第四章
第四章
それから五日の後。アルシアから運び出された碧の結晶、シグナスはクエイダルを先頭に凱旋する兵団と共にリンゲルへと到着した。
大聖堂の前を通り王宮へと向かう道は、彼等を祝賀する市民で溢れかえっていた。その声援の大方は、クエイダルが率いる銀色の兵団へと向けられている。彼のパートナーである大柄なシルバー・カーリッジのジョーカーとその背に乗ったクエイダルを先頭に、兵士達は相棒の竜と共に銀色の波を作りだしていた。
灰褐色の石畳で覆われた道の上を、ゆっくりと歩きながら列を成して歩くシルバー・カーリッジ達。その合間からメタリックグレーの鱗を光らせるダークネスと、その背に跨るシーナの姿が大きく現れた瞬間、観衆の合間からは一際大きな歓声が沸き起こった。
彼等は四百年の時を越え、再び歴史に名を残した希代の英雄としてシーナを迎えた。それは現代におけるポーラの英雄、クエイダルを上回らんばかりの熱狂ぶりである。しかし当のシーナ自身は、その手厚い歓迎に全く興味を示そうとはしなかった。
その声援が『シーナ・モーガン』に対してではなく、『カーリス・エルド・フォニー』へと贈られた物だと言う事は、シーナ自身も分かり切っていたからである。
彼等と共にリンゲルへと運び込まれたシグナスは、すぐさまバールの父でありブルー・ソリッド論の父、ドリトル・サガシアスの研究室へと持ち込まれた。これに真っ向から食ってかかったのが、シグナスをビータの山腹に眠らせるべきと主張し続けていたシーナである。
彼女はシグナスを一刻も早く封じるべきだと強く訴えた。彼女はジョルジュがブルー・ソリッドに関するすべての書物を破棄させたのと同様に、ブルー・ソリッドの根絶を願っていたからである。だが研究室側は、
「シグナスの詳細が解明されるまで研究を行う」
として彼女の言葉を拒んだ。
シーナにとってブルー・ソリッドとは、災厄を招き入れる物でしかあり得なかった。彼女の二度にわたる人生は、ブルー・ソリッドによって掻き乱された物だったからである。しかし、ポーラの学者にとってそれは未知なるエネルギーの結晶。未知の物に多大なる魅力を感じる学者達が、そう簡単にシグナスを手放すはずはなかった。
そして、シーナ達が戦地から舞い戻って一週間後。一人黙々と薬草を煎じるバールの元に、一通の招待状が届いた。
差出人の名はドリトル・サガシアス。簡潔かつ短い文面で書かれたそれは、近く開かれる臨時学会への招待だった。
「ここ十数年に於いて、我々の文化はブルー・ソリッドによって著しい変容を遂げました」
大聖堂の一際奥まったスペースに存在する、まだ真新しいホール。その真正面にある、くすんだ木目の床が張り巡らされた壇上で、一人の男が力強く熱弁を振るっていた。
外に巻いた栗色の髪を無造作に流した四十代半ばの男性。青が下地の布に、白い格子模様が入った衣に身を包む彼の名はドリトル。リンゲルにおけるブルー・ソリッドの第一人者である。
彼の演説を聞く人々はおおよそ二、三百人と言ったところであろうか。その大方が学者か教会の僧侶で、彼等は皆いつにも増して神妙な面持ちでドリトルの話を聞き取っている。
そしてその最前列には、彼の息子であるバールと、正装である黒のツーピースを纏ったシーナの姿があった。
バールが招待を受けた臨時学会は、延べ四日間にも及ぶ長大なものだった。
リンゲルでも極めて高名な学者や司教などが連日の様に訪れ、自らの提唱する理論に基づき壇上で熱弁を振るう。その主たる内容は、ブルー・ソリッドの研究活動を継続する事の可否と、研究室に持ち込まれたシグナスの処遇に関する物であった。
特にブルー・ソリッドの研究活動に関しては、継続を望む学者側と、廃止案を持ち出す宗教家側の間で意見が大きく分かれ、時折設けられたディスカッションの時間に至っては場内が紛糾寸前となる事もしばしばだった。賛否両論が矢の様に飛び交い、戦場さながらにいきり立つホール内、そして学会は全ての締めくくりであるドリトルの弁論へと移っていた。
「しかしながら、これだけブルー・ソリッドの研究が行われながら、国民の生活に対してそれが大きく寄与していないのが現状と言わざるを得ません。それは何故か……皆様はお分かりでしょうか? それは私共の研究が、文化レベル、そして軍事レベルなどに於いて、グロウ教団に勝利する事のみに注がれてきたためなのです」
両手で示す大きなジェスチャーに感情を乗せながら、ドリトルは徐々に声を強めていった。身体全体を使って語る彼に、聖堂内の人々は耳だけでなく目をも一点に傾けていた。
