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3、異端の錬金術師

 赤い石が錫を金に変えたのならばこれは本物の『賢者の石』だと認めなければならない。つまりそれは……。


「ジオルグ・アルマの実力が本物だとお分かりいただけたでしょうか?」


 そう彼はペテン師でも何でもない紛れもない天才錬金術師ということだ。


「実際に目にし、いま手にもしているが……それでも私はそれがどうして可能なのかが、そしてそれならばなぜ他の錬金術師に可能ではなかったのかがわからない……!」


「ジオルグ・アルマ……私のお師匠様は、錬金術師としては異端なんです。錬金術師の多くが知識欲が強く非常に優秀で高貴な出が多いにもかかわらず先天的、後天的な要因で魔力が低い。もしくは魔法のセンスに(いちじる)しく欠けていたのをきっかけに錬金術を志す者が多く、ゆえに魔法を敵視し毛嫌いする者が圧倒的大多数になります。その中でジオルグ師匠は真実の探求のためならば手段を選ばない人でした」


「というのは?」


「彼は研究に古代の文明技術や古魔法、アーティファクトを独自に研究し積極的に導入していました。私が以前より関心があったアーティファクトの存在に本格的に興味を持ったのも彼の師事のおかげです」


「つまりジオルグはほかの誰も試さない方法で唯一錬金術にアプローチしていたということか」


「唯一かは存じませんが、私が会った他の錬金術師の皆様はそんなお師匠様をたいへん軽蔑し、半端者の卑怯者とみなしているようでした。当時、彼が社会的に認められ始めていたのもあり、やっかみや妬みもあってか当たりはなかなかに強いものに感じました」


「学者集団はプライドが高いからな……どうして彼は賢者の石の生成の成功を世間に知らせないんだ。普通ならそいつらを見返したいと思うものではないのか? 錬金術師の誉れだろう」


「はい、それは彼が『賢者の石』の生成に成功しているのを存じていないからです」


 セオドリックは顔をしかめ眉間を寄せた。


「どういうことだ」


「彼はこの石の生成の実験結果を見届けてはいないんです。もともと失敗作と考えていたから置いていったのでしょうね。彼はある日私たちの前から突然失踪(しっそう)しこの石は彼のもとの住居兼研究所に残されたままになっていました」


「それを君が回収。ゆえに彼をずっと探していたと」


「そういうことです」


「ダウト」


「え、何がでしょう!?」


「それだけじゃ絶対にないだろう。君が彼を追っていたのは」


「そりゃあもちろん、お師匠様にはまだまだ教わりたいことがたくさんありましたよ。でも……」


「へえ……教わりたい?」


(いったいナニを?)


 そう思いながらセオドリックはそれ以上は言葉にしなかった。


「『賢者の石』は確かに本物ですが、物質を黄金に変換する数量には限りがあります」


 アニエスはセオドリックの気持ちを知ってか知らずか、熱くプレゼンを続ける。


「ジオルグ・アルマの最終的に目指すところは『他の金属が黄金に変わるのならば、ありとあらゆる他の金属または物質もまた他の金属に自由に変えられるはず、そしてそれらを可能にすること』……これが出来れば、黄金だけを生成するよりもさらに大きな利潤と選択肢が生まれます。金は有用ですが価値が高いのは何よりもその希少性があればこそです」


 アニエスはそう一気に言ってしまうと一度息を吐き、改めて深呼吸した。


「セオドリック王太子殿下。どうかジオルグ・アルマを私の事業の研究チームに入れることをご了承ください。絶対に殿下が後悔しない結果をお出します。そのチャンスを私と彼にください!」


 セオドリックは黙って自分の机に向かった。いつも準備してある水をグラスに注ぎ仰ぐように飲む。


 その様子をアニエスは固唾(かたず)を飲んで見つめる。

 セオドリックはしばらく考えようやく口を開いた。


「条件がある」


 と言って……。

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