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第5話 いくつ偶然を積み重ねれば、偶然は運命に成り得るのか?


「よし、入るぞ」


「う、うん……」


 緊張気味な桜と手を繋ぎ、まずは俺から迷宮ゲートに侵入する。


 真っ白な空間に手を伸ばして行くと空間に波紋ができ、波紋を拡げながらも手を迷宮内へヌルリと侵入させて行く。


 何だろ?


 感覚的に濡れない水の中に手を入れている感じだ。


 大丈夫そうか?


 俺は意を決して目を瞑りながら迷宮内に侵入し、ヌルリと水圧らしき柔らかな圧力が顔を通り過ぎた後、恐る恐る目を開けて行く。


 圧巻。


 目の前に広がるのは、圧巻の光景。


 銀色の幾何学模様が描かれている巨大な壁や地面が仄かに脈動しながらもブルーグリーンに光る薄暗い1km四方の大きな空間の真ん中に、宙に浮かびながら力強くも淡くマゼンタに光る高さ数百メートルもある巨大なクリスタル。


 美しい。


 余りにも美しい光景だ。


 テレビやネットで何度も見た景色だが、実際に自分の目で見る景色は圧巻の一言だ。


『クイクイ……クイクイ……』


 あ、やべ。


 桜のこと忘れてた。


 ピタリと止まりながら茫然自失に迷宮を眺めていた俺の動きに不安を感じたのか、桜が『クイクイ』と繋いでいた手を優しく引っ張っている。


 この美しい景色を桜にも見せたくて、優しくゆっくりと桜の手を引いて迷宮内にエスコートしてあげる。


「んっ……わぁ!綺麗!お兄ぃ!凄く綺麗!」


 この美しい光景を見て、大はしゃぎする桜。


 まだまだお子ちゃまだな。


「あぁ、綺麗だな」


 逆に俺は美しい光景をゆっくりと噛み締める様にこの優雅な時間を味わう。


 ふっ、これが大人の余裕さ、たぶん。


「お兄ぃ!スキル!スキルを貰いに行くよ!」


 俺の優雅な時間を邪魔するかのように、グイグイと繋いだ手を引っ張っる桜。


「わかったわかった。わかったから少し落ち着け。薄暗いから足下が危ねーぞ?」


「ほら!ほら!行くよ、お兄ぃ!」


 聞いちゃいねぇ。


 ルンルン気分の桜と手を繋ぎながら、トコトコと巨大クリスタルへと向かうが……。


 デケェ。パネェ。


 近付けば近付くほど、巨大クリスタルのヤバさが伝わる。


 もはや壁じゃねーか。


 確か東京タワーよりも高いんだよな。


 桜もトコトコと歩きながら、ホゲーっと馬鹿っぽくあんぐりと口を開けて巨大クリスタルを見ている。


 たぶん俺も桜と同じくホゲーな顔をしているかも知れない。



 二人して馬鹿面下げながら巨大クリスタルまで辿り着くと、緊張しているのか桜が『スーハー、スーハー』と深呼吸を始めた。


「……深呼吸しているから分かっていると思うが……桜、期待するなよ?」


「うん……お兄ぃ、分かってる……大半の人はコモンスキルを貰うって」


「その通りだ。本当に運が良くてアンコモンスキルを貰える」


「うん……『自分を特別だと思うな』とネットでも書いてたよ」


 ある意味、スキルを貰うことは残酷だ。


 大半の人はコモンスキルを与えられ『貴方は物語の主人公なんかじゃありません。主人公を支える脇役Bです』と突き付けられるからだ。


 一部の、本当に一部の人間だけが高レアスキルを貰い、物語の主人公に選ばれる。


 スキルを貰うことは主人公と脇役Bを篩にかける残酷な『選別』なんだ。


「……どっちからスキルを貰う?俺から貰おうか?」


「ううん。一緒が良い……。いつもお兄ぃと一緒……。スキルもお兄ぃと一緒に貰いたい」


「分かった。それじゃ『せーの』で触るぞ?桜、心の準備は良いか?」


「うん……」


「了解。んじゃ、せーの」


 ピタッと俺と桜は一緒に巨大クリスタルに触れた──その瞬間。


『未知の魔力紋を検出しました』


 噂通り、頭の中に機械音声が流れる。


『スキルとサポートプログラムをインストールしますか?』


『あぁ、インストールする』


『未知の魔力紋の意思を確認しました。スキルとサポートプログラムをインストールします』


 くっ……。


 噂通り、ちょっとした頭痛がする。


『スキルとサポートプログラムをインストールしました。これよりスキルのサポートプログラムに従ってください』


 さて、俺のスキルは……。


『契約スキルのサポートプログラムです。ホルダーの意思とリンクしますので、少しお待ちください』


 契約スキルか……。


 やはり与えられたスキルは、コモンスキルだったか……。


 ま、こんなもんだよな。


 いや、まぁ、アンコモンやレアぐらいなら、俺でもワンチャンあるかも?とは思ってたけどな。


『自分を特別だと思うな』か……。


 ホント、その通りだわ。


 所詮、俺なんて主人公を支えるそこらの脇役Bですわ。


 ははは……グスン。


『久保優助様の意思とリンクしました。ご要望があればお伝えください』