「我が国を大きく揺るがしてきた二度にわたる戦いも、長き時を経てようやく終焉を迎えました。平穏なる日々を得た私共がこれからどうするべきか……答えは一つです。私共は従来の勝利する事に固執した考えから、いち早く脱却すべきであるのです」
延べ数日にも及んだ学会を締めくくる重要な言葉であるため、ドリトルの口調にもいつしか熱がこもっていた。そして彼が今触れようとしている核心、即ち『ブルー・ソリッドの行方』について話が近づいていくにつれ、ドリトル、そして場内における全ての聴衆のテンションは、静粛ながらも盛り上がりを増していった。
「ブルー・ソリッドの種結晶であるシグナスは、『カーリス・エルド・フォニー』ことシーナ・モーガン女史のお言葉通り、山中へと永遠に封じる事と致します。しかしながら、ブルー・ソリッドの研究、開発は、新たなるエネルギー源としての可能性を見いだす意味で、これからも継続していく所存でございます」
張りがあり、そして真っ直ぐに伝わってくるドリトルの声に、最前列に座るシーナは微かに眉を動かし、そして肩を揺らした。
彼女の心が大きく揺り動かされた理由は二つあった。一つは、ドリトルが彼女の名を騎士としての通り名である『カーリス』のみならず、本名である『シーナ・モーガン』と呼んだ事。そしてもう一つは、ブルー・ソリッドの研究活動を継続するという、ためらいのない彼の発言だった。
シグナスが人の手に触れぬよう永遠に封じられる事と共に、シーナはブルー・ソリッドがこの大地から滅する事を望んでいた。むしろ、天上の騎士ジョルジュと共有するその願いこそが、戦争という物に幻滅していた彼女を再び戦地へと赴かせ、更にその背を押したと言っても過言ではないのである。
極限まで緊張の糸を張らせ、バールは横目で恐る恐るシーナの表情を見つめた。
自らの父が彼女の意志に相反する発言を続ける状況下に置かれた彼は、シーナの反応が他の何よりも気に掛かっていた。しかしバールの心配をよそに、シーナは表情一つ変えず、幾分澄んだ朱の瞳を壇上のドリトルに向けていた。
以前までの彼女なら、憤慨して早々と席を立つか、それとも椅子に当たり散らすかのどちらかであっただろう。だが彼女は平静を保ったまま耳を澄まし、ドリトルの話にじっと聞き入っているのである。バール達と共に戦の時を飛び越えた彼女は、明らかに以前までの彼女とは違っていた。
「私共は今日まで、軍事利用が第一目的である事を前提に研究を推し進めて参りました。その理由と致しましては、研究機関の中枢である『セントラル・ブルー・ソリッド研究室』が四星軍の直属機関であった事にあります。そこで、先日行われた教会内の会議に於きまして、セントラル・ブルー・ソリッド研究室を軍から分離独立させ、教会内の学術組織とする事がこのほど決定致しました。それに加えまして私共は、ブルー・ソリッドに関する軍事目的開発の凍結をここに宣言致します」
より高く、より強い声でドリトルがそう宣言すると共に、静まり返ったホールの聴衆はさらなる緊張に覆われた。全ての聴衆が国家の決断、そしてドリトルのさらなる言葉に食らいつく様に聞き入っていたからである。
「これまで幾度となく戦に用いられたが為に、ブルー・ソリッドは歴史に大きく傷を刻みつける事となりました。それは、技術において勝利する事のみに固執し、注力してきた私共の重大なる責任であります。全ての人々を等しく豊かにする為に、そして平和利用がなされる為に研究を引き続き行っていく事こそが、私共が大地と人々に尽くしうる唯一の手段であると私は考えております。それこそが、私共が背負う責任であり、同時に与えられた天命であります」
ドリトルはブラウンの瞳を手元の原稿に落とす事なく、扇状に並ぶ聴衆の方向も真っ直ぐな視線を伸ばした。
彼が最後に放った言葉は、あらかじめ彼が手元にまとめた原稿にはどこにも記されていない。即ちその言葉こそ、彼自身が心内に抱く信念を真に象ったものである。
ドリトルはシグナスこそ手放したものの、ブルー・ソリッドまでも手放す事はなかった。つまり彼は、戦にケリを付けたシーナの本意ではない道を敢えて選択したのである。しかしそれは研究への欲求に裏打ちされた物ではなく、彼自身の強い意志によるものだった。
ブルー・ソリッドと共に十数年の時を生きたドリトルは、端から見れば色気も何もない青い原石に対して何かしら宿命的な物を感じていた。それは後の伴侶である女性クリスティーナと出会ってから、幾分の時が経った頃の感情にどことなく似ていた。
