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その後2(妹姫タニア)(※挿絵あり)

清廉潔白……行いや心が清く正しく、私欲や偽りがまったくないこと。「廉」は、いさぎよいさま、欲がなく行いが正しいさま。

温柔敦厚おんじゅうとんこう……人柄が温かくやさしく、真心のこもっていること。

金声玉振きんせいぎょくしん……才知や人徳が調和して、よく備わっているたとえ。

一諾千金いちだくせんきん……信義が厚く、裏切ることのないたとえ。いったん承諾したら、それは千金にも値するほどの重みがあるということ。




挿絵(By みてみん)

              タニア王女殿下




「アニエス本当にお久しぶりね! 会えて嬉しいわ。お仕事は順調?」


 たっぷりとした艶やかな黒髪を結い上げ、ミルクに花弁を落としたようなバラ色の肌、長いまつ毛に輝くつぶらなガラスのような黒い瞳。

 

 彼女こそ『ローゼナタリアの真珠姫』ことタニア王女殿下。

 その美貌はさすが『ローゼナタリアで最も抱かれたい男』セオドリック王太子殿下の妹だけあり、非の打ち所がない。

 そしてその完璧さは彼女の場合その性格にまで及ぶ。


 決断力を発揮し勇気があり、清廉潔白で温柔敦厚(おんじゅうとんこう)金声玉振(きんせいぎょくしん)一諾千金(いちだくせんきん)と……、称賛することがあんまりにも多すぎて人物紹介に四字熟語を多用するしかないほどである!


 そしてこのタニア王女は、アニエスが王宮宮廷行儀見習い時代に直接お仕えしたお方であり、立場を超え親友といってよい間柄の方でもあった。


「はい、周りに助けていただけるおかげで、右も左もわからない若輩者(じゃくはいもの)ですがとりあえず何とかやっております」


 それに、タニアはふふふと可愛らしく笑って見せた。


「右も左もわからない? 一年前、十四、五歳のあなたが中心になって成功させた王宮主催の二万人のお茶会を私は今も鮮明に覚えていますよ。あれほどの見事な采配は、王宮勤め何十年の大ベテランでもそうできるものではないわ」


 それにアニエスはあのかつての極めて恐ろしい情景(じょうけい)を思い出し、自然と顔が歪んだ。


「ハイ……あの時はもう必死で……ストライキやトラブルだらけで……思い出すとちょっと動悸(どうき)、息切れ、目眩(めまい)がしますが……非常に良い経験をさせていただきました」


「だから、貴方が何か新しいことを始めるとしても私は何にも心配していないわ。貴方なら大丈夫と心から信じられるもの」


「ありがとうございます。そのお言葉を(かて)に日々精進(しょうじん)いたします」


「もお、かたい硬い! リラックスりらっくす!」


 タニアの冗談めいた言い方に思わずクスっと笑うと場に自然と穏やかな空気が流れる。アニエスはタニアの作り出すこの空気が大好きだ。


「ところで、今日は急ぎの用事があって訪ねてきたのでしょう。どうかしたの?」


「はい実は、かくかくしかじか……」


「まるまるうまうまね……。なるほど、それで大慌てで国宝と思わしき品々を返還しに来たと」


「はい、その、殿下に直接話したところで上手くかわされてしまいそうですし……顔も今はまだまともに見れなそうというか」


「そうよそのことよ! アニエス酷いじゃないの」


「え、私いま何か無礼を……?」


「親友だと思っていたのに、水臭いわ!」


「水臭い?」


「真っ先に報告してくれると信じていたのに……」


行啓訪問(ぎょうけいほうもん)の件でございますか?」


「だってお兄様に女の子の一番大切なものを捧げたのでしょう?」


「……」


 アニエスの頭の中に思わぬ処理しきれない情報が入ってきたためフリーズを起こす。

 

「王宮内はその噂話で持ちきりだったのよ!?」


「まままま待ってくださいませ! 確認したいことがあまりに散見されます!?」


「だってあの時、二、三時間の間ノートンまで部屋から追い出して二人きりだったのでしょう? 部屋から出た後を見た人がとても良い雰囲気だったって、二人だけの空気が流れていてアニエスが恥ずかしそうにその場をそそくさと後にしたって」


「うん、脚色ですね。三文小説なのかしら?」


「あら、じゃあ何にもなかったの!?」


「え……と、キ……スはいたしましたが……」


 人にキスをしたことを報告するのは、一体どうしてこんなにも恥ずかしいのだろうか?


