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白銀蒼龍の記憶

龍童沙紀は、小さいころからおかしな夢を見る。


楓という法師の格好をした男を背に乗せ、なにやら化物と戦う夢である。

最近見る夢の鮮明さは、どちらが現実かの区別がつかないほどだった。


今夢から覚めたのか、それとも今からが夢なのか。


そんなことを考えてる間にも、朝は容赦なくやってきて、母親の逆鱗に触れるのだった。

景気良く開け放たれ、壁に打ち付けられるドア、毎度毎度壊れないで偉いなあ。


「いつまで寝てるの!! 学校に遅刻するわよ、速く準備して朝食たべなさい。」


「は~い。。」


どちらが現実なんてどうでもいい、龍の時は龍の時で頑張って戦わないと、死んじゃうし、今は今で準備しないと、お母さんに怒られて死んじゃうし。私にとってはどっちも現実だ。


はは、まだ寝ぼけてるや、どう考えてもこっちが現実。学校めんどうだなー。


そんなくだらないことを永遠考えながら、制服に着替え、寝癖を直す。夢は夢だとはっきり気付くころに、リビングに向かい、少し冷えたがまだ暖かい朝食に手を伸ばす。


うちは娘の私と両親、それとおじいちゃんの4人家族だ。おばあちゃんは私が生まれる前に死んでしまったらしい。


「おはよう、沙紀。」


「うん、おはよう。おじいちゃんもおはよー。」


「ああ、今日も沙紀はかわいいね。」


「もう、おじいちゃんったら、そうやって口ばっかり。」


毎朝沙紀はおじいちゃんに褒められる。その口だけでなく心からいっているとわかる態度に、沙紀は小さな楽しみを感じていた。


「いただきます。」


「はい、どうぞ召し上がってくださいな。」


もくもくと食事をする父親と祖父。

父は朝しっかり食べるほうで、大きなオムライスを食べている。ケチャップで母にハートマークを書かれていたのが嬉しかったのだろうか、いつもより機嫌がよさそうだ。


私はトーストと目玉焼きを好んで食べる。毎朝人ごとに違うメニューを作ってくれる母には、まったく、頭が上がらない。


ふと、沙紀は龍になった感覚を思い出した。虚空を駆け巡り、翼を広げ、大きく咆哮する。背中にはいつも乗っている法師の存在。沙紀は導かれるように口を開いた。



「そういえば、最近不思議な夢を見るんだ。」


「ほう、どんな夢だい?」


白米と干物を食べながらおじいちゃんが聞いてきた。父も耳は傾けているようだった。


「あのね、私がおっきな龍になってるの。それで、鼻筋のととのったかっこいい黒髪の法師を背中にのせて、妖怪とか化物とか鬼とか、とにかくそういう悪そうなやつと戦う夢。

でも不思議と怖くないんだ、背中に乗ってる法師の人が、なんだかすっごく心強くてさ。

なんでだろうね。」


そういって笑う沙紀を、今までみたことのない神妙な顔つきで、箸を止め、祖父は見つめた。


「その夢はいつから?」


父が聞いた。食事の間は基本寡黙を守る父から質問を貰えるとは思わなかったので、少し間が空いてから答えた。


「あ、えっと、ここ1週間ぐらい? すんごい鮮明なんだ。

まるで映画の中に入ったみたいで、風の匂いも、空を飛んでる時の空気の抵抗も感じるの。不思議だよ、ほんと。」



母は、またこの子は面白いこといっちゃって、といいたげな顔で苦笑いをしていたが、父と祖父は違った。


短い沈黙がながれる。そして互いに顔を見合わせ、うなずいた。


祖父は張り詰めた空気を裂くように、口を開いた。


「沙紀、いまから言うことをよく聞きなさい。」


見たことのない真剣な祖父の表情に、生唾を飲み込み、うなずいた。


「我が龍童家は、代々龍の血をひいているといわれている。

祖先の始まりが、龍と人間の混血なんだ。

というのも、大昔の人が、天に登る龍のような光の塊をみつけてね。

おかしいと思いその場所にいったら、赤子がいたそうだ。それを育ててくれたらしい。

その後、人間と龍のハーフといわれた神童は、人間と恋をし、子を宿した。龍の血は人間の交わるたびに薄れていき、いまでは、ほぼ無いといっても過言ではない。

私も息子も、もちろんその影響をほとんど感じたことがない。多少人より力が強くて、頭がいいくらいだ。沙紀もそうだろう。私も今までそこまで本気で信じてはいなかった。

一応口伝なので、伝えてはいたが・・・まさか現実とは。」


たしかに沙紀は華奢な見た目と反して、高校生なのに成人男性より力があるし、勉強も授業中以外したことがないが、つねに学年トップで、地域でも一番偏差値の良い高校にかよっていた。


しかし、ただそれだけのことだ。


私が龍と人間の子の末裔?


にわかには信じられなかった。


「おじいちゃん、なに言ってるんですか。それに、たとえそうだとしても、沙紀が生きていくには関係のないことでしょ。変なこと言わないで下さいよ。」


少しあわてて母が口を開いた。こんな話聞いたことがなかったらしい。


「それがあるだよ、美紀さん。

私たち親子には龍の記憶が一切ない。夢に出ることも、もちろんない。

しかし、沙紀にはあるようだ。なんらかの要因で龍の血が覚醒したのだろう。

その夢の中の状態というのは、祖先の記憶かもしれん。

しかし、あまりにリンクしすぎている。もしその夢の中で龍の沙紀が戦死するようなことがあれば・・・・」


両親は息をのんだ。私は祖父の発言を鵜呑みにすることはできなかった。


現実より現実味のある夢。


しかし、私が龍になっているのには間違いないのだが、体を動かし、発言しているのは、私ではなく祖先の龍自身だ。


正確にいうと、龍の感覚を共有している、という方がいいかもしれない。


この龍の意志が祖先の意志から私の意志に切り替わったときに、戦死したら、現実の私も死ぬ。。

ありえない話ではない。


「おじいちゃん、どうしよう!」


沙紀が困惑の悲しみを叫ぶ瞬間、体は青白い光に包まれ、その場に倒れこんだ。

薄れていく意識の中、私の名前を叫ぶ家族の声が、頭の中をこだました。


沙紀が意識をとり戻した時には、すでに龍になっていた。



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