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朱紅をむすぶ  作者: 十七二
第一章 少女が死んだ日
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#005 混迷

 いよいよ私の頭の中は混迷の最中に完全に打ち捨てられてしまった。カオスとは今のこの脳内を表わすために創られた言葉なのかもしれない。


 時間を取り払うとはどういう意味だろうか。似たような状態と言うのだから、この男やネフ、ルア、城に住まう者たちのように不老不死にでもしてくれるのだろうか。だとすれば素直に喜べないような気がする。


 永遠に老いず死なずというのは、普通の人間なら一度は夢見るのだろう。しかし私は現状の生に対してそんな欲望を抱くほどに不満がある訳ではない。むしろ退屈で、こんな生き方が永久に続くことなど考えたくもない。


 死にたいほど苦痛なわけではない。けれど何も望むものがないから、与えられることを想像しても、喜ぶことができない。


 そしてまた「恒久的にそれを全う」という言葉も気がかりだ。

 私を「王の剣」という役職に就かせ、半永久的に使いつぶすつもりなのではないだろうか。そうなれば今の退屈が魅力的に思えるほどの苦痛が待っていることも考えられる。


 この男にはどうしても理解しがたい側面があるように思う。だから進んで自分から首輪をかけられに行くようなことはしたくない。それが過ぎた空想だとしても、私は今から踏み出さないことが最大の安全策だと考えてしまう。


 確かに私という命を掬い取ってもらったという恩に近い感情は在る。何の偶然か、私は城の中で拾われた。そして男は――ほとんどはルアのおかげだが――きちんと今まで育ててくれた。その代価として何かを見返りを考えていたということもあるのかもしれない。だから、この男に対して好意的な感情のほとんどがなくても、その言動全てを否定したいとは思わない。ゆえに今まで、何かを頼まれても基本的に断るようなことはしてこなかった。


 しかし、それにも限度はある。育ててくれたことへの感謝だけで、私の全てを差し出すかと聞かれれば、安易に首を縦に振るのは難しいというものだ。


 なにより私はこの城で育ったというだけで、根本的には城の者たちとは異なる存在だ。彼らのことは詳しく知らないが、彼らの中で生きていくことが難しいということはわかる。神の中で永久に生きるくらいなら、たとえ人間社会で私が暮らしたことがないとしても、まだそちらで生涯を全うする方が性に合っているのではないだろうか。


 何度も思案し、いよいよ何を考え、答えを出すべきなのかがわからなくなってしまった。

 そんなことを知ってか知らずか、男は私の肩を叩いた。意識が引き戻され、顔を上げる。考えていたことが読まれているとわかっていながらも、表情だけは崩れていないことを願った。


「大丈夫か?」


 いやに涼しい声だった。その取り繕ったお手本のような言葉が私を逆撫でる。


 知っているくせにと、心の中でまた悪態をついた。


 勝手に私の中を覗き、勝手に心配をする素振りを見せることがむしろ人を苛立たせることがわからないのか。それともわかっていながら、気遣う態度を見せることがこの男にとっての理想なのか。どちらにせよ、やはり私はこの男が好きになれなかった。



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