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第4話 冴えない学生という選択は、案外いちばん贅沢とも言えるのだろう

 転生待機学園の朝は、いつもより少し静かだった。

 理由は単純で、クラスの人数が減っていたからだ。


 卒業。

 それはこの学園では日常であり、祝福であり、そして唐突な別れでもある。


 唯は教室の窓際の席に座り、空いた椅子を眺めていた。

 悪役令嬢に仕える騎士、追放勇者を評価する魔導士と続いた「爆速卒業」の光景が、まだ頭から離れていない。


 正しい志望。

 魅力的な役割。

 誰から見ても納得できる未来。


 それらはすべて、二人の前を通り過ぎていった。


「……結局さ」


 隣の席で、裕貴がぽつりと言った。


「俺たち、選択肢は間違ってなかったよな」

「ええ」


 唯は即答した。


「どれも、良い志望だった。騎士も、女魔導士も」


 それが余計に厄介だった。

 悪い選択肢なら、迷わず切り捨てられたはずなのに。


 裕貴は、少し言いにくそうに続ける。


「でもさ……全部、俺たちが一緒に行けない選択肢だった」


 その言葉に、唯は黙って頷いた。

 それが問題の核心だった。


 学園のシステムは公平だ。

 志望が通れば、即座に卒業。

 待ってくれる余地はない。


「ねえ」


 唯は、しばらく考えてから言った。


「だったらさ、いっそ……何にもならない志望って、どうかしら」

「何にも?」

「英雄でもない。側近でもない。物語の中心にもならない立場」


 裕貴は、目を瞬かせた。


「……冴えない学生、みたいな?」

「そう」


 唯は、少しだけ笑った。


「現世と、あんまり変わらないポジション。目立たなくて、評価もされなくて、でも……生きてはいける」


 沈黙が落ちる。

 その選択が、どれだけ異端か、二人とも理解していた。


 転生とは、やり直しだ。

 だからこそ、皆が「より良い役割」を目指す。

 なのに、それを自分から放棄するというのは――


「正直さ」


 裕貴が、苦笑混じりに言った。


「夢がなさすぎるな」

「ええ」


 唯も否定しない。


「でも……初めてじゃない?これ、誰かに勧められた選択じゃないわ」


 その言葉で、裕貴は気づいた。


 これまでの志望は、

 ・相手のため

 ・物語的正解

 ・世間的評価

 そういったものを基準にしていた。


 だが今の案は違う。


「一緒に行くために選ぶ、ってだけだな」

「そう」


 それだけだった。

 だからこそ、分かりやすい。


 二人は並んで志望用紙を提出した。

 書いた内容は、驚くほど簡素だ。


 特別な役割は、希望しない。

 物語の中心にも、ならなくていい。

 現世と大きく変わらない立場を望む。


 しばらくして、校内放送が流れた。


『転生待機学園四年生――』


 二人は、反射的に顔を見合わせる。

 だが、呼ばれたのは別の名前だった。


 爆速卒業は、起きなかった。


「……通ったみたいね」

「ああ」


 それはつまり、「すぐには卒業しない」ということだ。


 待つ時間が、確保された。

 一緒に行ける可能性が、初めて現実になった。


 中庭を歩きながら、裕貴はぽつりと言った。


「結局さ。俺たち、何にもなれなかったな」

「違うわ」


 唯は、少しだけ強く言った。


「何にもなれなかったんじゃない。

 何かになることを、安易に譲らなかっただけ」


 冴えない学生。

 それは一見、後退のように見える。


 だが二人にとっては、

 初めて自分たちで選んだ、

 たった一つの前進だった。


 こうして今日も、

 告白は先延ばしにされたまま、

 二人の転生だけが、静かに待機し続けている。

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