第1話 3rd Evolution
※リハビリがてら新連載を開始。宜しくお願いします。
※1日3話前後アップして行こうかと思いますので、ぜひブクマ等をお願いします。
『ウィーン、ウィンウィンウィン。ウィーン、ウィンウィンウィン』
20XX年12月12日、何の前触れも無く突如、全世界に耳を覆いたくなる程の大音量の効果音が数分間も流れた。
ある者は音源を探す為か耳を塞ぎながらキョロキョロと辺りを見回し、またある者は謎の大音量に驚き深い眠りから目覚める。
『全人類に宣告する。我は意思。生まず、生まれず。並ぶもの、何一つなし。我は世界を讃える存在なり』
全世界を覆う謎の超常現象にマスメディアは勿論のことSNSや匿名掲示板は大騒ぎとなり、様々な憶測や戯れ言が世界中を駆け巡る。
『知的生命体である人類は人口100億人を達成した。栄えある偉業を成し遂げたことを讃え、新たなる祝福を地球に与える』
資源の枯渇と貧富の格差を招く我々人類の根深い絶望に対し、超常現象は我々人類の根深い絶望を喜び讃える。
未曾有の人口爆発に悩み苦しむ我々人類を余所に嬉々として嘲笑う──そんな声の主はきっと悪魔か悪霊の類いではないのかと誰かがふと思った。
『地球に与える祝福は迷宮の輪廻である。およそ1時間に1度、地球の何処かで不規則に迷宮が1つ陸上に顕現し、顕現した迷宮は最下層を攻略するか360日後には消滅する。そしてまた地球の何処かで迷宮が1つ顕現する』
迷宮が顕現する?
大多数の人類が超常現象の意味不明な話に困惑した。
『迷宮には無限の資源も在れば、狂暴なモンスターも在る。永遠に生まれては消える迷宮の輪廻を地球が喪失することはない』
無限の資源と狂暴なモンスターと聞き、多くの人類は超常現象の話に戸惑い怯え、少数の人類は意味すら理解せずに歓喜する。
『知的生命体である人類は偉業である人口100億人を達成した。その功績に報い最初の24時間だけは規則的に迷宮を顕現させる。ある地点を基準に人口密集地帯に迷宮を顕現させ、以降はおよそ1時間毎に経度40度の範囲を西へとスライドさせながら人口密集地帯に迷宮を顕現させる』
狂暴なモンスターがいる迷宮が人口密集地帯に現れる──そんな超常現象の話の内容に、限りある資源と貧富の格差を貪り喰らう富裕層がゴクリと唾を飲み込んだ。
『人類よ、正しき道を歩め。宣告は以上だ。これより迷宮の輪廻を始動する』
超常現象による宣告が終わった直後、オーストラリアのシドニーに極めて局地的な微震が発生し、人が行き交う街中に迷宮の入り口が現れた。
SNSを通じてシドニーの街中に現れた迷宮の入り口の情報は瞬時に世界中を駆け巡り──好奇心と承認欲求を煽られたのか──少数の短慮で蛮勇な者たちが制止する者たちを振り切り、シドニーの未知なる迷宮へと潜り込む。
賢しらで臆病な者たちは彼らの愚考と蛮行をせせら嗤っていたが、迷宮発生から数十分後には彼らはスキルなる未知の能力を獲得し、人類初のスキルホルダーとしてシドニーの迷宮から帰還した。
スキルの発見と獲得。
その情報は世界を震撼させた。
短慮で蛮勇な者たちは探究心と勇気に溢れる未知への挑戦者として人類の英雄へと祭り上げられ、賢しらで臆病な者たちは過去の言動を恥じることもなく言い訳を積み重ね体裁を繕う。
そして英雄と愚者とは異なる賢人たちは、人類がスキルを発見し獲得したことの意味を考える。
我々人類は、これ程までの偉大な文明──現在ならば高速ネットワークと人工知能社会──を築き上げ、大いに進歩してきた。
その大いな進歩を支えたのが700万年前の二足歩行の大進化と、数十万年前の咽頭の大進化である。
二足歩行と咽頭の二大進化は、我々人類の手と声の発達を促した。
手と声の発達は、我々人類に道具と言葉の恩恵をもたらした。
そして道具と言葉の恩恵は、合理性と概念へと昇華し、これ程までの偉大なる現代文明を築き上げた。
文明とは、結局は合理性と概念でしかない。
我々人類が人類たる所以は、結局は合理性と概念でしかない。
我々人類は、二足歩行と咽頭の二大進化の導きにより手と声を発達させ、道具と言葉を獲得し、合理性と概念を一つ一つ織り成しながら着実に文明を進歩させて来たのだ。
それが我々人類の真の姿だ。
では、そんな姿の我々人類にとって、スキルの発見と獲得は何を意味するのか?
人類の進歩を意味するのか?
手と声を意味するのか?
道具と言葉を意味するのか?
合理性と概念を意味するのか?
賢人たちは人類の結論を出す。
『3rd Evolution』
スキルの発見と獲得は人類の進歩ではなく、我々人類にとって二足歩行と咽頭の二大進化に匹敵する程の人類史上三度目の大進化だと。
我々人類は、三度目の大進化により手と声だけではなく、魔力の発達を促すのだと。
我々人類は、三度目の大進化により道具と言葉だけではなく、魔法を新たに獲得したのだと。
我々人類は、三度目の大進化により合理性と概念だけではなく、奇跡をも織り成す未知なる文明へと飛躍したのだと。
賢人たちはその様に人類の結論を出した。
しかしながら、後年の人類は知ることになる。
迷宮の輪廻は、人類への祝福でもなければ希望でもないと。
迷宮の輪廻は、地球への祝福であり希望だったと。
迷宮の輪廻は、人類への厄災であり絶望だったと。
我々人類こそが、地球への厄災であり絶望だったと。
スキルという未知なる能力こそが、人類への祝福であり希望だったと。
そして3rd Evolution原初の日20XX年12月12日、ニューヨークに発生した迷宮から帰還した1人のアメリカ人女性が、人類の未来に絶望し自殺していたことを知る。
後年の人類史は記述する。
20XX年12月12日を境に、人類は数十万年もの永きに渡る2nd Evolution下にあるモダン・エイジの機械文明から、新たなる3rd Evolution下にあるスキル・エイジの魔法文明へと移行したと。
我々人類の新たなる進化と進歩の歴史は、迷宮の輪廻を祝福された地球と3rd Evolutionを祝福された人類との生存を賭けた絶滅戦争から始まったと。
我々人類こそが、地球への厄災であると。
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