大嫌いな婚約者を屠ろうとしたらなぜか慕われています
何がどうなってこうなったのでしょう?
いえ、理解はしているんですが、理解したくない、といいますか……。
まぁ、結局、理解したくないんですけどね。
私には大嫌いな婚約者がいます。
幼い頃に両親たちが意気投合して勝手に婚約させられていました。
彼はこの国の王太子。
見た目だけは、天下一品。
サラサラ金髪に透き通るほどに空色の瞳。
高身長で、どれだけ足が長いのよと悪態吐きたくなるほど。
生まれながらに高い地位でチヤホヤされっぱなしだったせいか、非常に傲慢で、愚かな行動ばかりしています。
その尻拭いはいつも国王陛下が付けている側近たちか、いつも側にいさせられている私。
「あそこでキャスリンがフォローに入らないでどうする」
「フォローのしようがございませんでした」
「ちっ、役立たずめが」
左頬を真っ赤に染めたコンラッド王太子殿下が悪態を吐いています。
ふくよかな伯爵夫人に『伯爵が主寝室を分けたのも理解できる。確かに、いびきがうるさそうだ』とか面と向かって言うものだから、一瞬にして右平手打ちが御見舞されるのです。
完全なるご自身の失言のせいです。
それなのに、私が役立たず!?
毎度毎度、こんな馬鹿みたいなやり取りに、本当に疲れてしまいました。
なので、屠ってやろうと思います。
あ、いえ、別に命を……とかではなく、社会的にです。
この国には暗黙の了解として、『不敬罪(注:王太子はほぼ対象外)』というものがあります。
平手打ちしてもいいし、社会的に屠ってもいいのです。……曲解ですが。
二人で出ざるを得ない夜会。
大体において、こういうときに殿下はやらかしてくれます。
つまりは、チャンスですね。
「お、普段着のセンスが悪いと噂の侯爵がいるな。挨拶してくるか」
「……」
――――ほらね?
「やあ侯爵!」
「こ、これはこれは、殿下」
殿下が近付いていくと、大体の人が引き攣った笑顔になります。そうなると、殿下の笑みは深まり、饒舌になる。
「風のうわさで聞いたんだが――――」
侍女たちの噂話に交じって情報収集してましたものね?
「――――侯爵の私服は相当酷いらしいな?」
「なっ!?」
きた!
「おほほほ。ですが、殿下の下着も物凄い柄だと聞きましたわよ? ネコチャンの大きな刺繍がされているパンツだとか、全面に小さなハートマークの刺繍をしてあるパンツだとか、ショッキングピンク色の肌着だとか。その見た目とは、似ても似つかない、可愛らしいものを着られているそうですね? 人のことを言えまして?」
「「ブフッ」」
殿下の行動に気を張っていた侯爵や周りの人たちが吹き出しました。
これで、明日にはこの噂が広まっているでしょう。
「っ!? 見たのか?」
「未婚の淑女が見るわけないでしょう? もう少し脳みそをお使いください?」
「っ!」
殿下の顔が真っ赤になり、プルプルと悔しさで震えています。
今まで集めまくった情報や、いつか言ってやりたいと心に仕舞っていたセリフをどんどんと投げつけましょう。
「幼い頃から思っていましたが、殿下は、脊髄反射でしか物を考えられないのですか? 発情期の犬を見て大声で卑猥な言葉を叫んだり……」
「「ブフッ!」」
「陛下の執務室にあった重要書類で紙飛行機を作ったり」
「「すごっ……」」
――――よしよし。
「私、殿下のこと、大っ嫌いなんですよね。中身が驚くほどにカスなので。その見た目ではカバー出来ないほどにカスですもの。陛下とお約束しましたので我慢して結婚はいたしますが」
「「ウワァァァ……」」
会場中がどよめいています。殿下に向けられているのは、憐憫の眼差し半分、嘲笑半分といったところでしょうか。
まぁ、私にも向けられていますが。毒を食らわば皿まで、ということで我慢します。
顔を真っ赤にして打ち震えている殿下に手首をガシッと掴まれました。
「なんですの?」
「ちょっと…………あっちで話がある」
グイグイと引っ張られて連れ込まれたのは、夜会で必ず用意されている休憩部屋。
気分が悪くなった方がメインですが、まぁ……逢びきを楽しまれる方もいらっしゃいます。
「キャス、リン……」
早足で部屋に来たせいなのか、殿下が中腰で両膝に手をついて、ハァハァと荒い息を吐かれています。
「なんですの?」
「もっと」
「はい?」
「もっと、罵って」
「……………………は?」
――――はいぃぃぃぃ?
◇◇◇◇◇◇
あの日から、殿下はドMに目覚められました。
何かと酷い悪態を吐いていたのは、何をやっても話しても皆笑顔で褒め称えてくるから。
唯一私だけは嫌そうな顔をするから、陛下にお願いして婚約者のままにしてもらっていた。
実は、婚約を交わしたものの、流石に本人たちの意志で解消は出来るようにしていたらしいのですが、殿下は絶対に解消したくないと言い続けていたそうです。
軽くイラッとしました。
「はうっ……イライラしているキャスリン凄い。イイ」
何が、『はうっ』ですか。キモい。
「っ! くっ!」
「なぜ前傾姿勢なんですか。本気でキモいですわよ」
「ご、ごめんなさい。許さないで」
「ウワァァァ……」
ドン引き案件です。
何を言っても、殿下はますます興奮し、婚約破棄は絶対にしないとか駄々をこねます。
「キャスリンがずっと叱ってくれるなら、真面目な国王になるから!」
「っ………………」
何がどうなってこうなったのでしょう?
いえ、理解はしているんですが、理解したくない、といいますか……。
まぁ、結局、理解したくないんですけどね。
ただ、どう足掻いても、このキモイタい王太子からは逃げられないようです。
―― fin ――
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今年は鰻食べそこねたなぁ。(どうでもいい情報)
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ではまた、何かの作品で。