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その後11(お風呂と吐露)(※挿絵あり)


「今日は蜂蜜ビール三リットルと粗塩をお風呂に入れてみました! ビール酵母が美肌に、粗塩がピーリングと血行促進、リラックス効果とデトックス効果も抜群です!」


 「頭皮と髪はカメリアオイル(※椿油のこと)でマッサージしていきますね!」


 アニエスの専属ヤングレディーズメイド……侍女であるコーラは今回もちろんアニエスに同行したが、その他二名のメイドが今回アニエス専属として付いてきた。

 名前はメイとハナ。コーラの直属の部下でもある。


 そしてアニエスはそんな三人組に今はお風呂に入れてもらっているところだ。


「はあ、お嬢様の肌はムダ毛も毛穴もありませんね。真っ白できめが細かくて、水をはじいてみんなコロコロ転がっていきます」


「筋肉って何となくごつくて怖いイメージでしたが、お嬢様の背中は鍛えられているけれど女性らしくしなやかで、まるで生きた芸術品です!」


 それにアニエスはにっこりと笑った。


「ハナありがとう。これからも鍛錬に励んで『鬼瓦』ができるように頑張るね」


「お嬢様。それは似合うドレスが限られるのでお控えください」


「えー、かっこいいのに……師匠は『鬼瓦』ができるのよ。あんなふうになりたいなー」


「ジオルグ様のことですか? ジオルグ様はドレスを着ないから構わないんですよ」


「ふふ、逆にそれはそれで見てみたい気もするけど?」


 アニエスは機嫌よさそうに足を湯船の中でパシャパシャとバタ足して見せる。

 そんなアニエスの腕や背中をぬか袋で磨きながらハナとメイはおしゃべりを再開した。

 普通使用人がこんなにおしゃべりだと怒られるが、アニエスはそんな雑談を効くのが嫌ではないので仕事をきちんとしていれば大目に見ている。



「かっこいいと言えば、わたし、生セオドリック王太子殿下初めて見ました! すごかったあ! かっこいいいいいいいいいい!」


「ねー! なんかもおオーラ? が違うんですよお! ぱあああって! 人間なのに光放ってた!」



 それに、セオドリックをすっかり見慣れたアニエスは首を傾げた。



「そうなの? 見慣れちゃってるからかオーラとかよくわからないな……」



 それにコーラは首を横に振る。



「お嬢様は見慣れている基準が違って参考になりませんもの! エース様やアレクサンダー様と育って美的水準が上がりまくってますから」


 それにハナやメイもうんうん頷いて賛同する。


「お二人に対して私いまだにまともに顔が見れていません! まさに神!」


「でも声も美声だから結局めっちゃ緊張するんですけどお!」


「わかる、わかるー!」



 テンション高めな三人に比べ、アニエスはずぶずぶと湯船に沈みながら何ごとかを考え、ぼーっと天井を見上げていまいちその話にはのってはこない。


「確かに改めてみんな自立しているし、すごい美形だし、何でも出来て素敵だわ。でも、私は師匠の方が個人的には……かっこいいと思うけどなぁ」


 そうポツリと消え入りそうな声でつぶやいた。アニエス的には小さな独り言のつもりだったのだ。

 だが、そこは浴室。音響効果は想像以上だった。

 アニエスの言葉にシーンと一気に静かになる浴室にアニエスはハッとなった。


「あ、そ、尊敬しているってことね!」


 慌てて、みんなが思っているであろう言葉の意味を否定する。


「お嬢様いくらなんでもそれは……」


「ち、ちがうの! だって不公平じゃない! 完璧な人ばかりかっこいいと言われる世の中だなんて!? ほら、……欠点は親しみやすさや可愛らしさでもあるし!?」


 ふむっ、と三人は互いに目配せをする。そして、朗々と歌うように語りだした。

 

「艶とハリに恵まれた大きくて形の良いお胸、そして理想的な桜色の先端に控えめな乳輪~」


「乳輪のことはおよしなさい」

 

 思わずツッコむコーラ。


「薄くて細いウエストに縦長のおへそ。きゅっと引き締まった小さなお尻に、びっくりするくらいすらりと長い美脚ー!」


「腰まで理想的な形。それだけでなく、顔はもちろん、髪や爪までまるでお伽話のお姫様~」


「……何これ?」


 アニエスは急にミュージカルめいたことを始めた三人が怖くなった。



「お嬢様、このように世界は絶対的不公平の大ピラミッドです! ……でも、同情でかっこいいなんて言うのはナンセンスでございますよ?」



 そう言われアニエスはカチンとくる。



「別に同情で言ったりなんかしないわ。広い背中、大きな手、人に後ろ指をさされても真実を追い求める姿勢。裏切られても恨み言も言わなくてお人よしすぎるところ。褒められようとしないところ。見返りを求めないところ。クシャッとした笑顔で不可能を可能にするところそれから……」


 そこまで言ってアニエスはぴたりと止めた。

 そのまま何事もなかったかのように口笛なんかを吹いたりする。


「はーびばのんの……」


「お嬢様、無理やりなかったことにするのは無理ですよ?」


「すっごい情熱的ですっ!」


「びっくりしましたっ!」


 アニエスは真っ赤になり湯船に突っ伏した。


「ううっ、これは違うのお……」


 そのまま頭まで湯船に溶けてこのまま消えてしまいたいとアニエスは願うのだった。

挿絵(By みてみん)

 やはりセオドリックの勘は当たる。





~人物紹介~ 


コーラ……アニエスのヤングレディーズメイド(侍女)。ハシバミ色の瞳が印象的な美人。美容や洋服などに非常に詳しく敏腕。アニエスの着せ替えが人生の生きがい。アニエスからの信頼が厚い。


メイ……アニエスの専属メイドの一人。眼鏡に三つ編み元気な子。アニエスより実は年上の18歳。


ハナ……アニエスの専属メイド一人。オレンジおかっぱのそばかすがチャームポイントのミーハー。アニエスより実は年上18歳。

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