていないことを思い出した。


「そうだ!自己紹介がまだでしたね。あの、私、沙紀っていいます。17歳です。」


「沙紀か、いい名前だ。たしかに、少し似ているね、いやそっくりだ。17歳とはこれまた若い・・・僕は 風鈴院 楓。 22歳のおじさんだよ。見た目の通り、法師をやっている。サキエルとともに今は闇狩りをしてるから、最近はあまり人間の供養とかはしてやれてないけどね。」


海に沈む夕日を見る瞳で、楓は自分の左手を眺めた。その瞳には悲しみだけでなく、誓いを思わせる意志があった。


「そういえば、どうやってサキエルさんと出会ったんですか?」


「はは、やっぱり気になるよね。じゃあ、行動開始まで時間もあるし、すこし昔話でもしようか。」


不敵な笑みをうかべながら、楓は嬉嬉と過去を語りだしたのだった。




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