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その後62(エルフと廃ダンジョン)

  

 アニエスが転移された先は、灰暗い土の中の洞窟……というには不快感のない安定的な広さと、文明的かつ芸術的で荘厳な所だった。


 まるで美しい古城を、そのままそっくり地中深くにはめ込んだみたいに……。


 それにアニエスが既視感を覚えるのは、似たような所に出入りしたことがあるからだ。


「これは生きていないダンジョン、『廃ダンジョン』だわ……」


 そもそも『ダンジョン』とは何かというと、この世界のダンジョンとはエルフが作った箱庭。


 つまり、彼らが悠久の長すぎる時を有効に消費するための手段……趣味であり、遊びである。


 それはやがてどんどんと趣向を凝らしたものになり、罠、兵隊、空中庭園、宝、謎解き、希少生物や新生物、ループ、過去や未来、天と地の逆転、合わせ鏡の中、地獄めぐり、海底、星間飛行、パラレルワールド、異種族との合作などなど……中には千年かけて作られたダンジョンも存在することとなった。


 もともとエルフとは妖精を統べる王にして半神半精の存在であり、完全というものの到達点の一つ。

 そんな不老長寿の麗人である彼らが、凝りに凝って作ったそれらを、ずっと見ていた人間も、憧れて何度もダンジョンを作るのに挑戦した。だが結果は天と地ほどの歴然の差だった。


 成功例を上げるとすれば唯一ロナの大分家の一つ、ラビット家がつくる『迷宮(ラビリンス)』がダンジョンに次いでそれに近いものとされている。


 そしてこのエルフという者たちは、実に排他的な性格で、彼らは同族以外が自分たちの箱庭に入るのをひどく毛嫌いする。


 だから、ダンジョンの鍵をエルフそのものにしてしまった。


 エルフの血が通っている者がいなければダンジョンの中には決して入れないし、それ以外の者にはダンジョンの姿も見れない。


 だけどそのおかげで、アニエスだけが竜のダンジョンの存在に気付き、エース、アレクサンダーとともに攻略。竜と契約しその半身となることが最終的に叶った。……まあ、最高種族の竜のダンジョンに関しては、アニエスがエルフ王族の末裔であることも大きく関わっているのだが……。


 しかし、このダンジョンにも実は弱点がある。それは寿命だ。


 ダンジョンには心臓である核があり、核を壊したり、定位置から動かすとダンジョンはそのまま消滅する。

 また核が古くなりすぎて動かなくなると、ダンジョンは形はそのままに、それ以上魔物や宝を呼び寄せる力がなくなり、エルフの存在を鍵にする入り口も機能しなくなる。

 そうなると核の動かないダンジョンは隠していた姿を現し、普通の人間も出入り可能になり、盗掘目的の冒険者などが最後の甘い汁を吸おうと集まりだす。

 これが俗にいう『廃ダンジョン』だ。


(でもほとんどの廃ダンジョンは国や領主主導の非営利団体が管理しているのに……)


 廃ダンジョンにはたくさんのオーバーテクノロジーや、また謎多き種族エルフについての痕跡がそこかしこに眠っているため学術的、技術的な面での利用価値が非常に高く、そして、その内部が大変芸術的で美しいため多くの人を呼ぶ観光資源になる。


 だから、まずは盗掘の冒険者を炭鉱のカナリアとして潜らせ、ある程度安全が保障されてから国や領主が介入し管理を始めるのが一般的に知られているやり方だ。


(じゃあここは、まだ他には発見されていない廃ダンジョンを誰かが転移陣で出入りして利用しているということ? いや、廃ダンジョンはいろんな人に姿が見えるようになるはず……でもすっぽり山の下に入っているから姿を現していてもわからないとか?)


 アニエスはあたりを見回す。さらに目の回線を()()に切り替える。

 すると予想通りごく最近も人が出入りしたという魔力の痕跡がいくつも残っていた。


「考察はこれくらいで、いよいよ探索を始めましょうか……」


 アニエスはエースからもらったロナの紋章入りの指輪に短く命令を唱える。するとパッと高出力の光が指輪から放たれ、アニエスの周辺が明るくなった。


 続いてもう一つ命令し、アニエスは足元に指輪の光でバッテンを書く。そうすると、アニエスにしか見えない魔力の道しるべのマーカーがされた。ここが探索のスタートラインだ。


(エースは私がどんな行動するのかがわかっているみたい。だって指輪にこんな機能をつけるんだもん)


 アニエスは暗所と閉所が合わさった場所が極端に苦手なので、もしかするとそれも考慮に入れた仕組みかもしれない。いずれにせよ義弟が義姉想いなことにアニエスはエースに感謝した。


(残したメモには一時間しても戻らなければ、殿下たちに知らせるように書いてきた。急ピッチで周らないと)


 アニエスは今度はズボンのすそを少しめくる。


(エースの作る『音速ブーツ』を念のため履いてきたのも役に立ちそう。いざとなればこれで猛ダッシュで戻れば間に合うはず)


 様々な事前準備が功を奏していた。これがアニエスに安心感を与える。


 けれどそこで油断は禁物だったのだ。


 なぜなら、ここが『廃ダンジョン』でありながらも実は『廃ダンジョン』ではなかった。

 そしてそれが後にアニエス自身を窮地に陥れることになる。

 だが、どのみちそんなことは、この時はまだ知るよしもなかったのである。

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