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その後20(それはもはやプロポーズ)


「ううううううっ何あれええええええええ」



 アニエスは席を離れ広場の噴水の縁に腰を掛けていた。

 隣には心配そうにアニエスに付き添ったコーラがアニエスに濡らしたハンカチを差し出す。

 アニエスはそれを受け取るとハンカチを顔のほてった部分にあてた。

 その顔はだいぶ赤く、うっすら全体的に朱色に染まっている。



「殿下はいったい何を考えているの? 嘘でもあんなことを言われたら照れちゃうわ。こっちはそういうのに免疫がないんですよ。言っておきますがこっちは舞踏会でもお誘いゼロの超非モテなんですからね!」


 あの場でアニエスが席を離れたのは、どうやら赤くなった姿を隠すためだったらしい。そんなアニエスをなだめつつコーラは言う。


「いえいえ本心だと思いますよ。真心がこもっているからお嬢様の胸を打ったのではありませんか?」



 実際コーラはそう思ったのだ。あの時のセオドリックにチャラさは一切なかったし、むしろ言葉に真摯な力が込められていた。


 コーラも美人ゆえに今まで多数の男性から声を掛けられてきた。その経験上、ただのご機嫌うかがいや下心で言われた言葉にはそれなりの覚えがある。


 セオドリックは確かにアニエスに無視されたくないという思いが第一にあったとは思うが、だからといってあの言葉がその場しのぎの表面上だけのものではないことをコーラはちゃんと見抜いていた。


(逆にあの状況を利用して、普段言えない本心を告白されたという方が近い気がするのよね……?)


 というか、アニエス本人は意識してないから気付いていないだけで、普段あれくらいの甘い言葉の数々はアニエスの義弟のエースや侍従のアレクサンダーも山ほど言っている。

 そちらも真剣に言われているはずなのだが、親愛フィルターだとか家族フィルターだとか呪いだとかが何重にもかかって濾過(ろか)されてアニエスの脳にとどいた結果、ほぼほぼ挨拶や返事の一つと認識されている可能性が大だ。


「本心かどうかは置いておいて、あの場でこんな顔を見られたら無視が上手くできなくて、大変なことになるところだったわ?」


「……お嬢様。そもそも無視なんてしなれていないのですから、もう止めにしてしまってはどうですか?」


「ううんだめよ。あの場で甘い顔をすれば、これからもっともっと要求がエスカレートしかねないもの」


 アニエスは改めて無視する決意を固め、こぶしを握り締める。


「確かに男性は甘い顔をすれば、図に乗りますからね」

「そうでしょう!?」


 ふーんっとアニエスは鼻息を荒くした。


「とはいえ、もう十分反省していると思いますよ。お嬢様が行ってしまった後だいぶ肩を落とされているようでしたから」


「うっ、でも今更止めるタイミングなんてわからないよ」


「しなれていないことの代償ですね。とにかく……まあ、タイミングの良い男性ならチャンスはあちらからやってくると思います」


 そう言うと、コーラはアニエスにウィンクをした。コーラがそのまま後ろを振り向いたのでアニエスもその視線をたどる。するといったいいつからそこに立っていたのだろうか? そこにはセオドリックが立っていた。


