その後59(ロウリュ)
~ロウリュの入り方~
一、「ロウリュしますね?」と言い周りに断りを入れてから、自分の持つ柄杓でバケツから水を掬い、熱せられたサウナストーンに真上から少しずつ水をかける。
二、体感温度や湿度を水の量で調整する。(ロウリュ適正温度は八十度から百度)
三、ロウリュを行うと、蒸気が室内を循環してじわじわと体感温度が上がってくるので、椅子に座って湿度と温度が上がるのをじっと待つ。
四、ロウリュのサウナ室内は常に換気していため、一度湿度を上げても時間がたつと温度とともに下がってくる。なので十分から二十分の間隔で、サウナストーンに再び水をかけよう!
五、白樺を束ねた『ヴィヒタ』で、ほてった身体をバシバシと叩く。白樺の葉の清涼な香りが気分を森へと誘い。豊富なビタミン分と刺激によって血行が促進。毒素が排出されて疲れも軽減し、お肌がピチピチと活性化する。
タオルなどをあおいで熱気を送る『オウフグース』の人を雇うとより玄人っぽい楽しみ方になる。
六、水分補給をこまめに行い、軽いストレッチをしてリラーックス。時々外に出たり、冷水浴をして体を冷やす。
体を冷やすことで血行促進、新陳代謝が向上、筋肉が弛緩してリラックス効果を得る。これが愛好者たちが世に言う『ととのう』だ。
頭がボーっとするようなら、頭部の過度な温度上昇を防ぐサウナハットがおススメである。
七、体温を上げてしっかり発汗した後は、多くのエネルギーを消費し疲れている。ロウリュ後は心地よい気温や姿勢のもとで十分な休息をとるよう気を付けよう。
ーー
「では殿下『ロウリュ』をしますね?」
ノートンがそう言いながらサウナストーンに少しずつ水を注いだ。
真っ赤に熱せられたサウナストーンに水がかかるとそこからぼわっとした薄い雲のような水蒸気が発生し、徐々にそれが霧散することで室内の気温と湿度が上がっていく。
最初は寒かった室内も気付けば五十度、六十度と温度を上げ、やがて理想の八十度から百度に達した。
セオドリックもノートンも室内のベンチに腰掛け、腰にタオルを置くくらいで後は何も身に着けていない。
この二人の周りには、念のため同じ格好をした近衛が二人ほど室内の端と端に配置されていたが腰には帯刀ベルトを下げていてかなりアレな風貌だ。
「あー、熱くなってきたな……」
「殿下、水をどうぞ」
「ありがとう。『ヴィヒタ』はいつすればいいんだ?」
「いつでもいいですが、殿下はいちおう『玉体』ですので、傷にならないようにお願いします」
「姫であるタニアならまだしも、私が多少キズをおったところで平気だろう?」
「そんなことはありませんよ。感染症のリスクもありますし、お気を付けください」
実際、セオドリックが傷つかないように、こうして近衛がサウナ室内にも待機している。今更ながら彼は王族で次期国王最有力候補者なのだ。
「近衛といえば、大丈夫か? まさか万が一にも彼女たちの裸が目に入ることはあるまいな……」
彼女たち。というが、セオドリックが裸を見られるのを危惧するのはただ一人だけだ。
「そのあたりは強く言い含めていますので大丈夫かと」
「ならいいが……。はあ、アニエスと一緒に入りたかったなあ……」
セオドリックがぼやくようにつぶやく。そうしてしばらくボーっと天井や二重窓からみえる雪景色を目にしたあと、急にハッと何かに気付いたような顔になった。
「しかも、あちらは考えてもみれば美女四人組じゃないか! くっ、こちらとは雲泥の差だな? ほんの数百メートル先に楽園があるのにいったい私は何をしているんだ!?」
セオドリックは本日も全開に通常運転である。
「こちらは私とで大変申し訳ありません。とはいえ、どうか覗きなどはなさりませんように……」
「誰が、覗きのようなせこい真似をするものか。それなら堂々と室内に『やあっ!』と私は入って行く!」
「露出をした『痴漢』は覗きより性質が悪いですよ殿下」
「ええ、そうかな? あっちも喜ぶと思うけどなあ?」
セオドリックはその端正極まる甘いマスクに、背が高く均整の取れた締まった体。
肩や二の腕、胸、背中などの筋肉も雄々しく逞しく、お腹は当たり前のようにシックスパック。
お尻は小さく筋肉質で、長い脚にも男性的で美しい獣のようなしっかりとしたしなやかな筋肉が絡みつき、王侯貴族ゆえに全身のムダ毛も処理されている。……がこの辺りに関しては好みがわかれるかもしれない。
そして、何よりそのシンボルは王者の名にふさわしき立派さだった。
セオドリックの身体を目の前にした女性はそれを目にした瞬間、固唾を飲み、舌なめずりをし、この男の種が欲しいと本能が呼び起こされ、体が熱く疼きだす。
ローゼナタリアの『セックスシンボル』といえばこの男を指すと考えてほぼ間違いないだろう。
「……実際いままでそうだったから、そう思うかもしれませんが。普通は裸の男性が浴室に入ってきたら阿鼻叫喚の大パニックですよ」
そう言いため息をつくノートンだが、見せる機会が無いのが涙を流して口惜しくなるほど、実は良い体をしている。
筋肉に関して言えばセオドリックより強固で実戦的でワイルドと言っていい。このスマートで常識的な、整っているが地味な男の顔を見て、まさかこんなお宝が隠れていることに気付く女性は果たして何人いることか?
だが、この引き締まりすぎた体も『王太子最後の壁』という最側近にして、王太子の盾であり鉾という彼のもう一つの顔を思えば納得と言えよう。
王太子を守るため、骨が砕かれ血のにじむような訓練はもちろんのこと、ずば抜けた才能ともいえる体格の良さと丈夫さ、魔法センスと身体能力を持つ彼は選び抜かれた存在なのだ。
「冗談だよ冗談。心配するなノートン! 何しろ裸で移動するには間抜けすぎる距離だ」
「……まるで距離が無ければ実行していたかのような言い方に、疑惑が拭いきれません殿下」
一方その頃、そんな噂をされている女性サイドでは……。
「な、何なの、これ…………!?」
新たなる嵐が巻き起きようとしていたのだった。




