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その後21(天才は黙ってろ)

 

 セオドリックとアニエスは仲直りをした。


 そして、セオドリックに手を引かれ席に戻ったアニエスだが……。


「……あの殿下、いい加減手を放していただけませんか?」


 そもそもアニエスがセオドリックに怒ったのは、王太子の婚約者でもないのに公のイベントで自分の隣りに無理やり座らせようとしたからだ。

 それをなぜ嫌がったのかというと、セオドリックの立場を慮って彼の弱点になりうる行動を避けるため……そして女性人気は凄まじいセオドリックと一緒にいることで余計な恨み妬みを買いたくはないからである。


 事実、アニエスは恋人でもないのに疑わしいという理由だけで数々の嫌がらせを受けてきた。


 だからアニエスとしては仕事は慎ましく大人しく、できるだけ地味に彼のファンを刺激しないように過ごしたいと考えている。

 それをセオドリックも理解してくれた……はずなのに、なぜ彼はアニエスと手をそれでも握り続けるのだろうか?


「別に問題ない」


 いやいやいやいや問題しかないから言っているんです! そう思ったアニエスは、自分でもその手をはずそうと試みる。

 しかし、セオドリックが指をしっかり絡めて握っているため上手く外すことができない。

 今はみんな競技に夢中だからいいがこっちを見たらどうしようとアニエスはとにかく焦った。

 もう半べそになりそうである。


「アニエス、大人しくしないとさすがに見えるかもしれないぞ?」

「じゃあ放してください! もう殿下なんか嫌いです!」

「別にいいじゃないか人には見えていないんだから」


 それは一体どういうことなのだろうか。意味が分からずアニエスは聞き返した。


「え、だってノートン様の『インビジブル』は解けていますよね? それならもうみんなに丸見えでは?」


 『インビジブル』とは姿を人にわからなく認識されにくくする魔法で、ノートンの使う特殊系の魔法だ。

 でもそのノートンは先ほど無理して三つの魔法を併用して無理に発動し続けたためその消費は凄まじく、今は回復のために少々席を外している。

 

 つまりもうこの魔法は術者がギブアップしたからもう効いていないはずなのだ。


「ノートンはいないが『インビジブル』なら私が今もかけているから継続して術は効いている」


 それはどういうことだろう? 『インビジブル』が特殊系といったのは、この魔法の開発をしたのはノートン自身で、基本ノートンしか使用できないからだ。

 なのに、セオドリックがその魔法を使えるはずがない。


「私もそう思っていたんだが、さっき物は試しに聞いてやってみたら出来たんだ。もちろんノートンの性能には少し劣るようだがな?」


 聞いたがむしろ腑に落ちないことが増えただけだった。


 天才の編み出した技術を練習もなくほぼその場で完コピしたとセオドリックは言う。

 それはいうなれば天才ピアニストに自作の超絶技巧を駆使した演奏をほんの一度見せてもらい、試しにやってみたらなんとほぼ完コピできたと言っている様なものだ。


 とても信じられない話でそれならば、とアニエスは急に立ち上がった。


「ブラボー! ブラボー! ブーーーラーーーボーーーーーッッ!」


 まるで競技に感極まってスタンディングオベーションし、喉が枯れるほどの歓声を上げる人間みたいに振舞う。

 しかも他にそんな人間はもちろんいないのでこれはかなり目立つ……はずなのだが、誰一人アニエスの方を振り返らなかった。


「……本当だわ」


 それはかなり身を削った検証だったので、セオドリックも驚いて口を開けている。



「セオドリック様が凄すぎて引いています」

「そうか……その言葉そっくり君に返そうか?」



 アニエスは、そのままストンと自分の席に座りなおした。


「まったく……私がこう言っていても実際は魔法が効いていなかったらどうするつもりだ!」


「それならもうこの状況はいろんな人に見られているということですよね? でもこんな風におかしな言動をすれば、注目はむしろそちらに集まるでしょう? その方がのちのち私に及ぶ実害は少なくて済むので、それも計算に入れて即行動に移しました」


「行動力がありすぎるぞ。やめろ」


「それにしても天才、天才だとは薄々感じていましたが…………殿下のその器用さは魔法を使う人間の中でも随一かもしれません! 発動までのロスタイムについても、連動であろうと併用であろうと大物だろうとほぼゼロだというのに……」


 アレクサンダーやエースやタニアも魔法の天才だが、センスに置いてはセオドリックは頭ひとつ抜きん出ている。

 もし神様がいるのならこの男にいったいいくつギフトを授ければ気が済むのだろうか?