『共に歩むと言う事は、互いの苦楽を共有し続ける事である』それが彼の信条だった。実際、リンゲルの街と霞む海を一望する屋敷の庭で、彼は若きクリスティーナにも、それに似た言葉を贈っている。彼が若き頃から抱えるその思いは、たとえその対象が人であろうとも、物であろうとも同じだった。
『そもそも、人がブルー・ソリッドと共に歩もうとする事自体が過ちなのだ』と、暗に囁く者がいる事は彼自身も十分理解していた。
確かに今まで人間達が歩んできた道は、過ちでなかったとは彼自身も言い切れない。しかし、ブルー・ソリッドが全ての過ちの元凶なのだと、彼は片時も思った事はなかった。人は人を選ぶが、物が人を選ぶ事はない。物の使い道を選ぶのは、いつの世も人なのである。
人が変われば未来も変わる。そう信じたからこそ彼は、ブルー・ソリッドと運命を共有する決心を固めた。それが、ブルー・ソリッドの父という名を受けた男の、敢然たる決意であった。
「……以上をもちまして、本学会を締めくくる言葉とさせて頂きます。ご拝聴頂きました皆様方、本日は誠にありがとうございました」
低く、そして噛みしめる様に彼が閉会の言葉を述べた後、会場は風が止んだかの様な静寂に包まれた。
学会は既に閉会したのだが、誰一人席を立つどころか声を上げる事も、手を叩く事もない。彼等はただ、ドリトルの顔を食い入る様に見つめているだけである。その異様な光景に戸惑ってか、彼は壇上に立ち尽くしたまま、ぼんやりと見つめていた。
パチ……パチ、パチ、パチ
ワアアアッ!
首を傾げながらドリトルが壇上から降りた瞬間、席に列を成す学者達、神官達の間からは割れんばかりの拍手と大歓声が沸き起こり、静かな足取りで脇を歩くドリトルを包んだ。
聴衆は決して彼の言葉を拒んでいたわけではなかった。ただ、彼が放つ力の籠もった発言に圧倒され、一時声を失っていたのである。
ドリトルが壇上に立つまでの数日間、多くの学者や僧侶が熱弁を振るったが、ブルー・ソリッドの処遇については話題を遠回しにしたり多くを語らないなど、誰もが肝心な部分で言葉を濁してきた。だが聴衆が何よりも求めていたのは、英雄であるシーナが望む通りブルー・ソリッドは封じられるのか、それともその意に反して研究が為されていくのか、その一点に尽きていた。
聴衆が求める核心にようやく触れ、さらに自らの志を語り尽くしたドリトルに注がれる拍手は、一向に衰える気配を見せなかった。
舞台の袖から徐々に中央に足を進め、ドリトルはようやく強ばった顔つきから笑顔へと表情を切り替えた。そして彼は壇の前で足を止めると、真っ先に傍聴席の最前列へと目線を合わせた。
「ありがとう、ありがとう……」
呪文の様に何度も呟き、ドリトルは左胸に手をそっと当て、深々と頭を垂れた。
彼の視線に飛び込んだのは、砂浜で砕ける波の様に一斉に拍手を送る聴衆と共に、席を立ったまま手を叩くシーナの姿だった。
「本当にいいのかい? これで」
真っ直ぐドリトルの姿を朱の瞳に収めたまま、シーナはひたすら拍手を送っている。その姿をまじまじと見つめながら、隣に腰掛けたままのバールは穏やかにシーナへと語りかけた。
バール自身もある程度は予想した事であったが、父ドリトルの発言は、彼女の意志に大きく反するものだった。終戦のほとぼりもまだ醒めやらぬ頃であるからか、いつも以上に歓声に沸く今この時も、バールの心はまだ緊張の糸でがんじがらめになっていた。今までずっと平静を保ち、穏やかに振る舞ってきたバールだが、実際のところはドリトルが壇上に経っている間もずっと、いつシーナが憤慨しないかと正直気が気ではなかったのである。
「確かにジョルジュは、この大地の平和を強く望んでいた。けれど、人々から生きる活力を奪う事まで、ジョルジュは望んでいたわけじゃない。アタシも今……同じ気持ちさ」
そんなバールの胸中とは裏腹に、シーナは柔らかい声色でぽつりと答えた。
鳴り止まぬ拍手。醒めやらぬ聴衆の歓声。その輪の中に加わるシーナの手も一向に休まらぬ勢いで、ドリトルに対する賞賛を打ち鳴らし続けていた。
街の中央にそびえる城壁の上には、二つの見張り台がある。
見張り台は北と南の二ヶ所に分かれており、兵士が常に入れ替わりながら昼夜に渡って見張りを続けている。
