プロローグ
ヒース王家の伝承
『王の庭に咲く花』
――これは、古くから語り継がれる話。
まだ国の形もなく、大地がひとつに定まっていなかった頃。
その場所は、混沌に支配されていた。
昼も夜も曖昧で。
境もなく。
すべてが溶け合い、形を持たぬまま揺らいでいたという。
人はそこに住めず。
ただ、畏れて近づかなかった。
そこに現れたのが――ひとりの王と、ひとりの妖精だった。
後に初代ヒース王と呼ばれる男と、
原初の妖精。
二つは、異なるものでありながら、手を取り合った。
剣では断ち切れぬものを。
力では抑えきれぬものを。
彼らは、結ぶことで封じたのだ。
そうして生まれたのが、“王の庭”。
人の世と、それ以外を分かつ場所。
境を定め、形を与えた地。
だが。
その奥には、なおも残されたものがあった。
消えぬもの。
消してはならぬもの。
それは深く、深く閉ざされ、“封印の間”と呼ばれるようになる。
そして――その向こう側。
人ならぬものたちの領域。
“妖精の庭”。
そこは今もなお、人の理の外に在るという。
王と妖精は、約束を交わした。
境を侵さぬこと。
そして、封じたものを決して解かぬこと。
だが、結びは永遠ではない。
時と共に、ほころびは生まれる。
だからこそ、その結びを繋ぎ続けるために――
ひとつの血が残された。
妖精の力に触れることを許された者。
境に立ち、結び直す者。
その血は、脈々と受け継がれていく。
名を――ウィルスナー。
古い記録には、こう記されている。
原初の妖精の血を継ぐ者。
王の庭にて、封印を結ぶ花となる。
花は、ただそこに在る。
美しく。
静かに。
動かぬまま。
だが、その根は深く。
見えぬものを繋ぎ止めている。
それが、役目だった。
選ばれるのではない。
辿り着いてしまった時。
その者は、花となる。
王の庭に咲き。
封印を結び。
そして――。
何を守り、何を閉ざすのかを知ることになる。
今もなお、王の庭は在り続ける。
静かに。
ただ、そこに。
次に花が咲く、その時を待ちながら。