「はあ人にも天に愛されすぎて困ってしまうなぁ? 困った困った!」


「うーん、ちょっと黙っててほしい」


 アニエスがちょっとイラッとする。とはいえ、ならば確かに手をつないでいても問題ないということだ。が、違う違う! そもそもアニエスがセオドリックと手をつなぎ続ける理由も元々ない。


「皆に見えないことは確認しました。でも、もう席に着いたのだから私の手は自由にしてくださいませ。これじゃあ仕事ができません」


「君のことだから資料はもう頭に入っているだろう?」


「いろいろとメモを取りたいんです。あとで質問されることも、こちらがすることもあるかもしれないですし、今日の手順の流れやどんな人や物や話があって、何が必要でどこが良くてどこが反省して改善すべきか等々」


「真面目か?」


「ポッと出で重要なポジションに置いてもらっているのだから、当たり前に人一倍努力すべきだと思いまして……本来、私よりふさわしい方はたくさんいたでしょう?」


「なるほどわかったよ。君の考えを尊重しよう」

「わかってくださいますか!」


「ではこうしよう。私が足を広げるから君が私の足の間に座る。そして座った君を私が抱きしめる。君はそのままメモを熱心に取る。実に妙案だ!」


「うん、何も分かっていないということがわかりましたよ。わーいわーい」


「ええ、じゃあ私がこの体制のまま代わりにメモを取って、アニエスが振り返る形で私を抱きしめるという方法を取るしかないのか……!?」


「ないのか……じゃないですよ!? そもそもの前提がなんで常にスキンシップを取り続けなければならない方向なのですか? 単純に手を放して問題解決。話は終了! ですよ!」


「さっきはあんなに顔を赤くして可愛かったのに……冷たいな〜」


「うううっ、絶対こうなりそうだから見られたくなかったのに!」


「そうなると、もう、アニエスの胸や腰やお尻を触って私は凌ぐしかないのか……はあ」


「もうセクハラ絶好調ですね!? この変態セクハラ殿下!」


「やあせっかく覚えたての『インビジブル』だからフルに活用しないと?」


「覚えた瞬間に悪用しないでください! 学校でそう習ったでしょう?」


「イチャイチャしているところすみませんが。……ただいま戻りました」


 二人が漫才をしている間を割って、ノートンがふらふらと自分の席に着く。ふらふらしているが顔色はだいぶ明るくなり、顔も本来の若さを取り戻していた。


「……ノートン様もう具合は大丈夫なのですか?」


 それにノートンは苦しそうに笑顔を作り、片手を上げて答える。


「はい、私も修行が足りませんね。最近は側近の仕事ばかりで魔法の鍛錬を怠ったツケが回ってきてしまって……」


「無理はしなくて大丈夫だぞノートン。昨日は夜も遅かったし」


「まあ、そうなのですが、そろそろ殿下が暴走しだしそうだなと……?」


 さすがは長年セオドリックの最側近を務めるだけあってすっかりお見通しのようだ。


「殿下、あとで記者からコメントを求められると思うので雪まつりの公務にそろそろ集中してください」


 そんでもって最側近の割とガチ目の苦言だ。これには本日いろいろノートンに無理をさせているセオドリックも何も言い返せない。


「わかった」


 そう言ってようやくアニエスの手を少し名残惜しそうに離した。


「ノートン」

「なんでしょうか殿下」


「『インビジブル』使えるな。もっと早くに教えてもらえばよかった……」


 それにノートンはにっこりと笑う。


「学校で魔法は悪用しちゃだめだと最初に習うものですよ殿下?」


 その笑顔はちょっと怖かった。









【魔法ルール】

 アニエスの世界で魔法を使う際には脳は大量の情報処理を行います。ものによっては同時通訳しているのと同じくらい脳を激しく酷使することも……。

(※使う魔法のレベルによってもちろんその処理はもっとずっと軽くなる場合、もっと重くなる場合があります)

 そのため、あえて魔法陣書いたり、補助する道具やアクセサリーを積極的に使うことも多いです。

 


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