「お嬢様、少し落ち着かれたようなので私は飲み物を買ってまいりますね」


「え、コーラいやだ待って! 一人にしないで!?」


「お嬢様は大人のレディーなのですから、男性の一人や二人もうあしらえますでしょう?」


「あの方は男性百人分くらいの戦闘能力は持っているから! 一人二人の計算に当てはめたら、こちらが間違いなく破滅するから!?」


「では、王太子殿下どうぞごゆっくり!」

「ああ、ありがとう」

「う、うらぎりものー!」


 そうしてコーラが行ってしまうと、コーラの居た場所に代わってセオドリックが座った。あまりの気まずさにアニエスはうつむく。

 セオドリックも気まずさがあったが、それでも話の口火を切ったのはセオドリックだった。


「アニエス改めて今日はすまなかった。私は確かに君の優しさに図に乗っていた」


 一体どこから話を聞いていたのか考えるだけで恐ろしいことになりそうだったため、アニエスは残りの精神力をフルに使い、無視を決め込むことにする。


 だが、セオドリックは無視されても諦めずにアニエスに自分の気持ちを話し続けた。


「私がアニエスに側にいてほしかったのは、君が隣にいるだけで勇気が湧いてくるからだ。みんなはそうは思っていないが、私だってこの立場にいると緊張したり不安なことが多々ある。けれどそんな緊張している姿を見せることは上に立つ者として決して許されない行為なんだ。それは弱い姿だから……。もしかすると真実はそうでないとしても私はずっとそう、習ってきた」


 セオドリックは静かに言葉をつづける。


「アニエスが隣にいると不思議と不安がなくなって、何でもできそうな気がしてくる。君の笑顔を見ていると他のことがどんなことも些細なことになって、むしろだんだん恐怖さえ面白いワクワクしたものに見えてくる。それはまるで魔法みたいに……」


 アニエスは気付けばセオドリックを見上げていた。


「私は魔法使いなのに、君の魔法に敵う魔法を知らない。だけどその魔法を解かずに私にずっとかけていてほしい」


「……」


「もちろんそれは私の我が儘なんだが」


「殿下、お願いですからあっちを向いてくださいませんか」


「お願いだ。もう無視しないでほしい!」


 セオドリックが懇願するようにアニエスの両手を掴んだ。アニエスはそれに顔を背けて必死に逃げようとする。だがそれは……。


「そうじゃなくて! ……耳まで赤いから見られると恥ずかしいのです……」


 アニエスが蚊が泣くような小声で言うと、セオドリックの両手が一度アニエスを解放した。だがすぐにそれはアニエスを両腕で抱きしめる形に変わる。


「ああ、もうふざけんな可愛すぎかよ!」


「で、殿下いや、どうして離して!」


「お前本当は全部わかってやっているだろう!?」


「何のことです!」


「もう勘弁してくれ……本当にもう心臓に悪すぎる」


「そ、それは、こちらのセリフなのですが!」


 セオドリックはなおもアニエスを抱きしめ続ける。するとアニエスの胸が早鐘を打つ音がセオドリックの中に響いてきた。それのなんと心地のいいことか……セオドリックはしばらくその響きに身をゆだねた。


「……アニエスもこんな風になるんだな」


 感動が思わず口から漏れた。


「何のことですか?」


「いや、心臓が無いのかな? って思うことがたまにあるから……」


「お化けじゃないですか……私はお化けじゃありません!」


「そうだな。こんな可愛いお化けは私が許さん」


「~~~やだやだやだ変なこと言うのもうダメ! 恥ずかしいからやめてください!」


「え? 絶対やだ」


 セオドリックは言ってから抱きしめたままアニエスの頭をなでた。さすがはこのあたりからは手慣れている。どさくさに紛れてアニエスのおでこや頬にキスまでしている始末だ。


「本当に怒りますよ!」


「うん……うん……」


「……もしかして寝てますか?」


 ところが突然雷に打たれたように、セオドリックはバッとアニエスから離れた。急に解放されてアニエスは助かったがいったいどうしたというのだろう。


「やばい、このままほっといたらノートンがオーバーヒートで死ぬ」


「それはどういうことですか?」


「魔法陣図もないまま魔法三つを急に使わせたから」


「え、鬼の所業かな?」


「アニエス話は後だ。とりあえずいったん戻ろう」


「……」


「やっぱり嫌か?」


「いいえ、もう無視できそうもないし責任もあるので私も戻ります」


 セオドリックはそれを聞いて嬉しそうに笑い、アニエスの手を取った。


「じゃあ一緒に戻ろう! 大丈夫ノートンの魔法が消えない限り私の姿は周りから認識されにくくなってる。だから悪目立ちはしない」


 そして二人は会場に急いで戻るとノートンはなんだか老けこみ虫の息になりながらも、笑顔で二人を迎えてくれたのだった。




魔法=恋。

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