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その後28(絶叫の回転木馬)


 写真のために記者やカメラマンが前に集められる。


 アニエスはその人たちの視線にうっと飲まれる気がした。いったいどんな記事が書かれるのか考えただけで憂鬱になる。

 だがここでノートンが前に出て記者たちに説明を始めた。


「先に注意しておきます! 彼女はただのアシスタントであり今回女性がこれらの遊戯で遊んでも問題がないのか検証するために、殿下とご一緒します。それをもし変に膨らませて殿下の恋人、もしくは婚約者候補などと書いたり誇張した写真を掲載し世間を引っ搔き回し、王室の権威にも傷がつきかねない行いをした新聞。雑誌。その他マスコミ媒体に対しては全ての書籍、新聞等の二年間の発行禁止を申し渡します」

 

 この発表を聞き、記者やカメラマンはどよどよとざわめいた。


「それというのも本日起こった王室の正式な発表もない婚約者候補騒動を重く受け取っているためです。そのことをどうぞ重々承知の上で記事の掲載をお願いします。また、今回の記事の発行前に必ず検閲を受けることへの同意のサインもしていただきますのでご理解ください」


 アニエスは突然の権力の大盤振る舞いに驚いた。


「では、皆様のすばらしい記事を我々も心より楽しみにしています」


 そこでノートンはにっこりと事前注意の喚起を締めくくり、そのままアニエスはセオドリックにエスコートされまずは最初のライドに向かった。


 アニエスは手を引かれるまま、いったいこれはどういうことなのかと思いセオドリックを見上げる。

 するとセオドリックもアニエスを見下ろし片目をつぶって見せた。

 やはりこれはセオドリックの差し金だったようだ。


「殿下これは……」


「そりゃあ、せっかくのデートに水を差されたくはないからな」


「デートって……あの」


「私だってちゃんと反省をしているんだよ。だがそれでもアニエスと一緒にいたいし、そしたら使えるものは何でも使わないとな」


「殿下、職権乱用ですよ」


「それがどうした? 私はそれでも王太子の中の王太子だ」


 ナルシストもここまでこれば天晴(あっぱ)れだろう。


 そして向かった先。最初に乗るのは回転木馬いわゆるメリーゴーラウンドだ。

 移動式でない常設のものはアニエスも何度か楽しんだことがあるが、移動式のものであるためか通常よりもこじんまりとしている。


「これは蒸気機関で動いているんですね?」


「一般人も楽しむものだからチケットの値段を抑えるために魔導系統の力を借りないんだろう。まあこっちの方が一般人には扱いやすいだろうし」


 そもそも魔導仕掛けの機械は貴族御用達の高級品ばかりだ。領主が整えるインフラや事業。支援や寄付でもない限り、普通一般人はその恩恵からは遠い。


 アニエスたちは早速チケットを係に渡すと階段を上って、遊戯の木馬の物色を始めた。


「ほとんどが白馬だわ、やっぱり人気なんだ。黒鹿毛(くろかげ)の馬も可愛いのに」


 そうひとり言を言いながら、白馬しか残っていなかったため白馬に乗ることにした。


 通常スカートで馬に乗る際は、横乗り用の鞍の横に太ももで挟んで体を支えるための突起が備わった専用鞍を使う。だが、もちろん男女問わず(またが)ることを前提にした回転木馬にはそんなものはない。


 とはいってこのような場で一応貴族令嬢の端くれでもあるアニエスがスカートのまま馬に跨るわけにはいかないだろう。


(まあ私は裸馬(はだかうま)にも乗れるし、これくらいは平気かな)


 そういうわけでアニエスはそのまま木馬に横座りで着席する。するとそんなアニエスを横から抱えるように、アニエスの木馬にセオドリックも同席した。


「セオドリック様、別の馬に乗ってください」


「何を言っているんだ。こういう規制のない回転木馬はひどいスピードを出すものなんだぞ。生きてる馬なら意思疎通できるし乗りなれていれば滑らないが、こういう木馬は案外つるつる滑って危ないんだ」


「私は平気です!」


「アニエスは平気でも、新聞を見てアニエスの真似をするお嬢さんやご婦人は危ないだろう。『こうやって男性に支えてもらってください』と注意喚起しなければケガをするかもしれない」


「確かにそうかもしれませんが、でもなんだか異様に近いような……」


「ちゃんと支えないとな、危ないしな」


「殿下の今ある手の位置の方がよほど危ないですよ」


「あ、手が滑った」


「きゃあ! ばかばかばか! いったいどこを触ってるんですか!」


「アニエスは柔らかいなあ。愉しいなあ」


「うう! この変態王子」


 そうやって(はた)から見ればイチャイチャしているようにしか見えない中、いよいよ回転木馬は動き出した。


 そのスピードはというと……。


 想像を絶するものだった。ちょっと蒸気機関さんが頑張りすぎていた。もはや絶叫系マシンだった。しかも周回も多い。


 木馬が止まった時には、近くでギャン泣きする子供が複数いたくらいだ。


「……」


「一緒にいて良かっただろう?」


「回転中ほかにも二箇所さわっていましたね殿下?」


「さ、ほらほら降りるぞー」


「もう、大嫌い!」


 ライド一個目にしてこの有様。

 アニエスは先行きが不安になった。


 果たして次にはどんなセクハラが繰り広げられるのか? 次回に続く。



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