『サポートプログラム、まずサポートプログラムを略してSPと呼ぶ』


 テレビやネットで見た、まずやるべきこと第一位が、サポートプログラムの名前の変更。


 いちいちサポートプログラムって呼ぶの、面倒くせーしなげーよ。


『かしこまりました。サポートプログラム=SPと登録します』


 おぉー。


 噂通り、頭良さそうな人工知能だ。


『SP、スキルのステータスを表示してくれ』


『かしこまりました』



※※※※※※※※※※

固有ステータス

契約スキル


保有人数 673万8231人

保有上限数 ∞人


ホルダー名 久保 優助

MP 0ポイント


契約 0個

カテゴリー 無登録



共有ステータス

軍団 無登録

師団 無登録

旅団 無登録

大隊 無登録

中隊 無登録

小隊 無登録

分隊 無登録


友人 無登録

※※※※※※※※※※



 うおっ!スゲー!


 噂通り『ぶんっ』と目の前に俺だけしか見えない仮想ディスプレイが表示され、契約スキルのステータスが表示される。


 どれどれ……。


 うん、仮想ディスプレイは凄いけど、テレビやネットの情報通りだな。


 何一つ目新しいことは無い。


 コモンスキルを与えられたことは……正直に言えば心底ガッカリしたよ。


 ま、それでもコモンスキルの中では契約スキルは『当たり』の部類に入る。


 モンスターを撃破して得れるMPだけでスキルが使用できるし、何より現実世界のビジネスでは契約スキルはツヨツヨですわ。


 俺の相棒は契約スキル。


 契約スキルと共に弱肉強食のビジネスの世界で生きて行く。


 コモンスキルだけどな!


 っと、そういや桜は何のスキルを与えられたんだろうな?


 ふと隣の桜を見ると──愕然とした表情をしている。


 おいおい、大丈夫なのか?


 コモンスキルを与えられて、心底ショックを受けてるのか?


 まさか自分を特別だと思ってた感じ?


 桜、厨二病っぽいしな……。


 いや、俺も人のことは言えないが……。


『SP、ステータスを消してくれ』


『かしこまりました』


 しゅん、と仮想ディスプレイが消える。


「桜?おい、桜?大丈夫なのか?」


 愕然としている表情の桜を優しく肩を揺さぶり、意識を戻させる。


「え?あ、うん……」


 こりゃ、ダメだ。


「あー、まぁ、なんだ。人生なんてこんなものだ。コモンスキルを与えられたからと言って、ショックを受ける必要なんか全く無いぞ?」


 ショックを受けた俺が偉そうに言うのもアレだけどな!


「え?う、うん……。えっと……お兄ぃは何のスキルを貰ったの?」


「俺?俺ももちろんコモンスキルだぞ?コモンスキルの契約スキルを貰った」


「え?お兄ぃ、コモンスキルなの?」


 ん?


 何、その『え?意外』みたいな顔。


「そりゃそうだろ。大半の人はコモンスキルなんだから。だから桜もショックを受ける必要なんか無いぞ?」


「えっと……その……」


 ん?


 なんだ?


 嫌な予感がする……。


「桜、お前何のスキルを貰ったんだ?」


「え?いや、あの、その……」


 俺から目線を外し、キョロキョロと辺りを見て挙動不審になる桜。


 お前、その動き……。


 ………………。


 …………。


 ……。


「桜、友人登録するぞ?手を出せ」


「え?あっ」


 無理くり桜と手を繋ぐ。


『SP、対象のホルダーに友人登録を申請しろ』


『かしこまりました……申請は却下されました』


 おい!


「桜、友人登録の申請を承認しろ」


「でも……」


 涙目になる桜。


 お前、涙目になるほど、いったい何のスキルを貰ったんだ?


「俺たちは一緒だ。生きる時も、死ぬ時もだ。桜、そうだろ?」


「……うん」


「だから俺たちの間に隠し事は無しだ。いいな?」


「うん……」


『SP、再度対象のホルダーに友人登録を申請しろ』


『かしこまりました……申請が承認されました』


『SP、対象のホルダーにステータス開示を申請しろ』


『かしこまりました……申請が承認されましたので、対象のホルダーのステータスを表示します』



※※※※※※※※※※

固有ステータス

箱庭スキル


保有人数 1人

保有上限数 1人


ホルダー名 久保 桜

MP 0ポイント

LP 0ポイント


ゲート 0個

カテゴリー 無登録


空間 0個

カテゴリー 無登録



共有ステータス

軍団 無登録

師団 無登録

旅団 無登録

大隊 無登録

中隊 無登録

小隊 無登録

分隊 無登録


友人 久保 優助

※※※※※※※※※※



 ははは。


 まさかのユニークスキルかよ。


 俺の可愛い妹が、物語の主人公だったとは……。


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