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その後26(かまくらとテント)

 競技が全て終わり時間は一時半を回っていた。

 街の人たちはこの後マーケットに行ったり出店で食べ物を買って、広場にいくつも用意されたかまくらやテントの中で食事をする。


 かまくらはかなり大きく中にテーブルとイスもあるのだが、足元に熱いランタンが準備されており暖かく、ドームのてっぺんや出入り口が空いているのでので、一酸化炭素中毒の心配はない。


 テントには独立したものと、まるでうなぎの寝床ように組まれたものがあり、

中にはうなぎが長すぎて迷路のようになっているものもある。

 そちらも中にはテーブルと椅子があり、灯りがあり、ストーブやボイラーで温めた温風が送り込まれ一応屋外の食事ではあるもののぬくぬくと快適に食事を楽しめるようだ。


「殿下、街が来賓用に準備したテントで会食になります」


 次の目的地に向かう道中でノートンがこれからの予定を説明する。


 まずは会食が今からありその後マーケットの視察、それが終われば例のセシリアとの遅めのお茶会で夕方に少し空き時間。夜に屋外オペラを鑑賞しそのあと軽い夜会が催される。


「……ずいぶんお金もかけた歓迎をしてくれるし実に手も込んでいる。でも、いや、何でもない」


「殿下もお疲れでしょうが、明日はもっと緩やかな日程ですのでどうか……」


「わかってるよ、私は今日はサーカスの象だからな。見てもらってなんぼのものなのにうっかり我が儘を言うところだったよ。ただノートンちょっと強壮剤をもらってもいいだろうか?」


「……準備するのは容易いですが、でも殿下……抗淫薬の効果が薄れる恐れが」


 ノートンがこっそりセオドリックに耳打ちをする。特に今日はこれから清楚な外見、中身は淫魔サキュバスのセシリア嬢と会うのだ。抗淫薬の効力が落ちるのは避けたかった。


「じゃあ、会食の時に珈琲を出すようには頼めるか?」


「かしこまりました」


「ところでアニエスは寒くないか? ほら、もっとこっちに」


 だがアニエスは吐く息は白いもののあまり寒そうでもない。


「殿下、私は寒さにかなり強いので大丈夫です。むしろ、もう少し涼しくてもいいくらい」


「今日の昼の気温はかろうじてプラスのゼロ度間近だぞ」


「はい、そうなのですが私の基礎体温ってなぜか冬の寒い時期ほどすごく高くって夜もお布団をつい蹴飛ばしちゃうんですよね」


「ふーんそういうものか。私は普通に冬は寒くて仕方ない。じゃあアニエス今夜は部屋に来て私専用の湯たんぽになってくれるか?」


「ねえコーラ、殿下に湯たんぽを送ってくれる? お風邪を召されると大変だから今日中にね」


「はい、お嬢様」


「いやいや、その柔らかい人肌で温めてほしいんだが」


「コーラ、できればそれは等身大の人型の湯たんぽでお願いするわ」


「はい、とりあえず今カタログでお調べましたところ『マリー』『ローズ』『ベル』の準備がございます」


「殿下どの子にになさいますか?」


「怖いしそんなものはいらん!」


 いつもの調子でセオドリックがアニエスにセクハラをはたらきながら、わちゃわちゃしていたら昼食会場はあっという間に到着した。


「わあ、テントとは思えない大変立派な作りですね」


 骨組みがしっかりしており、壁には何重ものフェルトが重ねられ床には分厚い絨毯が敷き詰められている。

 真ん中に大きな焚火に似た囲炉裏がありその周りにぐるりとテーブルが囲っている。椅子にはそれぞれカバーの他に毛皮の背あてと座布団がセッティングしてあり実に温かそうだ。


「騎馬民族の住居をヒントに作られたテントです。どうかお腹がいっぱいになったら壁際のソファー兼ベッドでおくつろぎください」


 市長が入ってきてニコニコとこちらのテントの説明をした。それにアニエスたちや護衛はさっと挨拶をする。


「殿下、ワインもございますがいかがですかな?」


「市長殿ありがとうございます。だが、夜の日程もあるので昼の酒は控えたい」


「お若いのに殿下はしっかりしていらっしゃる。では、鹿とトナカイのステーキはどうです?」


「それは喜んで頂きます」


「うむ、では一番新鮮なものを!」


 コースの前菜から食事はどんどん運ばれてきた。前菜だけで五皿はある。


(昼からだいぶ量が多いな……寒い地域だから体温維持にたくさん食べるということか。美味しそうだがよく考えて食べないと午後が大変そうだ) 


 セオドリックの席は左にノートン、右に市長が陣取っている。アニエスは向かい側の遠い席になってしまった。


「それにしても殿下は本当におモテになりますな。あんな可愛らしい婚約者候補までいるとは実にうらやましい!」


「いやいや、あの場でも言ったようにそれは王室でも(あずか)り知らないことです。彼女とは顔見知りですがそんな話はしたこともありません」


「いやいやでも悪い話ではないのでは? 彼女は外地で総督をしていた叔父もおりますし評判もなかなか良さそうですよ。あくまでも婚約者『候補』なわけですし、候補は少ないより一人でも多い方がよいでしょう?」


 それにセオドリックはにっこりと笑った。


「いいえ、私は出来れば最初から一人に絞るつもりです。結婚は遊びじゃないので慎重に選びたい」


「ほほお、真面目でらっしゃる。では殿下はどういう女子がお好みでいらっしゃるのかな?」


「そうですね。髪は私とは違って最初から明るい方がいいですね。背も私と並んで丁度いいように高い方がいい。教養があり家柄がしっかりして、性格は素直でおちゃめで愛嬌があり、だが時に驚くほど大胆で勇敢。狡猾卑怯で打算的、なのに許されてしまう妙な魅力。ウブなのに魔性でその正体は勝利の女神か或いはファム・ファタールなのか? 気付けば底なし沼のようにはまって身動きを取れなくして一生出られなくしてしまう……そんな女性ですかね」


「そ、それはまた……なんとも」


 あまりの内容に市長は二の句がつげず絶句する。


「殿下、市長が驚いてしまわれています」


「文句ならあそこでのんきに飯を食べているあいつに言ってくれ」


 アニエスは晩餐会ではないし、周りに偉い人のいる席でもないのでこの間よりのびのびと食事をしているようだ。パクパクと前菜を口に運んでニコニコしている。


「いやはや流石、殿下は普通の男子とは経験値が違いますな……」


「ハハッあくまでただの好みの話ですので」


 まあ実際、経験値云々の前にいろいろと規格外すぎるのは確かだ。


 さて会食が終わり次回のお話はマーケット編に続く。



注意:湯たんぽであってラブドールではありません。


~ファム・ファタール~

 男にとっての『運命の女』というのが元々の意味。だが同時に『男を破滅させる魔性の女』のことを指す場合が多く。単なる『運命の相手』や『悪女』ではなくそれを満たしながら自由奔放に振舞い男を振り回す『男を破滅させる魔性性』のある女性を指す。

 サロメ、妲己、ロリータの語源のロリータ(ロドレス・ヘイズ)、褒姒ほうじ阿部貞あべさだなどがその代表例といわれる。


~テント~

 遊牧民が使用している伝統的な移動式住居ゲルを作中テントのモデルの一つにしました。

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