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その後65 (冬虫夏草と麦)


「ふんふふんふーん♪」


 小声で鼻歌を歌いながらアニエスは、左手を壁に沿って進む。

 とても有名な迷路の攻略法だ。


 地面にマーカーしているとはいえ、むやみやたらに回るのは非効率だし、こうすることで全ての道と壁がチェックできる。


 とりあえず、あえて人の魔力の気配がしない方に向かってアニエスは進んでいだ。


(人に出会ってしまったら早々にこの冒険が終わってしまいますからね?)


 それにここに通っている人間は、外部から来た者に嫌な顔をするだけではなく、攻撃的な人間かもしれない。


 どう使われているかはまだわからないが、犯罪に悪用されている可能性も無きにしも非ず。アニエスはやたらめったらに無益な争いをする気はない。なぜならば……。


 アニエスはコンコンと壁を叩いた。


 壁一面に絵を焼き付けた白いタイルが隙間なく貼られている。美しいが、果たして強度の方はいかばかりか……。


(……相手から仕掛けてくる、ましてや犯罪者の攻撃に応じるのに遠慮は不要と思いますが、なにぶんここが地中にある可能性を思うと、暴れることで生き埋めになるは御免こうむりたいですからね……)


 とくに、廃ダンジョンは心臓を失い脆くなっているのだ。それでも普通の建造物くらいの強度はあるが、それにしたってアニエスが暴れて耐えられる強度には足りないだろう。


(あーあ、どうせ冒険するなら、思いっきりバトルがしたいよー!)


 そう思いながら歩き続けると突然アニエスの左手が行き場を失った。


「おっ?」


 見るとそれは部屋の入り口だった。人の気配はない。


 アニエスは一度、一歩下がり足元の小石を拾った。

 壁にぴったりと背中を付け、一、二、三、と数え、小石を部屋へとほうり投げる。

 カーンと壁に小石が当たった音がした。

 アニエスはさらに二十秒数えてから、そっと中を覗き込む。


「……大丈夫そうですね」


 さっそく中に足を踏み入れた。

 中は何でもない部屋で、棚がいくつかあり物が地面にいくつか散乱しているが、まるで誰かが引っ越した後のようにガランとあっけない姿をしている。


「……」


 アニエスはとくに収穫がなさそうだとそのままその場を後にしようとした。ところが……。


「と、冬虫夏草(とうちゅうかそう)がある!!」


 アニエスは目ざとく壁際の影になっているところにレアアイテムを見つけた。


「嘘すごい! わあ、他にもいろいろ生えてる! もしやここはお宝の山!? そしてこれは………………小麦っ?」


 アニエスは、そこで目を見開き固まった。……なぜこんな日の光も届かない、栄養も土も水も十分でない廃ダンジョンに小麦が生えているのだろうか? 


 しかもキノコと小麦では生育条件が全く異なるはずなのに、まるで昔からの隣人のように、ここではデタラメにも共生しているのだ。


 アニエスの頭にふと、ここは本当に『廃ダンジョン』なのだろうかという疑問が浮かぶ。


 しかし、アニエスは先ほど確実に人の魔力を察知した。

 よし、整理してみよう。とアニエスはひとつひとつ可能性を模索することにした。


 仮にこのダンジョンが生きているとして、ではここには鍵となるエルフが存在して、そのエルフと一緒に人々は出入りをしているのだろうか?


(……違う。エルフは私の家族以外は、ほぼほぼ絶滅したといわれている。仮にいたとして、エルフの魔力は人間の持つ魔力と形が異なるし、力もずっと強い。目にすればすぐに気付くはずよ)


 では、他にどんな可能性があるだろうか? とアニエスはウロウロと部屋を行ったり来たりしながら考える。


(……ダンジョンの寿命間際なら、もしかして鍵が無くても人が入れるかもしれない。術そのものが弱まれば、人間にだって強引にこじ開けられる可能性があるわ。魔法だって、(ほころ)びがあれば破くことが出来るのだから)


「それだと、ここがまだ他の人に見つかっていないのも説明がつくよね……一応『廃ダンジョン』ではないわけだし……というか、なるほど、その手があったかあ! ……まあ、これについては、かなりのラッキーなレアケースでめったにこんなの見つけられないだろうけど!」


 とはいえ、そう言いながらもアニエスはまだ引っ掛かりを感じていた。

 果たしてあの警戒心の強いエルフが、たとえダンジョンが終わりかけたとして、それでも人間にダンジョンの門前を破られた時の対策を、何もしていないということがあるだろうか? と。

 

(……引っかかるものはあるけど、制限時間があるから考えるのは後回しにして先に進もう)


 アニエスはそう思い。冬虫夏草だけカバンに入れ、その部屋を後にし、左手をまた壁にそえた。

 アニエスが進む先には人の気配がまるでないようだったが、アニエスはとくに気にせずすたすたと歩いた。


 実はこのダンジョンの秘密についてアニエスの予想は大方当たっている。しかし、それなのにアニエスは大事なことを見落としていた。


 なぜ、この先に人が出歩いた気配がないのか。ダンジョンが生きているとしてどんな危険をはらんでいるのか……。

 いや、違う……むしろわかっていて、アニエスは本能でその先を目指していたのかもしれない。


 そして、アニエスは冥界の匂いに誘われ、仮廃ダンジョンの奥へ奥へと進むのだった……。



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