鳥のくちばしの様に城壁から突き出す格好の見張り台は見晴らしもよく、北側からは丘の麓をライトグリーンに染める新緑の森と、鉱山街が並ぶビータの山々を望む事ができ、南側からは商船が行き交う港と、黄色からマリンブルー、オレンジ、そして漆黒へと表情を変える海をその目に収める事ができる。そのせいか見張り台は兵士達からは北側、南側という方角でなく、山と海を司る双子の神の名を取り『ブリガディア』と『ジェラード』と言う符丁を用いて呼ばれている。
その山側にある見張り台『ブリガディア』には、今日も二人の兵士が腰を据え、城下や遠方の見張りを続けていた。
そんな彼等の目に一際鮮やかに映るのが、丘の裾に咲く色とりどりの花と、枝という枝に芽吹いたばかりの葉。そして、そんな春の匂いを醸し出す木々の間からは、苔生した石碑がひっそりと顔を覗かせていた。
「これは僕の母さんの父親、つまり僕のおじいさんだな」
雨にさらされ浸食した墓碑を手で優しくなぞりながら、バールはテンポの緩やかな口調で呟いた。
見張り台『ブリガディア』から真正面に見える丘の斜面には、木々の間を埋め尽くす様に多くの墓地が並んでいた。丘の一帯には、荘厳な装飾を施した貴族や富豪、神官達の墓から、名も無い無縁の墓まで大小様々な石碑が建ち並んでいる。
毎年春に行われる慰霊祭に合わせて人がひっきりなしに訪れるせいか、この時期になると墓碑は手向けられた色とりどりの花で次第に彩られていく。だが、既に夕暮れも近いとあってか、そこを訪れる人影はまばらである。
しかしその中に、手慣れた仕草で花を並べ、聖水を墓碑に注ぐバールと、神妙な顔で見つめるシーナの姿があった。
「見てみなよ、シーナ」
墓碑の上にかざしていた、銀の錫杖を持った手をぴたりと止めると、バールは彼のちょうど右側に建っている一際大きな石碑に目をやった。そんな彼の仕草を、黄色い花びらで片手を埋めたシーナは瞳で追いかけ、ほんの少しだけ目を細めた。
「…………」
シーナは瞼の間から薄く瞳を覗かせたまま、ゆったりとした足取りで墓碑の前へと向かった。
シーナの背を優に越す程の墓碑は大ぶりで、苔生した石肌に蔦が幾重にも絡まっており、長い時をこの丘で見つめてきた事を示している。そしてその中央にはシンプルな字体で「ジョルジュ・ランベルト・フェザック」と深く刻み込まれていた。
シーナは墓碑の前にしゃがみ込むと、片手一杯に持っていた黄色い花を一つずつ並べ、深緑色の蔦の合間を彩った。
「なんで……ジョルジュの墓碑がここに? ここはあんたの敷地なんだろう?」
「正確に言えば、僕の母さんの家の敷地だな」
錫杖を数度、風を斬る様に振り抜きながら、バールは平坦な口調で呟いた。
「僕の母さんの名は、クリスティーナ・アイリス・フェザック。四百年来の騎士の家系の出身なんだ」
「フフッ……そういう事か」
口元に軽く笑みと確信を浮かべ、シーナは小さく頷いた。
「どうりで……初めて会った時から、どことなくジョルジュに雰囲気が似てると思ったわけだ」
「残念だけど、僕には騎士ジョルジュの血は流れてないんだ。僕の母方の家系は、ジョルジュの実弟『ジャック・クライスラー・フェザック』の直系。騎士ジョルジュの血はもうこの世には残っていない……戦が終わり、このリンゲルに身を置いてからも彼は一生涯、独身を貫いたんだ」
「そう……だったのか」
透き通った声でシーナは言うと、ジョルジュの墓碑に絡まる、自らの辿ってきた道の如く曲がりくねった蔦に目をやり、目を数度瞬いた。
「アタシはやれるだけの事はやったよ、ジョルジュ。本当にあんたの遺志を果たしたのか、まだ時々分からなくなる事もあるけど、でも……でもさ、アタシはこれでいいと思ってる」
目を真っ直ぐに向けて遠き人への報告を済ませると、シーナは目の前にある墓碑に縋り付き、自らが並べた黄色い花びらの側に顔を埋めた。
「シーナ?」
震える声色でバールは短く問いかけたが、シーナからの呼応は返っては来なかった。
彼女はただ、墓碑を自らの腕に抱えたままで俯いていた。声を発するでもなく、嗚咽を漏らすでもなく。バールの目に映る彼女の背には、一時の安堵感と深い悲しみ、不安が入り交じった彼女の感情が見え隠れしていた。
「もし……この身体が砕け散って、この心が風に運ばれたなら……アタシはジョルジュの元へ行けるのかな」
か細く、弱く、面を上げぬままでシーナは声を上げた。それは彼女が胸に抱いていた、淡い祈りと願望の表れだった。
投げかける言葉が何も見当たらず、バールはシーナの側に歩み寄り、手を彼女の肩にそっと置いた。
シーナの肩口に触れたバールの手には、まるで白雪に触れたかの様な、ひんやりとした感覚が直に伝わっていた。
