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その後25(気まずい表彰)


「ノートン、セシリアとの話し合いの場を設けてくれ可能なら今日中に」


「かしこまりました。手配いたします」


 セオドリックはアニエスの提案に乗ることにした。

 絶対にアニエスとセシリアを会わせたくないし自分も会いたくないと思っていたが、セシリアが自分が王太子婚約者候補だと名乗っている以上たしかに会わないのは危険だと思ったのだ。

 また、アニエスをここで部外者にすることは避けたかった。アニエスにその自覚はないが、セオドリックにとってはアニエスはこの話の中心であり当事者、その意志を表すためにもこれは必要なことだった。


「殿下そろそろ表彰のために壇上に上がる準備をお願いします」


「ああ、わかった」


 結局、騒動のせいで他の競技はあまり身を入れて観ることができなかった。

 

 だが仕事に関することはそんな状態でも脳みそで勝手に処理され、選手や新聞マスコミに発するための言葉も出来上がっていると、自分は本当に優秀なんだなあとセオドリックは他人事のように感じる。


 子供の頃から、自分の個人的な感情や考えと公に対する最適な考えと言葉が脳みそで常に二重で進行するのに慣れ、当たり前になってしまっているのだ。

 逆に普通の人はそうではないと割と成長してからセオドリックは知り驚いたくらいだった。


 セオドリックはさっきの騒動がまるでなかったかのように堂々と登壇し、選手が望むもっとも喜ばせる言葉を紡ぎながら晴れやかな顔つきでメダルや記念品を手渡す。

 そんな中いよいよ今日のヒーローにして、どうやら自分のせいで愛しい人に振られた背の小さな男が、チームを代表しこちらへ上ってきた。


「今日の活躍は本当に素晴らしいものだった。私もとても感動した一人だ。きっと普段のたゆまぬ努力と選び抜かれた才能、チームメイトの信頼のもとに今日の勝利はあるのだと思う。君は間違いなく今後も語り継がれる英雄だ」


「……」


「優勝おめでとう」


 今まで黙っていた男がそこで意を決したように口を開いた。


「殿下、直接お声をかけるのが許されない身ですが一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 一瞬その場に緊張が走ったが、セオドリックはそれを笑顔で承諾する。


「殿下はその、セシリア嬢を愛しておいでですか?」


「個人的なことはあまり口にしたくないが君の勇気を評して答えよう。彼女はとても素敵だし魅力的な人だと思う。でもそれは長年の友人としてであり婚約の件も先ほどの私の部下の言葉の通りだ。だけど勘違いしてほしくないのはこれは彼女が嘘つきといって罵倒しているわけではなく、彼女もきっと被害者で誰かに言わされているだけなんだと思っている」


 これで納得してくれるだろうかとセオドリックは彼の顔色を観察した。だが、その様子を見るにその顔は腑に落ちた様子ではない。


「果たしてそうなのでしょうか。少なくとも彼女は利用されているとしてもそのことを喜んで受け入れているようでした」


「私はその場にいなかったから憶測でしか言えないが、王太子との婚約の話があればそれがたとえ私ではなくともほとんどの女性は有頂天になるだろう。でもそれは理想化した一時的な夢でしかなく、冷静になあればきっと何が一番か見えてくるはずだ」


 それを聞いて英雄はまだ納得はしていなかったが、表情はいくぶんか楽なものになった。


「君に栄光あれ」


 セオドリックはそう言い記念トロフィーを渡す。

 彼は受け取ると恭しく膝を折ってからその場を去った。

 セオドリックも恋に悩む者として彼のことはけっして他人のようには思えず、しばらくその背中を見送り彼の幸せを祈った。


 役目を終えセオドリックが戻るとノートンがさっそく報告をする。


「殿下、セシリア嬢との連絡が取れました」


「で、どうなった?」


「はい、それではお茶の時間にお会いしましょうとのお返事です」


「わかった」


 一方、静かに席で記録を取っていたアニエスの肩を同時刻にコーラが叩いた。


「お嬢様お手紙です」


「あら、今?」


 アニエスは手紙を受け取ると、送り主はアニエスが晩餐会で友人になったロドリスのようだった。

 アニエスはそれを見て喜んで封を開けるとそこには、午後のお茶のお誘いが書かれており。簡単なメンバーについての追記が記されていた。


「え、セシリア・オルコット……?」


 そのメンバーの中になんと、話題の彼女の名前がある。


「で、殿下あのこちらを」

 

 アニエスはすぐにセオドリックにその招待状の手紙を見せた。


「……偶然、じゃないな。彼女はセシリアとわたしが会うことも知っているはずだ」


「つまりそれは……」


「セシリアはアニエスの存在を知っている」

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