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その後38(約束と行き違い)


 ぷんぷん! ぷくーーーーーーーーーーーっ。



「今日の話は、外には漏れないようになっているんだよな? ノートン」 


「はい、期間は約半年から一年ですが、話をしようとしても肝心な内容にはノイズが入るようにティールーム全体に術を施すよう下の者に準備させましたから」


「じゃあ、話は聞けたし。とりあえずこの件はこれで終わりだな」


「まあ、ティールーム内に居た者の評判は、少し変わったかもしれません」


「別にそれで済むのなら私は構わない。ッというわけで、いい加減ふくれるのを止めろアニエス!」


 アニエスがフグのように顔を膨らませ、ぷんぷんと怒る。というのも、行啓訪問に連れてきた理由がセオドリックがアニエスに話していたことと齟齬があったためだ。

 まあ、それも周りから見れば真の目的のための言い訳であるのは明白だったのだが、結果、嵌められたアニエスにはとうてい納得のいくものではなかった。


「殿下、お茶会でのことが本当ならば、私は次回の行啓訪問へのご同行をキャンセルいたします」


 それにセオドリックは眉をひそめて冷たく言い放つ。


「もう約束をして契約書も交わしているんだ。約束の反故(ほご)は許さない。でなければ、君との約束も私は守れない!」


 それに、アニエスはセオドリックをキッと睨んだ。


「そんなの脅迫でございます! そもそもの前提条件が異なっているのだから約束も無効です」


「君の仕事が役に立っているのは事実だし、前提条件も誤差の範囲だろう。私が君に魅力的に感じているのだから、周囲もおのずと君に魅力を感じて最初に言っていた通り、王室の広告塔としての役割を君は果たしている!」


「果たしてそうでしょうか……? それに関しても、私は最初から殿下がいれば私などいらないと考えておりますが……」


「ならその私のコンディションの調整に君は必要不可欠だ」


「だからそれがそもそも間違っていると何度もおっしゃっているのです! むしろそのせいで今日は殿下の評判を逆に落としかねない事態になったのですよ!?」


 アニエスは少し呼吸を整え、今度は冷静に話そうと静かに話しはじめた。


「……セシリアさんは少し激しいところがありますが、言っていることはもっともだと思いました。婚約しているならいざ知らず…………少し気に入っている程度の貴族の娘に往年の女王や王妃、姫が本来身に着けるべきものを王太子が下げ渡しているのを知って、ほとんどの国民は果たして良い感情を持つでしょうか?」


 アニエスは呼吸おいてさらに続けた。


「プロポーズはありましたが、それについても正式なものではないし、もう白紙になっているのだから無かったも同然です。……なので贈ってくださったものも、しばらくは身に着けるのを控えさせていただこうと思います!」


 セオドリックはアニエスの話に静かに耳を傾けながらも、眉間にしわを寄せたまま納得のいかない様子だった。


 それはそうだろう、セオドリックはプロポーズをなかったことにするどころか絶対に改めてプロポーズするつもりだし、王族の宝飾品もそのつもりで最初から贈っているのだから。


 とはいえそのことは現段階ではアニエス本人には知らせるわけにもいかず、セオドリックはただ今は胸に抱えておくしかないのだ。


「……わかった。アクセサリーの件については返却は絶対に無しだが、あとは君の判断に任せることにする。だが、行啓訪問に関してはどうしても続けてもらう!!」


「それなら、距離の取り方に関しても改めて配慮させていただきたく存じます。いくらなんでもこのままではいらぬ憶測を呼んでしまいますので……今夜の野外オペラも私は別に取った席に移らせていただこうと思います!」


「…………そうかわかった。好きにしろ!」


(……空気重っっ)

 

 ノートンは二人の立場や考えの違いを、一番よく理解している立場なので二人の言いたいことに大変共感はするものの、だがさすがにそろそろ空気の重さがストレスに感じている。

 そこでノートンはある妙案をセオドリックに耳打ちすることにした。そして……。


「アニエス嬢のお話はわかりました。確かに今日はいろいろありましたし席はどうぞご自由になさってください。でも席代に関してはこちらで支払う決まりとなっていますので申請は必ずおこなってくださいね?」


「承知しました。ご理解くださりありがとう存じます」


 アニエスが挨拶をしてその場を後にしたあと、セオドリックは先ほどノートンがセオドリックに耳打ちした件について聞く。


「ノートンがそんなことを提案してくるとは意外だよ」


「…………殿下もアニエス嬢もお互い引けなくなっていましたので、物理的に体はいったん距離を置いたほうがよいと思いました。意地になっているので」


「今日だけでだいぶ同じようなことで言い合いになっているからな……まあ、ほとんど私のわがままのせいなんだが」


「本当ですよ。正直、私もうんざりです」


「ノートンは一番の被害者だからな。悪いと思っているよ申し訳ない」


「こちらからすれば『いいから、早く付き合っちゃえよ』って言いたくて仕方ないですよ? 二人のやり取りはどう見ても痴話喧嘩かイチャついているようにしか見えませんから……」


「じゃあ、今度アニエスがいる前でそれを言ってくれないか。それであいつが意識するように仕向けてくれ」


「……」


「なんだ?」


「殿下のそういう性急なところがアニエス嬢が逃げまわる原因ですよ。……どうかお控えください」


 そして今度はセオドリックがフグのようにぷくーーーっと膨れる番になるのだった。



 次回はうって変わってイチャイチャのギャグ回です!

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