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その後23(元カノとセンセーション)

 

 セオドリックは昔からモテてきた。


 モテてモテてモテまくってきた。

 そんな彼が関係した女性の数はざっと四桁に達する。

 その付き合いの中身はライトなものからディープなものまで実に様々だ。


 お互いの気……というか身体の相性も良く、頻繁に濃密に親密に会っていた相手はやはり、なかなか忘れることができない。

 特にトップクラスに君臨する相手。その中の四天王とでも言っていいその一人が今セオドリックが覗くオペラグラスの中にいる。


(これは、不味いぞ……)


 セオドリックはアニエスに再度プロポーズするため、今までの女性との関係をすべて清算し禁欲生活に入っている。


 絶倫で日に何度もお替わりをし、性への飽くなき探求にいそしんだ頃に比べたら、今はまるで坊さんのような生活だ。


 もちろん人というのはそう簡単には変わらない。

 半年も経ち実際そろそろ禁断症状が出始め、ちょうど我慢のピークに来ていた。


 でも、それも波風立てなければこの山場も無事に超えられるはずだ。あの元カノ(げきやく)にさえ会わなければ!


「殿下? 随分顔色が悪いですがいったい何が見えたのですか?」


 きょとんとした様子でアニエスが上目遣いにセオドリックを見上げる。

 今日の唇は淡いとろけるような桃色で今はほんの少し半開きになっている。なんて吸い付きたくなるような唇をしているのだろう……。


 おまけに赤くなって恥ずかしがるあのあまりにも可愛い姿、あれを見た時セオドリックの正気は今にも飛んでいきそうだった。


 だからこの可愛いアニエスを自分の花嫁とすべく、いま自分は自分との戦いに勝利せねばならないのだとセオドリックは改めてその決意を固くした。


(絶対に彼女とのエンカウントだけは避けねば……!)


「ノートンまずはオペラグラスを見てくれ……」

「殿下わたしはそこまでこの件に興味関心は……」

「いいから! 後で説明するから!」


 そう言われ、ノートンもオペラグラスを覗く。


「……」

「わかったか?」

「……殿下いかがいたしますか?」

「とりあえず誰か付けて動向を調べ……」


 その時、例の現場で動きがあった。なんだかざわざわと騒いでいるようだ。それから皆がセオドリックの方を向いている。


「殿下……一度魔法を解いた方がよろしいかと」

「わかった」


 セオドリックは『インビジブル』を解く。これで人々からセオドリックの姿が認識される。

 セオドリックの姿が見えると人々はますます騒ぎ出した。いったい何なんだ。


 さらに何人もの報道班や記者がセオドリックの席近くまで走ってきた。もちろんセオドリックに近付けないようその前にいる近衛兵や護衛が厚い壁になっている。

 セオドリックは意味が分からず眉をひそめた。

 その記者の中に一人スピーキング・トランペットの拡声器でセオドリックに遠くから直に質問する者があった。


 「殿下! セシリア嬢との関係に一言! 王太子殿下の婚約者候補とは本当なのですか!?」



 セオドリックにとってまさに寝耳に水。


 いや、たしかに元カノの名前はセシリアなんだが、婚約の話なんて一度たりともしたことはない。


「申し訳ないのですが、王室で公式にそのような発表はございません!」


 すかさずノートンが声を魔法で拡声しそのことを全否定する。だが、記者はあきらめない。


「しかし今回、王太子殿下が滞在されているお屋敷はセシリア嬢のご実家の所有とのことですが? 何か深い関係があるからなのでは!?」


「……ノートンそうなのか?」


「手配は街側に一任していたため、防衛、安全面に関して以外は把握しきれておりませんでした。完全に私のミスです! 申し訳ございません……」


「まあ……ノートンは他にも忙しかったし全てをすべて把握しきれないのは仕方がない。にしても、今回は運が悪かったな!」


 いったいセシリアは周りにどのように話したのだろうか? 

 というかこれはつまり英雄の彼を振ったのはセオドリックのせい……ということになるということだろうか?


 ざわざわとする中、ノートンの指示で雪まつり主催者側が記者たちをセオドリックの側からむりやり離し連れて行ってくれた。


「静粛に静粛に! まだ雪まつりの競技が続いております。どうか皆さん運営進行にご協力をお願いします!」


 みんな本当なら王室一大センセーションのこの件に興味津々だが、この辺りで雪まつりはやはり特別なものであるらしい。気になりつつも皆自分の席や持ち場に戻って大人しくなる。

 そして、競技の間ずっとセオドリックは大量のチラチラする視線の矢にさらされ続けた。インビジブルの魔法をかけ続けておくべきだったかもしれない。

 

 だがそんなことよりも重要な問題があった。


 アニエスが自分以外にもセオドリックがプロポーズした女性がいるとすっかり勘違いしかねないことだ。


(最悪だ。再度アニエスに結婚を申し込むための用意をあれやこれやとずっと手回ししてきたのに、これで、もしかすると全てぶち壊しになるかもしれない!)


 新聞記事で社交界デビューしたアニエス自身の知名度を上げ、女性との関係を全て清算し、アニエスの父イライアスを口説き落とすべく計画を進行していたというのに、もしこのことがまるで真でもあるかのように報道でもされようものなら……。


「ノートン、できる限りマスコミの買収を頼む。どんな弱小の雑誌社でもだ。場合によっては脅してもいい」


「わかりました……部下をすぐに走らせます。アニエス嬢のことがたとえなかったとしても、これは王室の権威にも関わりますから!」


 犬ソリ、雪ずもうなど粛々と競技は進むものの皆の関心はもはや別のところにあった。

 だが、セオドリックの元カノ・セシリアの猛攻は実はこれからが本番をだったのである。

~スピーキング・トランペットとマイク~


 スピーキング・トランペットとは声を拡声させる器具のことで、いわゆるメガホンのことを言います。原型は古代ローマの時代から存在しました。

 構造としては声帯から空気への音響インピーダンス(※音の電波のしやすさを数値で表したもの)を上げることで音量を上げ多くの音響パワーが空気中に放出されるようにするものです。

 電気的な増幅装置を持つ場合に関しては声帯の代わりに電気スピーカーから空気への音響インピーダンスを上げます。


 因みに1877年~80年にはカーボンマイクも複数名に発明されています(電話機の応用で発明されました)最初はマイクの名称ではなく『送信機』だったようです。なので19世紀後半をモデルにしたアニエスの世界でもセオドリックはマイクで演説していることにしています。

 魔法でも拡声は出来ますが、機械でやった方が負担も少なく楽。

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