「え、き、キスだけ? あの兄と二、三時間も一緒にいて!? しかも兄のホームベースで? 二、三分同じ空間で同じ空気を吸うだけで複数名の女性を同時に妊娠させることが可能といわれる。あの兄が!?」


「それはもはや妖怪なのでは……」


「信じられないわ……毒でも盛られたのかしら?」


「いや、ピンピンしてましたのでそれはないかと、というかあまりの言われように流石(さすが)にセオドリック様が少々気の毒なような」


「ちょっともそういうことはなかったの?」


「ほんの少しだけ怪しい瞬間はございました。ですが、殿下自ら身を引いてくださったんですよ」


「……」


「理由は『全部がほしいから』と、何がどうとは詳しくはおっしゃりませんでしたが」


 それを聞きタニアは考え込むように顎に手を添えた。


「なるほど、そうですかまたクサイことを言うと呆れますが、四年もの間ですものね。それは今までと事情が異なるのは当然かもしれないわ。わかったわアニエス。あなたや兄の名誉のためにも噂は出鱈目(でたらめ)だったとこちらで方方(ほうぼう)に伝えておくから安心して頂戴」


 さすがは皆のタニア様は実に頼りになる。


「ありがとう存じます。どうぞ宜しくお願いいたします」


「それと、国宝と危ぶまれるこちらのジュエリーのことですが」


「! はい」


「それは、アニエスがそのまま受け取って頂戴(ちょうだい)。これらの一部を見るに、これは祖母や母から兄に残された遺産の一部で、相続するときに国の目録からも外すよう申請も済んだ兄個人の資産なの。だから、兄がどうしようとそれは個人の自由ということ。たとえ壊したり盗まれてもアニエスが罪に問われることはないわ」


「で、ですがタニア様それは目録上のことで、これらが長きの時代を越え歴史的、文化的、市場価値的に莫大である事実には変わりがございません。そんな身に余るこれらの品々を私のような不肖の者が受け取るわけにはまいりません。殿下がその所有権を放棄するのならば、それらの宝物(ほうもつ)はまずは妹君のタニア様にこそ引き継がれるべきではございませんか?」


 それにタニアはにっこりと笑い、子供に言い聞かせるようにやさしく説いた。


「アニエス、所有権をただ放棄したのでなく兄があなたに贈りたくて譲ったのよ。遺産については私もその時に兄と同様に十分に頂いているし、私はそれらの管理だけで手がいっぱいなの。だって生涯かけて、毎日十回以上着替えても全部を身に着けることはできないのよ? 高祖母、曾祖母と派手好きな我が身内にはあきれを通り越していっそあっぱれだと思うわ。だから、兄も管理がしきれなかったんだと思ってどうか貰ってやって頂戴。ジュエリーも貴方のように透き通るように美しい人に身に着けてもらえたら嬉しくてより輝きが増すに違いないわ」


「そんな、とんでもないことです!」


「そんなこと可愛く言っても返却は受け付けません! あと、お礼状はともかく、お礼の品も一切受け付けませんからね私も兄も。うふふふっ」


「ううっ」


「では、このお話はこれでお終いね。この後のわたくしのお茶には付き合っていただけるのかしら?」


「それはもちろん喜んで……」


「では女官長、アニエスをティールームに先に連れて行って」


「かしこまりました。殿下」


「私は着替えてから向かいますので先に行っていてね」


「……かしこまりました」


 女官長とアニエスが部屋を出ていき扉が閉まる。すると……。


「タニア様、王太子殿下より回線通信です」


 あまりにぴったりのタイミングにタニアは軽くため息をつく、タニアはそのことをすでに予想していたのだ。


「受信機をこちらへ」

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