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その後19(それはもう完全に口説き文句)

 雪まつりの開会式が始まり、市長挨拶、開会宣言と続きいよいよセオドリックがその壇上に上がる。

 お腹の出た中年の代表等とはまるで違い、背が高いトップモデルのように優れた容貌の若い王太子。


 皆やはり一目見たいと思うものなのか、この街に人がこんなにも隠れていたのかというほど多くの人々がその時間に合わせて集まっていた。


 セオドリックはそれに笑顔で応え、この街や周りの発展に王室は支援と協力惜しまないこと、また国民一人一人を誇りとしその貴重な意見に耳を傾けていきたい、だから何かあれば皆どうか声を上げてほしいということ、雪まつりへの期待、そして最後に軽いジョークを飛ばしスピーチを締めくくった。


 これに人々からは歓声の声と拍手喝采が起こりスピーチはとても受けていた。


 やはりセオドリックには人々を引き付ける天性の何かがあるらしい。単なるやじ馬たちが今やセオドリックの大ファンになっている。


 そして、セオドリックが一仕事終え席に戻るとラッパの合図とともに選手入場、いよいよ午前の競技が始まった。


「犬ぞりに、大魔獣試合、陣中雪合戦か……ずいぶん盛りだくさんだな」


 セオドリックが事前に貰っていたプログラムの資料を見ながら呟く。


「はい、予選、準決勝などはすでに通過していて決勝を本日まとめて行うようです」


 ノートンがそれにこたえ詳しい内容を話す。


「じゃあ我々は美味しいところだけ見れるわけか。ずいぶんお得だな」


「その他にも雪ずもうというのも行われるらしく、筋骨隆々の男たちが裸で取っ組み合いをするそうですよ」


 その話を耳にし、ピクりと反応する者があった。今まで空気に徹していたアニエスだ。


「コーラ、オペラグラスを」


「はい、お嬢様こちらに」


「おい」


「……」


「おい、アニエス」


「……」


 セオドリックに声を掛けられるも、絶賛王太子ガン無視キャンペーン中のアニエスはまるで反応を示さない。


「淑女たるものが裸の男たちにそんなに色めきだっていいものだろうか?」


「……コーラ、私は鍛え抜かれた筋肉に関心があるのであって、別にやましい所なんて一つも無いのにあらぬ拡大解釈をされることがあるの。その場合どうすればいいと思う? 自分の物差しで何でも測らないでほしいものだとはコーラも思わない?」


「ええとそうですね。まあ男女には誤解がつきものですから……」


 コーラが気まずそうにちらりとセオドリックを見る。


「君はそうやって言うが、本当に一片もやましいところがないと言えるのか?」


「……あとねコーラ、私は社交界デビューしたばかりで特に決まったお相手もいない、いわばフリーの身よ。それなのに過剰に世間に理想像を押し付けられるのをどう思う? 婚約者でも恋人でもないのになぜ相手の型にむりやり()めこまれなきゃならないのかしらね? 迷惑極まりないわ」


「……」


「これはまたキツいブローですね」


 思わずノートンが(うな)った。


「なあ、いい加減その無視を止めてくれないか?」


 そう言われてもアニエスは一向にセオドリックの方を見ずプログラムに目を落としたまま長いまつ毛で頬に影をつくる。それを目にしてセオドリックも戦法を変えることにした。


「……本当に君は黙っていればこちらが引くほどの美人だな」


「……」


「私も名だたる数あまたの美女を見てきたが、君のその透明感と清潔感。類まれな清らかな美しさはこれまで他に見たことがない」


「……」


「俗世間とは切り離された美しさだ。だけど私はそんなすました美しい顔よりも君のいつもの人懐っこい笑顔の方が百倍好きだ」


 完全に口説き文句である。


 アニエスの後ろで一緒に聞いていたコーラも思わず口元に両手を添えキャーっと小声で叫ぶ。

 だが、それを言われた当事者は顔色を変えることもなく相変わらずプログラムを読みふけっている。


「アニエ……」

「コーラ目に何か入ったみたいお花を摘みに行くわ」


 ついにアニエスはセオドリックのそばから離れて行ってしまった。


「……どうしたらいいと思うノートン」


 セオドリックがついに音を上げてノートンに助けを求める。

 さっきの壇上にいた堂々たる素晴らしき王太子と女性に振られて肩を落とすこの男が同一人物だとは、ノートンはいま目の前にしていても信じられなかった。

 もちろん両方セオドリックで合っているのだが。


「アニエス嬢のお気持ちもわかります。アニエス嬢は我々の前では非常に活発ですが、オンとオフのスイッチを切り替えているというか、いわゆる内弁慶というか、大勢の前ではおとなしく収まろうとするところがありますからね。それというのも今までの経験からの自己防衛本能なのでしょう。実際、嫉まれやすい材料が揃っていますから」


「嫉まれるということはそれだけ価値があるということだ。堂々とすれば世間は自然と膝をつくようになる。むしろ小さく縮こまっていることでよりつけ込まれて悪化するだけじゃないか」


「ええ、その通りだと思います。けれどそれは性格や気質で向き不向きがございます。それにまだ彼女は十六歳です」


「……そうだな、変に擦れているところがあるから忘れがちだが」


「ここは私が見ていますから、少し様子を見てきてはどうですか? 魔法でこちらに影武者を立てて殿下にはインビジブルと防御魔法もかけますので」


「ああ頼む、ありがとう助かるよノートン」


 ノートンに背中を押されセオドリックはアニエスを探して走るのであった




※インビジブルの魔法は姿が他人から見えにくく、認識されにくくなります。


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