若葉に覆い尽くされた枝を四方八方へと伸ばす木々が、小石がいくつも転がる道の両脇を固める様に立ち並んでいる。
丘の麓に堆積した赤土が剥き出しになっているその道は暗く、唯一、密に茂った枝から射し込む木漏れ日だけが地面を疎らに照らしている。
斑模様の光の絨毯が続き、明るい街の風景へと抜けていくその道の上を、バールとシーナは俯いたままで足を進めていた。
「もう本当に……この地に留まるつもりはないのかい?」
小さく、ゆっくりと足跡を刻みながら、バールは呟く様に問いかけた。
「…………」
何も言葉を返さない代わりにシーナは自らの足を止め、バールに顔を向ける事でその意志を示した。
シーナの表情には猛々しさこそなかったが、決して瞳は萎れている訳ではなく、軽く結んだ口からも穏やかさがうかがえる程である。むしろ、自らの境遇を恨んで自暴自棄になっていた頃と比べれば、彼女の存在自体が遙かに輝きを増していると言っても間違いではなかった。
「言っただろう? シーナ・モーガンなんて人間は、もうとっくの昔に死んでるんだ。アタシはただ、冥府の力に引き寄せられてこの地に繋ぎ止められてる……それだけさ」
振り返るバールの目を見つめながら、スローテンポな口調でシーナはようやく口を開いた。
「そろそろ終わりにしたいんだ。『死せる言葉』をこの手に受けて」
「死せる……言葉」
「あんたしかいないんだよ、バール。アタシをこの大地から解き放つ事ができるのは、あんたしかいない」
戸惑いの色を露わにするバールの顔から目を離す事なく、シーナは言葉を続けた。シーナの瞳からは動揺の光は全くうかがえず、ただ痛切なまでの視線がバールに突き刺さっていた。
『死せる言葉』
シーナが不意に口にしたその言葉は、バールの心を強く揺り動かすのに十分な程だった。
死せる言葉とは、長き時に渡ってベルダールの神官達に伝えられてきた、古語による死者への語りかけをまとめ上げた詩の事である。一般的には葬儀の際に神父が死者に語りかける様に唱える言葉であり、神官や教会直属の研究官など、教会に関わる者ならば易々と口にできる程にありふれた物である。
だがその言葉にはもう一つ、シーナにとって重要な意味が隠されていた。
「アタシが唯一、苦しまずに空へと旅立てる方法……それがあんたの死せる言葉。あんたが呼び覚ました命なんだ。あんた自身の手で、アタシを永遠に眠らせてくれないか?」
幾分声を強め、シーナは心の内に置いてあった、たった一つの願いをバールに向けて放った。
シーナの言う通り、死せる言葉にはもう一つ、アルシアンに与えられたブルー・ソリッドの力を失わせ、再び塵へと帰させる力があるのである。その力を発効させる事ができるのは、アルシアンに命を与えた術者のみ。即ちシーナを安らかな眠りにつかせる事ができるのは、この世にバールただ一人なのである。
「そう、僕の責任だ。君にこの国の重責を押し付けた僕の……」
「……勘違いしないでくれ。アタシはあんたに感謝してる。あんたが呼び戻してくれなきゃ、あんたがいなきゃ、アタシはジョルジュの遺志を貫き通す事はできなかった。それに……自分自身を見つめ直す事すら叶わなかった」
強く言葉を噛みしめながら、シーナは感謝の言葉を立て続けに送った。
新緑の枝が、一時の風に煽られてざわざわと音を立てる。そして風は休む間もなく、道の中央に立ち止まる二人の髪を微かに揺らした。
「アタシは何者だったんだろう? カーリスだったのか、それともシーナだったのか……」
軽く息を吸い込むと、シーナは心中をそのまま吐露する様な、直情的な口調で再び語り始めた。
「僕は、君が過去どんな人間だったか、全てを知る訳じゃない。でも……今ここにいる君は、紛れもなく聖戦の時代を生きた女性、シーナなんだって思ってる」
シーナの言葉から間を空ける事なく、真剣な眼差しを向け、バールは穏やかな声で言い、口元を軽くほころばせた。それは決してシーナを安堵させるための綺麗事ではなく、バールが抱いていた率直な思いだった。
「いや……どちらでもない様な気がする。ひょっとしたら今のアタシは、もう一人の『シーナ』なのかも知れないな」
うつむき加減の表情で、シーナはぽつりとそう答えた。
彼女はアルシアンとしてこの地に降り立ってからずっと、自らが何者であるかという疑問を抱き続けていた。第一、シーナという自らの一面を押し隠し、英雄カーリスとして生きてきた彼女にとって、それはあまりに酷な物だった。
