表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

世界終了通知

作者: 相馬
掲載日:2025/12/25

**あなたの世界、今日で終了です。**


空き缶を蹴った。乾いた音が石壁に跳ね返り、夜明け前の路地裏に虚しく響く。夜勤明けの陽太の視界は、ビルの灯も朝焼けも沈めたような、濁った灰色で満ちていた。


ポケットの奥でスマホが震える。無意識に取り出すと、差出人もサービス名も表示のないメッセージが一つ。


〈おめでとうございます。あなたの現実世界は、本日をもって終了いたします。〉


笑えればよかった。けれど、その瞬間、視界の端に人影が立った。スーツを着た男。全身をノイズが走り、街灯の光を受けても影ひとつ落とさない。


「困るよ、陽太くん。バグは、修復前に処理しなくちゃ」


唇は動かず、瞳だけがにこりと笑った。次の瞬間、世界が崩れる音もなく裂け、陽太を呑み込んだ。



──『ようこそ、観察者の諸神しょしんがた』


高天井に届くほどの巨大な部屋。円卓の中央に宙吊りの球体がゆらぎ、その中には日本によく似た地図が浮かんでいた——ただし空は網の目のようなデータ線で覆われ、街ごとに「スコア」が明滅する。


ログイン完了を告げるように、どこかで神々の笑い声が弾けた。


『このステージは本日をもって削除されます。ただし、恒例の“ファイナルクエスト”を実施いたします。候補者を表示します』


球体の映像が切り替わった。土手に立つパジャマ姿の青年。虚空を見上げるその瞳は、まだすべてを受け入れきれずにいた。


〈スキル:『嘘が真実になる声』〉


「おい、ふざけんな……」


陽太が口にした刹那、耳奥に異音が響く。


『スキルが発動しました。現在の発言:“おい、ふざけんな”──世界適用演算中』


とたんに空は裂け、犬が宙を舞い、小学生が電撃を放ち、スーツ姿の男たちが叫びながら走り始めた。


「……マジかよ」


口元を押さえ、地面に崩れる。心臓が鼓膜のすぐそばで鳴っているようだった。ひとつ、ふたつ、沈まない高鳴り。



天井のチャットウィンドウが狂騒を映す。


『始まった』『レアスキルはやっぱ映えるな』『大喜利大会開催中』『こいつに潰し合いさせようぜ』


球体の奥、陽太の背後。巨大な「ナマハゲ」のような異形が現れ、スマホを片っ端から奪い始める。


「……俺に、何をさせたいんだよ」


陽太は立ち上がった。空間に浮かぶホログラムパネルが指示を表示する。


〈クエスト内容を選択してください〉

1. 世界の敵(バグ主)の討伐

2. 神々との交渉

3. 世界を再構築する「真実」を放つ


躊躇なく、「3」へと指が伸びた。



円卓がざわめく。神々の中のひと柱——眼帯をつけた神がつぶやく。


『まさか……奴、嘘で我々を“消す”つもりか』


『その可能性は否定できん。奴のスキル範囲に、我々が含まれているならば』


『いいじゃないか。破棄予定の世界が創造主に牙を剥く。実に上等な見世物だ』


空に亀裂が走る。陽太は深く息を吸い、口を開いた。


「この世界は……ゲームなんかじゃない。ここで生きてる俺たちは、全部、本物の人生なんだ」


静寂。0.5秒後、世界が変わった。


空中スコア、すべて「∞」。チャットウィンドウは砂嵐に変わり、円卓はもろく崩れ落ちた。神々の声は、ノイズとなって四方に散る。


『……まさか、本当に……』


胸に手を当てた神が、嗤うように消えた。


「“嘘が真実になる”ってんなら……次はこれだ」


陽太の声は、自己の深奥から漏れ出す呪詛めいた響きに変わっていた。


「お前らなんか、最初から、いなかった」


仮想神のデータ構造が因果ごと焦げ落ちていく。蜘蛛の巣のようだったデータ線が、煙のように空へ溶けて消える。世界を覆っていた虚構の膜が、剝がれ落ちていった。



気づけば、土手の上。空には雲、遠くで電車の音。


スマホを覗けば、ただのロック画面。例のメッセージは影も形も残していなかった。


住宅街を歩く。無人レジは消え、AI広告も見当たらない。テレビでは芸人がくだらないことを喋り、近所のガキが泣けば、母親が怒鳴り、その隣では誰かが笑っている。


試しに言ってみた。本屋の前で、制服の少女に。


「この世界って……本物だよな?」


少女は首をかしげ、きょとんと笑う。


「なにそれ、哲学? わけわかんない」


陽太は肩の力を抜いて息を吐いた。ポケットの中で何かが微かに震えた気がした──けれど、手に取ってみても、そこには何もなかった。



夜。薄暗い部屋で、陽太は布団に潜りながら自問する。


本当に世界を書き換えた? もしや、最初から全部──演出だったのか?


目を閉じかけた耳奥に、音が滑り込んだ。


『制作チームです。新ステージへようこそ。次回アップデートをお楽しみに──』


陽太は静かに身を起こす。そして、薄明かりの天井を見上げて、不意に呟く。


「……じゃあ今度は、世界そのものにこう言うか」


目の端に、一筋の光が射す。


「お前なんか……ただの背景だ」


その瞬間、世界は、ほんの少し色を変えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