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王の庭に咲く花~身売り同然の婚約なんてお断りです!~  作者: 幽々子由馬


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エピローグ

最終話です!

ミラベルの成長を共に見守って頂きありがとうございました!!


エピローグ 森での暮らし


 朝の光が、森を満たしていた。

 やわらかな光が、葉の隙間から落ちて地面に揺れる。

 小屋の煙突から、細く煙が上がっていた。


 穏やかな朝だ。

 生活の音が、静かに重なっている。


 ミラベルは、木の箱に詰められた瓶を一つずつ確認していた。


 茶褐色の瓶詰め。

 蜂蜜に漬けた木の実だ。


 ほんのりと甘いを嗅ぐ。


 隣には、布で包まれた燻製肉。

 吊るされた魚。

 薬草を漬け込んだ小瓶。


 森の恵みだった。


「……これで最後ね」


 静かに言う。


「ああ。そろそろ準備した方がいい」


 背後から、言葉が返る。

 マルクスは、縄で荷をまとめていた。

 無駄のない手つきだ。

 もう、王子の姿ではない。

 だが、それで違和感はなかった。


「ええ、そうするわ」


 ミラベルは小屋の扉を閉めて錠をかける。

 少し下がって、小屋全体を眺めた。

 ここが、彼らの場所だった。


「行くか」


「ええ」


 二人は、表に出る。

 杭に繋いでいるのは、荷物を引く為の馬。

 

 荷馬車に幌をかける。

 馬を繋いで、御者台に二人並んで座った。

 

 森を抜ける道。

 土の匂い。

 風の音。


 それは、もう日常だった。


 ――――――――


 小さな町。


 人の声が遠くから聞こえる。

 行き交う気配に、開かれた場所。


 広場の端に、いつもの場所がある。

 布を広げ、品を並べる。


 燻製肉。

 燻製魚。

 蜂蜜漬けの木の実。

 オイルに沈む薬草。


 光を受けて、静かに並ぶ。


「今日はいい香りだな」


 通りがかった男が言う。


「燻し方を変えました」


 ミラベルが答える。

 穏やかな声だった。


 男は笑い、いくつか手に取る。

 値を聞き、迷わず払った。


 それを、マルクスが受け取る。


 言葉は少ない。

 だが、それで足りていた。


 そんなやり取りが、いくつも重なる。

 日常だった。

 その時。


「――見つけた!!」


 甲高い声が、響いた。

 広場の空気が、わずかに揺れる。


 ミラベルは顔を上げる。

 人混みをかき分けて、駆けてくる姿。

 見覚えがあった。


「ミラベル様!!」


 勢いよく止まる。

 息を切らしながら、まっすぐに見上げてくる。

 ノエルだった。


「なんで置いていくんですか!!」


 感情のままに、言い切る。

 そのまま、少しだけ目が潤む。

 だが、泣かない。

 必死に堪えている。

 ミラベルはその姿を見て、ほんの少しだけ、目を細めた。


「あら……来たのね」


 それだけを言う。


 責めない。

 驚かない。


 ただ、受け入れる。

 ノエルは、一瞬だけ言葉に詰まる。

 それから、ぐっと拳を握った。


「来ました!」


 強く言う。


「勝手に出ていって……連れて行ってもくれないなんて……!」


 言葉が乱れる。


「……でも、見つけましたから!」


 顔を上げる。

 まっすぐだった。

 その後ろで。


「……またお前は」


 低い声がした。

 ヒューゴだった。


「あっ!私たち、結婚したんです!」


 突然の告白に、ヒューゴが後ろで頭を抱える。


「城下町で呑んでたら、話しかけられて。ふふっ、一目惚れだったんですかね」


「主人に置いて行かれたと泣きわめいてたのは、どこの誰だ。自棄酒に付き合っただけだ」

 

 少しだけ早口だ。

 だが、視線はまっすぐノエルを見つめる。

 その目はとても優しかった。


「……妻の勢いを止めるつもりはないのか」


 マルクスが問う。


「無理だな」


 ヒューゴは肩をすくめた。


「俺も置いて行かれた側だからな」


 短く言う。

 それで、十分だった。

 二人の間に、余計な言葉はない。

 ミラベルは、二人を見た。


 ノエル。

 ヒューゴ。


 どちらも、ここにいる。

 命じられたわけではない。

 与えられたわけでもない。


 ――自分で選んで、来ている。


 ミラベルは、ほんの少しだけ息を吐いた。

 それから、微かに笑う。


「では」


 穏やかに言う。


「手伝ってもらえるかしら」


 にっこりと音が付きそうな笑顔。

 一瞬の間。


「結婚祝いに、木の実の蜂蜜漬けをあげるから」

 

 ノエルの顔が、ぱっと明るくなる。


「はい!!」


 勢いよく答える。

 ヒューゴは、小さく息を吐いた。


「……結局こうなるのか」


 だが、その声はどこか軽かった。

 四人で、並ぶ。

 布の前に立つ。

 品を並べる。

 声をかける。

 手を動かす。


 人が来る。

 言葉が交わる。

 笑いが混じる。

 ただの、日常だった。


 だが。


 それは、選んだものだった。

 風が吹く。

 森の匂いが、町に混ざる。


 ミラベルは、ふと顔を上げた。

 空が見える。


 高く。

 広く。

 どこまでも続いている。


 閉じるものは、もう何もない。

 隣に、マルクスがいる。

 その向こうで、ノエルが声を張り上げている。

 ヒューゴが、呆れたように見ている。

 ミラベルは、静かに目を細めた。


 ――ここが、今の居場所だった。


 与えられたものではない。

 選んだもの。

 その中で、生きている。

 それで、もう十分だった。


 風が、また吹いた。

 葉が揺れる。

 その音の中で。


 日々は、続いていく。


 おわり

お読み頂きありがとうございます。少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。

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