自らの過去、心境をバール達に向かって吐露した事により、彼女の心にへばりついていたわだかまりはいつしか消えていった。しかしシーナの心には、また新たな疑問が浮かび上がっていた……シーナとしての自分は、今も生きているのかと。
むしろ、戦を終えた今のシーナは、力のみをただ追い求め、目前の敵兵を駆逐する事に全てを磨いていたカーリスでも、恐怖におののき、月下で震えていた以前のシーナとも異なっていた。バールやクエイダルを始め、ポーラの人々と突き進んだ日々が、不器用だった彼女をここまで変貌させたのである。
彼女自身、自らが成し遂げた変貌を、はっきりとした感触として肌で感じていた。だからこそ、今の自分が本来の自分であるかどうか、疑心を抱く結果となっていた。
だが彼女にとって、今はそんな事は些細な引っかかりに過ぎなかった。それよりも彼女が感じていたのは、誰がなんと言おうと今が『最高の自分』である、ただそれだけだった。
「シーナ・モーガンは死の恐怖に怯えながら、カルシュの湖岸で息絶えた。カーリス・エルド・フォニーは、この国の英雄として人々の記憶に残った」
唱える様にシーナは呟くと、肩を軽く揺らしながら地面を踏みしめ、数歩先に佇むバールの前へと足を進めた。
足並みも穏やかにゆっくりと近づいてくるシーナに、バールはすぐさま目を合わせた。切れ長のシーナの瞳には以前の様な刺々しさは弱まっており、沈みゆく太陽に似た静寂が静かに光っている。
そのまま彼女はバールの真正面までたどり着くと、微笑みながら両手を彼の背に回した。
「…………!」
バールが目を狼狽の色に変える間もなく、シーナの唇は彼の唇と重なり合っていた。
途端、バールは唇から伝わる、柔らかく冷たい感触を得た。それだけではなく、背から首の後ろまで登ってきた彼女の両手からも、温かい血潮の通わない、細い指の冷たさが直に伝わってきた。
昂揚する精神とは裏腹に冷えてゆく身体に翻弄されたまま、バールは何もできずただ呆然と立ち尽くした。
「ほら……焼き付いただろう?」
十数秒の沈黙の後にシーナは唇を離すと、目をほんの少し細めたままで、紅潮しているバールの顔を見つめ、物静かにそう言った。
「もう一人のシーナ・モーガンは、あんたの心の中に焼き付いて残像になる……それで十分だ」
言葉の最後を弱めてそう言ったきり、シーナは振り向きながら再び街の景色を望む方角へと歩き始めた。まだ唇に冷たい感触を残し、心が浮遊したままのバールもまた、地面に突き刺さった棒の様に止まっていた足を進め、彼女の後ろ姿を追った。しかし、
「あの子の気持ちに……気づいてるんだろ?」
背を向けたまま不意に放ったシーナの言葉に、バールはぐらりと肩を揺らし、再び足を止めてしまった。
「あの子って……」
『エミーナの事かい?』と発する寸前で、バールはそそくさと言葉を飲み込んだ。彼はそのまま素知らぬ顔で振る舞ったが、シーナは彼の言葉の続きを容易に見透かしているのか、小さく息を吐いた。
「気づけばいつも側にいるのに、いつまで経っても答えを待ってなきゃいけないなんて……もどかしいんだよ」
後方で立ち止まるバールに目を向けぬまま、シーナはぽつりと言い放った。
その言葉はバールに対する余計な節介でも冷やかしでもなく、自らが抱いていた想いの塊を言葉として吐き出した物。それは時の波間を越え、ジョルジュという一人の男を想い続けてきたシーナの穏やかなる叫びだった。
しなやかな腕を、ディープブルーの髪を揺らしながら道を下っていくシーナ、そしてその後ろ姿を、眼球を絶えず動かしながらただ見つめるのみのバール。
二人の間に、誰も遮る事のできない風が吹き荒んだ。
その日は雨だった。
色が剥げ、焦茶色に腐食した旧聖堂の屋根を、小粒の雨が不規則に叩く。雨は大降りとも小降りとも言えず、若葉に覆われた枝を、高い草が茂り始めた地面をじっとりと濡らしている。
「今日でもう……お別れなんですね」
屋根の端から滴る雨垂れに目をやりながら、物憂げにエミーナは声を上げた。
裏側の通用口の前に張り出した軒下に佇むエミーナは、法衣の袖についた雨露を払い、小さくため息をついた。そして彼女の隣には、二度目の生を受けた時と同じ白の法衣に身を包んだシーナと、いつもと同じく銀尽くめの装いでやってきたクエイダルの二人が、くすんだ白色の柵に手を掛けて立っていた。
「バールは……どうした?」
「今、祭壇でサラやエディー君と一緒にいますよ」
「そうそう。そう言えばさっき、アシュレイ大臣も急いで駆けつけてたぜ。多分、バールさんと一緒にいると思うけどな」
