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その後17(エース)

 これはセオドリックたちと北の街へ行啓訪問に行く数日前の出来事。


「エース勉強で忙しいのに大丈夫?」


 場所は王都のロナ家タウンハウス。

 地上十二階建てで王都の貴族街の建物の中で最も大きいものの一つになる。

 設備も最新式で空調が効いており領地の歴史を重んじたカントリーハウスとはまた違ったモダンな趣だ。


「別にエールロードからタウンハウスなら目と鼻の先だもん。久々にがっつり美味しいものでも食べたかったし」


 エールロードとは超名門パブリック・スクールのことでローゼナタリアで最も古い寄宿舎学校の一つであり基本女人禁制で入ることができるのは運動、勉強はもちろん素行、家柄、魔法の実力が高いレベルにある十二、三歳から十八歳の超エリート男子のみである。

 因みにセオドリックとノートンもエールロードを優秀な成績を収めて卒業している卒業生だ。


「エールロードの食事はとても質素なんだっけ?」


「そそ、まあ下級生とは違って上級生は何とでもやりようはあるけどね。でもめいっぱい目の前にごちそうを並べて、なんていうのは年数回の学校行事のお祝いか家に帰らないと難しいかな」


 エールロードに通う者は、特別な奨学生や留学生以外はみな非常に裕福で一生飢えを知らない。


 ゆえに貧しい食事は、貧しく苦しい生活を余儀なくされている人々と同じ境遇に立ちその気持ちを分かつため……それから必要以上の欲望に振り回されないよう精神を鍛えるために行っているエールロードの重要な教育カリキュラムのひとつだ。


 とはいえ、育ち盛りの健康的な男子にその量は全然足りてはおらず。

 生徒たちはあの手この手で食べ物を手に入れようと躍起になっていたりもする。


 その一つが週末に頻繁に実家に帰るというものだ。


 だがこれも、成績優秀でないと鬼のような量の宿題をこなすことができず叶わないし、もちろん素行が悪かったりしたら、そもそも外出許可が下りない。


 つまり頻繁に実家に出入りできるのは、どうしても優等生だけということになる。


「大学に飛び級するための勉強は大変なんでしょう? 論文も書かないとだし、学校の宿題もだからといって減らしてはくれないって聞いたわ。それなのに私のお願いを聞いていて大丈夫なの?」


 それにエースはふふーんとわざとらしくドヤ顔をしてみせた。


「史上最年少で監督生(プリフェクト)になったエースさんをなめないでほしいな。勉強ならだいぶ要領は得ているし、論文も教授のお墨付きでとっくに提出済み。宿題は休み時間にほとんど終えてるし、アニエスの例のお願い事は僕の趣味兼いき抜きだよ」


「では、そのエースが作ってくれた例のものはテストも済んでいるの?」


「ああ、皆が安全性、安全性うるさくて腹が立ったから五十六項目のチェックリストを作って、安全テストも時空間で無限オートで試験を繰り返して合格したものだけを持ってきたよ」


「ええ! エースってばすごい! 流石やれば何でもできる子!?」


「まあ、確かに今までは人を選んだものしか作ってなかった自覚はあったしね。……腹は立ったけど正論だと思うよ」


「じゃあエース、私のこのブーツも他の人が使えるように改良するの?」


「それは他人には作る気がないもん。その方が安全性は度外視(どがいし)だけど威力は半端ないしアニエスの運動神経なら問題ない。これが普通の人だと反射速度が遅れて上半身と下半身が逆方向に三百六十度回転しかねないけれど」


「それねじ切れているよね?」


「だからそれは一点物の芸術品なんだよ。アニエスの世界唯一無二の綺麗な脚だけがそれに見合うんだよ」


「一点物といいつつすでに十足くらいはありますよ先生?」


「シリーズ化しているけど一点一点デザインも性能のベクトルも違うよ。それにアニエス以外は足首も入らない人が大半だし」


「義姉への特別製音速ブーツをそこまで心血注いで制作することにお姉ちゃんは、若干、君が心配になるよ……」


「しょうがないよ。俺、超シスコンだもん」


 タンザナイトのような深い藍色の瞳と烏の濡れたような黒髪の超美少年エースは、爆弾級の発言を爽やかにさらりとしつつ、持ってきたトランクの中身の説明をアニエスにひとつひとつおこなっていく。

 アニエスはそれをふんふんと聞いて頷き、受け取りのサインをした。


「わっっ重!!」

「銃火器爆薬は金属の塊だから」


「注文した私が言うのもなんだけど、これを私個人が運ぶことによく国の許可が下りたなあ」


「何なら控えもあるよノートン先輩から貰った複写式の許可証明書の」


「うーん私が言うのもなんだけどノートン様の許認可する判断基準がわからない……」


「あと、アニエスこれも着けていって」


「え、指輪? うちの紋章が入ってるみたいだけど」


「お守り。特に夜は着けておいてね。絶対に」


「これミスリルの純度どれくらい? こんな高純度のミスリル魔力のない私くらいしか身に着けられないよ」


 ミスリルには魔力を断つ力があり、魔力が持つ者が直に触れると熱くて痛くて火傷のようになってしまうのだ。


「お、これは薬指サイズだね。心の安定を願って右手に着けようかな」


「右手もいいけど左手でも別に悪くないんじゃないの?」


「うーん、でも右手の方がより目に入ってよりお守りって感じがするから右手に着けることにするよ。ありがとうエース」


「どういたしまして!」


 エースがニコッと笑うと急にあどけなく非常に可愛い顔になる。そしてそんな笑顔にたくさんのお姉さま方が心臓を撃ち抜かれてきた。現に……。


「うはっ! 何たる魅惑の義弟スマイル!」


 ぐふっ、といいつつアニエスの後ろに控えていたコーラの心臓を撃ち抜かれる。


「コーラ大丈夫!? しっかりして!」


「はあ、義理の姉弟のイチャいちゃが見れた上に締めにこんなご褒美のような甘えんぼ天使スマイルまで。ふふ、わが人生に一点の悔いなしですお嬢様!」


「うん、コーラはもうちょっと人生設計を一度丁寧に見直してみた方がいいみたいね……」


「そんなことよりも早くご飯食べない? お腹すいたよ。ああそうだ、僕、食後にアイスとダブルベリーのチーズケーキが食べたいんだよね。僕のわがままコーラ聞いてくれる?」


「はい、喜んで!」


 そんなコーラの扱いもエースはお手の物だ。

 さすがは未来を担う次期ロナ公爵様というべきだろうか?


 そしてそんなエースがくれた今回のお守り……。

 そのお守りが後にとんでもない働きをすることになるなんてこの時は誰も思いもしなかったのだった。




~登場人物紹介~


エース……アニエスの血の繋がらない義理の弟。弟だが同い年である。アニエスと同じく竜持ちの『ドラゴニスト』でローゼナタリアの人質という扱い。

 エールロード寄宿舎学校の上層部と軍からの監視を受けている。火系の魔法を最も得意とするが基本オールマイティ。タンザナイトのような深い藍色の瞳とサラサラ艶々の黒髪の超美少年で、母性をくすぐる弟タイプ。アーティファクトを改良模造したり、魔導関連装置を作るのが趣味だが高い才能をほこる。超ファザコンである。

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