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サクサク読める短編集

一人で生きていけばいい

作者: 2626
掲載日:2026/06/09

 独身の伯母が死んだ。

自殺か事故かは分からない。

雨の日に歩道橋の階段から転落したそうだ。


 ……本当にはた迷惑だと思う。

もうすぐ私は大学受験を控えていて一番大事な時期なのに。

何で当てつけのように今死ぬんだろうか。


 葬式のやり方なんて分からなかったし知らなかったから困ったけれど、幸い母の親友だと言うおばさんが駆けつけてくれて助かった。

最安値だった家族葬で手っ取り早く葬儀を済ませることにした。

密葬にしなかっただけ感謝して欲しい。


 葬式が終わって、葬儀会社の人も帰った後。

ようやく喪服を脱げると思ったのに、おばさんが急に私を玄関で呼び止めたのだった。


 「ねえ、マイちゃん。 マイちゃんはこれからどうするの?」

「どうって言われても。 私、受験生なんです。 志望校に受かりたいから、一人で頑張らないと」

「そう。 じゃあ一人で頑張ってね。 私ももう二度と来ないから安心してね」


 おばさんはそう言うなり、さっさと玄関から出て行った。

ガチャンと玄関が閉まってから、私は『何を言いたかったんだろう?』と首をかしげたのだった。



 死んだ貴女には悪いけれど、貴女ってば特大の疫病神を抱え込んだのよ。

不倫して逃げた妹の娘を――絶対にアレを貴女の姪だなんて思いたくもないわ――引き取って育てるなんて、考えたら分かるでしょう。


 でもエリコ……貴女は本当に優しい人だったから、母親に棄てられて泣いているアレを見て同情してしまったのよね。


 貴女はいつも私の前では笑っていたけれど……。

ごめんなさい。

日記、見てしまったわ。


 アレの元に置いておいたらゴミに出されてしまうでしょうからここに持ってきたけれど、貴女……ずっと苦しめられていたのね。

エリコは婚約者と別れて、あんなに仕事も出来たのに出世も諦めて、何もかも犠牲にしてアレを育てていたのに。


 アレはいつまで経っても『クソババア』としか貴女を呼ばず、いつだって貴女を蔑ろにし続けた。


 そりゃあ貴女はアレの実の家族では無かったかも知れないわ。

懐くことなんて夢物語だったでしょう。

でもね、貴女が引き取った時にはアレはもう十五才だったのよ。

大人の一歩手前だったの。

今は大学受験を控えている高校生よ。

小さな子供が駄々をこねているのとは、全く違うでしょう!


 アレは、無自覚に貴女を殺したのだわ。




 子供の反抗期というにはあまりにも残酷すぎる仕打ちが続いて、貴女が心を病んでいたと私が知ったら、絶対に貴女とアレを引き離すと思ったのよね。

最近はあまり連絡さえくれなかったのは、そう言う理由だったのね。

貴女は本当に優しくて、自己犠牲的だったから……。


 人間って体の何処かを病むと、連鎖的に他も悪くなりがちだと聞いていたけれど。

貴女は女性にとっては致命的な病にかかっていただなんて知らなかった。

正確に言えば治療すれば治るだろうけれど、その治療には大金が必要だったのよね。

それを聞いたアレが、貴女にとどめを刺した。


 『はあ!? 私の大学の費用どうなるの!? ふざけんなよクソババア!』


 何一つ貴女の心配をするでもなく。

自分のことだけを口にした。


 ……ねえ、エリコ。

貴女はきっと、あの時には死んでいたのね。



 大丈夫よエリコ。

貴女の骨は少しだけだけれど持ってきたわ。

これから青い青い海に行って、貴女がいつか目を輝かせて話してくれたように、綺麗に輝く青の中へ散骨するわ。


 あのね、一人じゃないわよ?


 ユウヤさん。

言わなくたって覚えているわよね。

貴女が結婚まで考えて、ずっと愛していた人。

彼もね、ずっと貴女のことを愛して独身を貫いていたのよ。

『アレの顔を見たらこの手で殺してしまうから』って、葬式には来なかったけれど。


 だから、安心してね。

間違いなくエリコを愛した私達の手で、貴女を埋葬する。

貴女は海が好きだったもの。

大好きなものの中で眠って欲しいわ。




 ……アレのことなんて知るものですか。

少しでも自分のしたことを悔やんでいるのなら助けてやろうと思っていたけれど、止めたわ。


 これからはお望み通りに一人で生きていけばいい。

血のつながりの無い母親に懐く子供って、創作上ではそれなりにいますけれど、実際はどうなんだろうなーと思いまして書きました。

シンデレラの継母達が大半なような気もします。

人間だもの、仕方ないよ。

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