雨音に掻き消されそうな声でぽつりと呟いたシーナに、エミーナとクエイダルが立て続けに答えを返した。その呼応を受けてシーナは、軽く首を縦に振る事で相槌を打った。
「アタシには……死んだ姉さん達の他に、妹が一人いたんだ。フローネって言って、七つ歳が離れた小柄で華奢な子……フローネと別れた日も、こんな雨の日だったな」
視線を地面の上にできた水たまりへと移し、シーナは誰にともなくぽつぽつと語り始めた。とりとめもなく続くその言葉に合わせる様に、軒から滴る雨垂れが幾筋も落ち、軒下に溜まっていった。
「『シーナ姉さんもいなくなっちゃうの?』って、リンゲルへ向かう日の朝、フローネはそう言ったんだ。アタシは『そんな事ない。この戦争が終わったら、アタシは絶対に帰って来る』って、フローネと約束したんだ……結局はその約束すら守れずに、フローネを裏切る結果になってしまったけど、でも、その約束も、今は果たせた様な……そんな気がするんだ」
そこまで達した所で一旦話を区切ると、シーナは自らの左隣にいるエミーナの顔に目を向け、まじまじと見つめた。それに戸惑ってか、エミーナはただ目を瞬くだけだった。
「そっくりなんだよ……エミーナ。あんたとフローネ、華奢な身体も、ブルーの瞳も……もしアタシが聖戦で生き残って、もう一度フローネと会えたなら、きっとこんな姿だったんだろうな」
目を細めながらシーナは、右手でエミーナの肩を抱え込み、その白い頬をゆっくりと撫でた。それが気恥ずかしいのかエミーナは軽いはにかみを浮かべたが、頬を撫でる冷たい手を取り、問いを返す様に優しく握り返した。
「あんたとは会うべくして出会った、そんな気がするんだ、エミーナ」
「シーナ……さん」
何度も目を瞬き、笑みを浮かべたままの表情で俯いてしまったエミーナの手を離し、シーナは今度はクエイダルの方に目を向けた。
「世話になったな、クエイダル」
「へへっ、楽しかったぜ、シーナ」
張りのある口調で声をかけるシーナに、霧の様に飛び交う雨で湿った髪を掻き上げながら、クエイダルは笑い飛ばす様に言葉を返した。
「俺達はいつも、英雄カーリス・エルド・フォニーを尊敬してた。でもそれって結局、あんたを力の象徴としてしか見てなかったんだよな。でも今は違うぜ……あんたはただ力を示すだけじゃなくて、騎士という一人の人間がどうあるべきか、その身で俺に教えてくれた。シーナ……あんたは俺達ポーラの騎士にとって、誇るべき最高の英雄だ」
言葉が進むに従って次第に声を強めながら、クエイダルはシーナを褒め称えた。いつものおどけたクエイダルには似つかわしくない程、引き締まった表情と共に飛び出す賛辞の言葉は決して世辞ではなく、嘘偽りない彼の本心だった。
「英雄……か」
「そんな複雑な顔しなくてもさ。素直に喜んどきなよ」
ぽつりと呟くシーナに、再び顔の表情を崩してクエイダルは答えた。
自らが英雄と呼ばれる事に今まで激しい嫌悪を感じ続けていたシーナは、彼が『英雄』という言葉を使う事に引っかかりを感じていた。だが、クエイダルはこの国を二度救ったという過去の栄光だけではなく、彼女の内面全てをひっくるめて彼女を英雄と呼んだのである。
ようやく心の解れがとれたのか、シーナは幾分目尻を下げ、微笑を浮かべた。
「あんたもこれから歩んで行くんだろう? 英雄としての道を……」
「まあ、誇らしくもあるけど、正直言って不安だよな」
「アタシは分かってる。英雄として生きる道は平坦じゃない。栄光を積み上げていけばいくほど、民衆の前で無様に敗れる事は許されなくなるんだ。だけどな、クエイダル……自分の道標だけは視界から逃すな」
艶のある焦茶色に光るクエイダルの瞳を真っ直ぐに見つめ、シーナは更に言葉を続けていった。当のクエイダルもそんな彼女から目を反らす事なく、時折相槌を打ちながら彼女の話に耳を傾けている。
互いに笑みを浮かべ、一見しただけでは朗らかな語らいの様にも見えるが、シーナとクエイダルの間では激しい言葉のやり取りが続いていた。
「あんたが人である限り、民衆が望む様な完璧な存在にはなれやしないんだ。たとえ不器用でも、些細な事でつまずいても……それでもいいから、あんたはあんたの道を貫くんだ。民衆が想いを託した旗頭としてな」
「……その言葉、しっかり胸に叩き込んどくぜ」
白く艶やかな歯を見せ、クエイダルが軽やかに返答したその時、
「ここにいたのか、シーナ」
不意に耳馴染んだ声が聞こえたのに気づき、シーナは肩をピクリと動かし、続いて通用口の方に向かって顔を動かした。
