68・シェイプシフターの弟 1
第二章と第三章の間になりますので、サブタイトルは続き番号になっています。
アーリー視点だけなので、特に読まなくても本編には関係ないような気もします。
余談になりますが、
いつも誤字報告には感謝しております。
意図的にやっている部分もありますので、
内容に関しましては活動報告にも書いてありますので、そちらをご確認の上お願いします。
今後とも生暖かくお許しいただけると助かります。
ある王国の南の果て、小さな島。
そこで産まれた子供がいた。
「こら待てっ、チビ」
瘴気と魔力が混在する森の入り口で、小さな子供が人相の悪い男たちに追いかけられている。
「リブー!」
「アーリー、こっちだ」
追いかけられていた子供はザザザッと草の中に紛れて姿を隠す。
それを木の上から見下ろす、もう一人の子供。
「あ?、なんだ、同じ顔が」
脚を止め、見上げた男たちに向かって木の上にいた子供が真っ直ぐに手を伸ばし、スイッと横に払う。
「ぐあああ」
「ぎゃっ」
「な、なんだこりゃ」
血を吹き出した男たちが倒れ、もがき苦しむ。
「アーリー、おじさんを呼んで」
「うん」
「ああ、ここにいるぞ。 イーブリスは魔法の腕を上げたな」
大人の男性にしては小柄な見窄らしい中年の男が近付いて来た。
「まだダメだ。 危なくて人がたくさんいるところじゃ使えない」
風の魔法を放った子供が自分の手を見ながらため息を吐く。
「おじさん、この人たち、わるい人?」
身を隠していた子供が出て来て小柄な男に話し掛ける。
「ああ、お前を捕まえようとしていただろ?」
その子供の頭を撫で、小柄な男は倒れた男たちの荷物を漁りだした。
「金目の物はこれだけか。 まだ魔獣のほうが金になるな」
「まだふねには乗れない?」
「そうだな。 三人で船に乗るだけじゃなく、その先の移動もあるからな」
木から降りて来た子供が倒れた男たちを見る。
「あ、あく、ま」
子供にそう言って男は命を閉じた。
「悪魔じゃないよ、人間でもないけど」
その子供の呟きは誰の耳にも届かなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
僕は、島を出た船の中でリブに訊いた。
「どこにいくの?」
「きっとアーリーの好きな、美味しいものがたくさん食べられるところさ」
そう言って微笑むリブ。
同じ顔、同じ金色の髪に鮮やかな青い目をした僕の片割れ。
あの頃はいつまでもこうして二人で居られることを疑いもしなかった。
小柄なおじさんと別れ、僕たちは違う男に連れられて子供がたくさん居る場所に来た。
「べんきょう?」
文字や数字、食事の作法なんかを教えてもらう所らしい。
周りにいる子供たちは皆、僕たちより年上で、何でも同じことをしなくちゃいけない。
リブはすぐに出来るようになったけど、僕は下手だから、そこに居る子供にも大人にも虐められた。
「ねえ、リブ。 まほうって、ぼくでも使える?」
段々と自分の中の嫌な気持ちを抑えられなくなって、眠れない夜、僕はリブに訊いた。
「アーリー、僕の真似をしていれば大丈夫だよ」
リブはそう言って笑ったけど魔法は教えてくれなかった。
「心配しないで、アイツらは僕がやるから」
僕は頷き、リブに任せて眠る。
二人で抱き合っていると気持ちが安らぐ。
モヤモヤした嫌な思いも、いつの間にか消える。
僕より何でも上手く出来るリブ。
すぐに誰も僕を虐めなくなった。
ある日、お城のような大きな家に来た。
僕がキョロキョロしているうちに、今まで一緒だったおじさんがいなくなり、リブと二人で残された。
その家の中を、若くて綺麗な顔のお兄さんと歩いていたら、突然、リブが倒れる。
「リブ!、リブ!」
僕は抱き上げられ、リブから引き離されてしまう。
「大丈夫ですよ、すぐにお医者様がいらっしゃいますから」
メイドという優しいお姉さんが僕を別の部屋に連れて行った。
「今日からここがアーリー様のお部屋ですわ」
なんのことか分からなかったけど、何日も何日も僕たちはその家から追い出されず、虐められることもなかった。
美味しいものをたくさん食べて、清潔な服を着て、おもちゃもたくさん貰った。
だけど、リブはベッドで寝ていることが多くなる。
「どうして?」
「今までと環境が違い過ぎて身体がついていけないみたいだ」
リブはそう言って笑うけど、笑い事じゃないよね。
その時、僕は初めて、リブが居なくなってしまったらどうしようって思った。
優しい人たち、美味しい食事、安全な家。
欲しかったものが揃ってる。
もう僕を守るなんてしなくていいんだってリブが気付いてしまったら、僕はどうすればいいんだろう。
五歳の誕生日。
可愛い女の子たちがやって来た。
今まで同じ歳の子供を見たことないし、女の子なんて何を話して良いか分からない。
「リリアンとヴィオラよ。 あなたたちも双子なのね」
お互いに同じ顔の片割れがいる。
彼女たちと僕たちは同じだ。
そう思ったら、目の前の女の子が何故か僕自身と重なる。
しっかり者の姉がいても頼ったりしない。 元気で我が儘な妹リリアン。
ちゃんと思ったことを言葉に出来る彼女は、いつか僕がそうなりたいと思う姿を見せてくれる。
彼女は僕だ。
『もしリブがいなくなったら』なりたい僕だ。
僕はリリーを、もっともっと近くで見ていたくなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
バチンッ!