「準備……できたのか?」
その声の主は無論、大聖堂の壇上に立った時と同じ、涼風と青波を表す波形の、青い刺繍入りの法衣を着たバールだった。
物すら言わず、ただシーナを迎えるかの様に立っているバールに彼女は小さく微笑みかけると、白い法衣の裾が濡れぬよう捲り上げながら彼の元へと歩いていった。
祭壇にはシーナが降り立った時と同じ様に、大きな白布がすっぽりと覆い被さっている。そしてその上には、バールから差し出された煎薬を飲み、深い眠りに落ちているシーナが横たわっていた。バールもまた、以前使っていた物と同じ金色の輪がついた錫杖を握り締め、口を真一文字に結んでいる。
その周囲にはクエイダル、そして多忙なスケジュールに穴を空けてまで駆けつけたアシュレイ、更にはバールの補佐を務めるエミーナ、サラ、エディーの三人が、押し黙ったまま輪を成していた。さらにその後ろには、国王ケンマール十四世やベルダール教会の聖主をはじめ、各界の要人達がそれぞれの正装に身を包んで並び立っていた。その中にはバールの父ドリトルや、海運王レオポルドの姿もあった。
彼等が声を上げる事はなく、一人祭壇の前に立つバールの袖が擦り合う音、そして絶える事のない雨垂れだけが辺りに響き渡っていた。
シーナが再び眠りにつく事は既にリンゲルの街中へと知れ渡っており、大小ありとあらゆる教会は勿論の事、民衆の家庭でも弔いの炎が焚かれていた。これほどに街が厳粛な空気に包まれるのは、先の国王ケンマール十三世が崩御した時以来の事態である。
だが、一番側でシーナを見守るクエイダルやエミーナ達の顔には、不思議と沈痛な表情は欠片も見当たらなかった。より多くシーナの側にいたからこそ、彼女はただ悪戯に死に行くのではない事を深く理解していたからである。
腰に提げた金色の錫杖を引き抜くと、バールは安堵の眠りについているシーナの顔へと目を落とした。そして、その顔立ち、姿を瞼に焼き付ける様に凝視した後に、錫杖を高く掲げたまま手を止めた。
孤独な道を行く者よ
死へと誘われし者よ
汝、風となりて草木を撫で
汝、光となりて大地を照らし
汝、水となりて生命を繋ぎ
汝、闇となりて休息をもたらし
汝、炎となりて力を与え
汝、土となりて実りを育み
汝、心となりて人を支え
汝、想いとなりて我らに芽吹く
孤独な道を行く者よ
その道に果てが見えたなら
汝、我らと共に在り
我ら、汝と共に在る
静かな……そして柔らかな口調で、バールは精一杯の死せる言葉をシーナに贈った。抑揚も少なく、口調も決して激しくはないが、その言葉にはバールが放つねぎらいの感情が端々に込められていた。
バールが口を閉じ、錫杖を再び腰へ戻そうとしたその刹那、
「おおっ?」
「これは……」
バールの死せる言葉と入れ替わる様に、傍観していた人々の間からは口々にどよめきの声が上がった。
透き通った白いシーナの肌は青く輝きだし、やがて祭壇を照らす灯火となった。そして、その静かな光は空中へと染みだし、シーナの身体の上へと集まって一つの塊を成したのである。
カァン!
続いて響き渡った、石の塊を互いに強くぶつける様な音色。そして声とも叫びともとれない程の、人々のどよめきが後に続いた。
シーナの上に浮かんでいた塊は、一瞬の音色と共に砕け散り、空気の中に混ざる様に掻き消された。それと同時に、光を失ったシーナの身体も、瞬時にして跡形もなく消え去ったのである。
祭壇の前に立つバールの視界には、白布の上に残る一欠片の首の骨だけがぽつりと残っていた。
左側が剣の傷によって欠けてしまった一欠片の骨。つい先程まで共に語らい、生を共にしていた存在が、今はこんな小さな骨片になってしまっている。今、目の前にある現実を痛感する様にバールはため息を吐くと、シーナの骨片をその手に取り、赤い布が敷いてある箱の中に収めた。
祭壇の上には純白の布。その他には何もない……そして静寂だけが後に残った。
「馬車の手配をしてくれないか……三人とも」
骨箱を右手で包み、バールはトーンの落ちた声で側にいた助手達に声をかけた。
「どこ行くんだい? バールさん」
戸惑いに満ちた声色で、真っ先にクエイダルがバールに問いを投げかけた。足音も立てずバールは振り向くと、幾分光沢を失った瞳でクエイダルを見た。
「最後の仕事がまだ残ってます。この骨を……騎士ジョルジュの墓へ運ぶんですよ」
その日、弔いの炎はリンゲルの街から消える事がなかった。雨は降り止む事を知らず、ただひたすらに大地を濡らした。