「え」
「急に女の子の手を握るなんて、失礼よっ」
リブにするみたいにリリーと手を繋ごうとして、僕は引っ叩かれた。
もちろん、最初の頃はあんまり良く分からなかったけど、六歳になった今ではだいぶ仲良くなれたと思っていたのに。
「アーリー様、女性に触れる時は注意が必要でございます」
メイドのお姉さんにも怒られた。
「どうして?」
「相手の方が嫌かも知れませんでしょう?」
リリーは僕が嫌いなのか。
僕の目にじわりと涙が浮かんだ。
辛いことや嫌なことがあっても、僕もリブも今まであまり泣いたことが無い。
それはきっと泣いたってどうにもならないって知ってたから。
この家に来て、ずっと甘やかされて、僕は泣くことを覚えてしまった。
「では、ダンスを習うといいですよ、坊ちゃま」
メイドのお姉さんが慌てて考えてくれた。
「だんす?」
「はい。 こうやって男性と女性とで音楽に合わせて踊るんです」
手を握られて振り回されるようにくるくる回る。
これなら堂々と手を繋げるんだって。
「リリーも嫌じゃない?」
「ええ、ダンスは貴族の嗜みですもの」
よく分からない言葉はあったが、ダンスならリリーに触っても良いらしいことは分かった。
ダンスを習いたいとお祖父様に言ったら、すぐに許可が出て、先生とか衣装が準備される。
別の日に、僕はリリーたちも一緒に習えるようにお願いした。
「ええっ、私たちも?」
リリーは驚いて、ちょっとだけ僕を睨んだ。
「う、うん。 僕はダンスの練習を始めたけど、ほら、同じくらいの練習相手がいたほうが良いって先生が」
説明したらヴィーは乗ってくれた。
「私たちにも教えてくださるの?。 すごいわ、リリー。 ぜひ、お願いしましょうよ!」
そう言って、ダンスの授業は彼女たちも一緒に公爵家で受けることになった。
ある日、リブだけが王子様に呼ばれて城に出掛けて、一晩、帰って来なかった。
僕はちょっとだけ寂しかったけど、翌朝にはリブはちゃんと帰って来てたから安心する。
だけど、それが大事件だったなんて僕は知らなかったんだ。
リリーがヴィーを連れてお見舞いに来た時、珍しく僕の部屋に来て話してくれた。
「イーブリス様が国王陛下を殺そうとしたらしいわよ?」
嘘だ、そんなこと、あるわけない。
だけど、その後、お祖父様も王宮の仕事を辞めてしまう。
それは、僕が一番恐れていたリブが僕から離れて行く予感。
「アーリーは魔法を使いたかったんだよね」
突然、リブはそう言い出して僕に魔法を教えてくれた。
ちゃんと使えるようになるまで何度も繰り返し、丁寧に教えてくれる。
分かってた。
これから、僕は自分で自分を守らなきゃならないからなんでしょ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
僕はいつの間にか、部屋にあったぬいぐるみを何体もバラバラに引き裂いていた。
リブが「話がある」と言って僕の部屋に来て、メイドたちを下げる。
そして淡々と、自分は人間ではなく、僕の母親に頼まれたから今まで護衛をしていたと告白した。
「僕はシェイプシフター、身体を自在に変化させることが出来る魔物だ」
そして、これからは僕だけが公爵家の跡取りとして、この家に残るのだと。
僕は信じたくなくて、その後もいつも通りに振る舞い続ける。
だけど三ヶ月後、穏やかな春の日にリブは行ってしまった。
僕は、お祖父様から貰ったリブの日記帳に鍵を掛ける。
もう決して誰にも渡さない。
僕は人間だけど、シェイプシフターという魔物の、愛する片割れがいる。




